練武知真 第9話『周囲に流されない為の武術』
「時代の流れに取り残されないように」
「流行りに乗り遅れないように」
「今はこういう時代だから」
そういう言葉をよく耳にします。
時代の流れをよく読み、
流行に目を向けることは、
自分を効率よくアップデートし、
目標をよりスムーズに達成するのに重要なことだと思います。
武術においても、
基本の技を学んだら、その応用変化を学び、
様々な状況に対応できるように自分を高めてゆきます。
時代とともに変化する様々な戦闘スタイルを観察し、他の武術を学び、研究を重ね、新たな修行法を編み出してきました。
例えば、中国伝統武術・形意拳にはこのような逸話が伝わっています。
形意拳の元となった武術の創始者の話。
「戦時においては【槍】をもって生き抜くことができた。
平穏の世になって【槍】をもって出歩くことはなくなった。
しかし、その世において、不意な襲撃にあった場合、どう対処するのか?」
そう考えた創始者は、
【槍】の操法をもとにして、
【拳】の技術を創造した・・・
「槍法の理をもって、拳と為す」
形意拳の歴史の始まりです。
世の時流に応じた対応は他にも見られます。
平時において【武術】の社会的立場は、実はそれほど高くはなかったと思われます。
個人や施設、商隊などの護衛や警備など
他人に雇われる仕事が多かったと聞きます。
しかし、
当時尊ばれていた【道教哲学】を理論として取り入れることによって、文化人の支持を得ることができるようになります。
太極・陰陽・三才・五行・八卦などなど。
それによって、武術は理論をもって体系化され、
武人のみならず、文化人の間にも広まってゆくことになります。
このように武術というものは、常に世の状況をよく注視し、
工夫し、変化し、柔軟に対応してきました。
しかし。
これらの行動は、ただ周囲の人気を得ることを目的とした訳ではありません。
時代の流れに上手く乗ることを目的とした訳ではありません。
武術に含まれる大切な【変わらないもの】を伝えることを目的に、
時流を利用しているのです。
決して、時代や流行に流されている訳ではなく、
【自分が大切にしているもの】を伝える為に。
逆に言うと、
どのような広報や発信、社会へのアプローチをしようと、
武術家として世に伝えたい【大切なもの】があれば良いのです。
時代や流行りに注視し過ぎるあまり、
その【大切なもの】がいつの間にか喪失してしまっている・・・
そのようなことは武術家としては絶対に避けなければなりません。
SNSなどのメディアが人間のコントロールを外れて暴走している日常。
時代・流行に流されていませんか?
誰かが作り出した「流れ」に自分のすべてを依存していませんか?
どこまで時代を取り入れるか。
何を流行から取り入れるか。
それらを全て、自分の判断でおこなう。
自分の大切にしていることを、
自分のコアをしっかりと心に持って。
それが
時代・流行に流されず、
時代・流行を利用する
武術家が考える処世の術です。
2024年4月10日 小幡 良祐
【OBATA RYOSUKE Official Site】https://bd-bagua.com/
【旺龍堂OHRYUDO Homepage】 http://ohryudo.com/
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?