バスでやらかしました

 お出かけにはトラブルがつきものだ。
 私ひなちゃん夫の3人でバスに乗った時のこと。乗り込んだバスの中は混んでいた。
夫にはベビーカーを持ってもらっていた。私は右手に白杖、左手につり革を持ちだっこひもでひなちゃんを抱え立っていた。
すると、すぐに近くの席を親切なおばちゃんらしき声の方が譲ってくださり私は座ることができた。
ひなちゃんをだっこしてバスに乗車する際、座席に座れるのは正直ありがたい。ひなちゃんを抱え重心が傾くと、片手に持ったつり革一つでバランスを取り続けることにはかなり体力を使う。
信号やカーブに差し掛かる度にヨタヨタと体が揺れる。特に混んだ車内では人に当たったり、ひなちゃんを手すりにぶつけたりしないよう注意を払い続ける必要もある。
座席に座れるとこのような心配から一気に解放される。
 座れて良かったとほっと一息ついた時、夫も誰かに席を譲ってもらったようで私の一つ前の席に座ってきた。それからはひなちゃんが泣きだすこともなく目的地まで無事到着したはずだった。
ところが、バス停で降り夫が焦ったように教えてくれたことでぜんぜん平穏なバス旅ではなかったことを知った。
 バスに乗り、私が椅子に座ると夫は私の肩をポンポンとたたき
「椅子に座れてよかったなあ。助かったなあ。」
などとしばらく話しかけていたとのことだった。すると不意に
「あ、席変わりましょうか?」
と知らない人の声が聴こえたそうだ。どうやら夫は、私が座った位置を勘違いし、私の一席前に座った知らない人に話しかけ続けていたのだ。
人違いにすぐ気づけなかった原因は私が着ていたコートにもあった。その日私はウルトラライトダウンを着ていた。このコートはユニクロでよく売られているもので、偶然にも私の前に座った人も全く同じ触りごこちのコートを着ていたのだ。
肩に軽く触れても人違いに気づけなかったことにもうなづける。
 目の見える人だと待ち合わせ相手と似たような背格好の人を呼び止めたり、話しかけそうになったりした経験はあることだろう。私たちは似たような服の触りごこちや人の声で、そんな人違いをしてしまう。
 今回の知らない人もさぞかし驚いたことだろう。バスで席に座っていると、急に白杖を持った男に肩をたたかれ
「座れてよかったなあ!」
などと話しかけられたのだから。席を代わらざるを得ない状況に追い込まれたように思うことだろう。もちろん夫には席を代わってもらおうなどという気は毛頭なかったのだが。
こればかりは本当にどうしようもない。図らずも席を代わらせてしまった方には申し訳なく思うし、夫には
「まあ、時々あるよなあ、そういうこと。」
と激しく共感するばかりだ。
 この人違い事件を受け、今は肩部分にワッペンをつけたり、珍しい触りごこちの素材・デザインにしたりと、触れただけで私だとわかる特徴的なコートに変えることを鋭意検討中だ。

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