言ったって仕方のないことだけど

 私は昔からとにかく「気合で」とか「頑張る」とかいうことが苦手で、気合の足りない頑張れないタイプの人間だった。
一般的な人の馬力が普通車くらいなら私は一才改造もしていない原付くらいの馬力くらいだ。そのため問題やタスクは根性でなんとかやり過ごすよりも、日々頑張らなくていい程度に取り組めるよう計画を立てたり、より簡単にかつ楽にこなしていく工夫や方法を編み出したりする方が好きだった。
 ところが子育て中には、なんの解決策も見出せない、いわばしかたのないことが意外とたくさんあることに気づいた。なにしろ赤ちゃんというのはこの上もなく自由気ままに過ごしておりこちらがどれだけ計画を立てようとも1ミリも従おうとはしない生き物だったからだ。
そんなこと初めから分かっていただろうと言われればそれまでなのだが、愚かなことに当初の私は今のこの状況まで想像しきれていなかったのだ。
 そんなどうしようもないことを列挙するうちに私の不平不満リストができてしまった。
 まず寝不足だ。夜中少なくとも3回はひなちゃんが
「ウギャー、ウギャー」
と泣き出す。その度に起きて再び寝かしつけなければならない。まとまって睡眠が取れないと普段から疲れやすくなり考え方もマイナスになりがちだ。
 では昼間に寝ればよいという意見もあるが、それも意外と難しい。
はいはいで動き回り、なんでも口に入れるひなちゃんを放置してはおけないし、少しのひなちゃんのお昼寝時間には家事などをしておかなければならない。1日に2回から3回は着替えをするひなちゃんの洗濯物もどんどん洗っていかなければ着る服がなくなってしまうし、毎日ベビーフードというわけにもいかないので、離乳食も作っておかなければならない。
 そうしている間に昼寝でフル充電されたひなちゃんが起きだし、再び活動を開始する。
 次に孤独だ。特に夫が出張でひなちゃんと二人でいると、人と会ったり話したりすることは少なくなる。
 あまりにも日常会話のできる人と会っていないと(あれ?どうやって話を始めればいいんだったっけ、そもそも何を話そうか?)と考えるようになり、著しいコミュニケーション力の低下を実感した。
 ひなちゃんとお出かけして誰かと話すきっかけを作ろうかとも考えたが、二人で出かけるというのもなかなかに大変で結局近所のスーパーに行くくらいで済ませてしまう。
 次に気を抜ける瞬間がないことだ。
 特にひなちゃんと二人だけでいる時には危険行為を行なっていないか危ないものは持っていないかと気にし続けなければならない。
口をモグモグしていれば、包み紙の端切れや、ガムテープのかけらなど喉に詰まりそうな危険物を隠し持っていないか確認をしたり、ペンや爪切りなど赤ちゃんには所持を認めていない道具を携帯していないかと手のひらまで調べたりと、飛行機に乗る前の保安検査のように厳しくチェックする。
寝ているときもうつぶせになっていないか定期的に確認に行く。趣味の読書や映画鑑賞、料理などからも遠のきつつある。
 優秀な子育て経験者たちは
「過ぎればあの頃は子どももかわいかったし楽しかったなーって感じるよ。」
とか
「今だけだから。」
と励ましてくれるが今この瞬間に格闘している自分からするとなんだか昔を懐かしむ遠い卒業生の小さなささやきのようにすら聞こえる。
 もちろんひなちゃんはとても大切でかけがえのない存在であることに変わりない。
ただ子どものかわいさが疲労感や孤独感すべてを吹き飛ばしてくれるなんてことはない。
 ひとまずその日1日どうにかひなちゃんを健康に過ごさせるただそれだけで精一杯なのだ。

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