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Mint.1『僕はここじゃない』

「アオイーこっちも頼む!」
「はいはーいッ!」

僕はわざと跳ねるような声で返事をした。
床に目をやると乱雑に敷かれた布団の上では、
怪我を負った隊員たちが横たわっている。

とても今日始まった戦いとは思えないくらいの怪我人だ。
怪我をした隊員のそばに急いで駆け寄る。

「すまねぇな……
 こんなすぐにやられるハズじゃなかったんだが……」
「へーきヘーキ!
 きっと他の隊員たちがズバッとやっつけてくれるって!」

僕の両手には、清潔なタオルや消毒液がぎっしりと抱えられている。

「あーあー……僕も戦いたいなぁ……」
「アオイ……気持ちもわかるが
 お前は俺たちよりも重要なんだ。
 もし捕まってみろ。散々な目に遭うぞ」
「……へーーーーい」

僕は気の抜けた返事をしながら、
なんとかして前線にいけないものか考えていた。

「イッテェェェェェ!バカ!何してんだッ!」
「え?縫ってみようかと」
「その針じゃ太すぎだ!どこにあったそんなもん!
 治療班!アオイと代わってくれ!殺されちまう」

この医療テントには、創世帝国に追放された外民が医療スタッフとして集まっている。
彼らは素人とはいえ、もちろん僕よりは経験もあるぶん手慣れている。

・・・‥‥……………………………

夜が更けていく中で、時計の針は深夜0時を指していた。

「ねぇ……なんで創世軍は
 僕たちを捕まえようとするの?」

治療も落ち着き、
僕はさっき話をしていた隊員の様子を見に戻ってきた。

「なんだお前、そんなことも知らないでついてきたのか?
 奴らはな、俺たちの『魂』が目的なんだ。
 肉体から無理やり剥がして、悪りぃことに使おうとしてる。
 自分らが俺たちを国から追い出したくせに、
 今度は狩りを始めやがったんだ」

「何それ……魂ってハガせるの?」
「今はそういう技術があんだ。
 案外お前の『青い力』も魂が関わってたりしてな」
「ふーん……」

突然雨が降り始めた。

そのポツポツとした音が、
医療テントの厚いキャンバスに当たって、
独特なリズムを奏でている。

……ズダダダダ!!

「くそ……!
 夜だってのにあいつら!
 少しは寝かせてくれ……!」

遠くから響くマシンガンの音一つで
テントの中は緊張感に包まれる。

この場所も、実は前線から数百メートルしか離れていない。
外からの攻撃を避けるために、
テント周りは簡易の防御壁や迷彩ネットで固められている。

……ヴゥゥン!

その時突然、
医療班リーダーの前に、
空中スクリーンが表示された。

画面の中に映し出されたのは、
必死に何かを訴えかける男性隊員の姿だった。

「やられた!新米が爆弾トラップに引っ掛かっちまった。
 医療班!誰か来れねェか」

彼の声は切迫しており、画面越しにもその緊急性が伝わってきた。

その一方で、話を聞く治療班の女性は
明らかな焦りと緊張でいっぱいに見えた。

一つに結んだはずの彼女の髪は乱れている。
制服の襟元には汗が浮かび、
無数の疲労の跡が彼女の顔に刻まれていた。

「無理よ!
 今こっちも手いっぱいなの!
 なんとか戻ってきて」

僕は画面上のやり取りに静かに耳を傾け
あることを考えていた。

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