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第1話「アオイ」

——西暦2050年
人類史に技術革命が起きた
常識を覆し、世界を変えるテクノロジー

『NFTデータの具現化』

人はそれを "ネオNFTエヌエフティ" と呼んだ……

——時は経ち
西暦2069年 シン日本帝国

人口は5,900万人まで減少、
貧富の差は益々広がり、
国力は大きく低下していた。

一方、技術革命が進み
国に依存しない
"自律したコミュニティ"
が出来始める。

中央集権の衰退を恐れた国が
軍事力を高め、
暴力の上に権力を置くようになるには
そう時間はかからなかった。

民衆は反発を繰り返し、
その度に国は武力で迎え撃つ。

————やがてそれが
シン日本帝国と自律コミュニティの
戦争へと拡大したのだった。

反乱により燃えるシン日本帝国と暴力に抗う民衆

西暦2069年 6月12日
都内某所 戦場

——ズガガガガガガガガガ!!

激しい銃声が、
荒廃したビル群の隙間から響く

ヘルメス兵士
「!?リーダー!
 シン日本軍の奴らが、前進!!!
 今すぐ加勢してください!」

オーク
「チッ、報告よりも敵が多いな……。
 俺の"ネオNFTエヌエフティ" の出番か」

この大男の名前は "オーク" 。

反社会組織 "ヘルメス"
関東支部リーダーとして
指揮を執っている。

ヘルメス兵士
「リーダー!!
 カッコつけないでいいから、早く!!
 このままだと、攻め負けますよ!!!!」

オーク
「うるせぇな!!!!
 こう言うのは雰囲気が大事なんだよ!
 いくぜ——『ミント』!!」

オークは
瓦礫をガシッと右手で掴む。

すると瓦礫は
赤い幾何学模様の羅列に変化し……
瞬く間に、
ガトリングガンに再構築された。

——ガチャン!!

オーク
「……フン!
 何人がかりできても無駄だぜ。
 このガトリングは、
 "特別" だからなぁ!!!」

——キィィィィン!!!

オークが右手にネオNFTを装備し
敵に照準を合わせると、
銃口が赤く光を放ち始める。

オーク
「……良い加減、中央集権なんて
 国民は皆、ウンザリなんだよ!!
 俺は、日本に "希望" を創る!!!」

UT『ザ・レッドフォーティチュード ユーティリティ『不屈の紅星群』』!!!」

——ズダダダダダダダダ

赤く光る銃弾を四方に飛ばし、
敵を霧散させる。

一方、後方では……

ヘルメス兵士
「おい、アオイ!!
 戦場でそんな目立つ所に
 突っ立ってんじゃねぇ!!!!」

崩れたビルでできた瓦礫の山。
そこから一人の少女が、
戦地を広く眺めていた。

アオイ
「えぇい、うるさいな!
 オーク以外の奴がぼくに指図するな!!」

この少女の名は "アオイ" 

黒髪のリーゼントヘアに、
青いメッシュが特徴だ。

主人公:アオイ

アオイは、初めて見る戦場を見て
恐ろしさと怒りを同時に感じていた。

アオイ
「……これが、戦場」

——ザッ!!

???
「おい!!」

突然、
アオイの真後ろから声がかかる。

アオイ
「!!?」

シン日本兵
「お前、ヘルメスのガキだな?」
上からジロリと見下す

アオイ
「だ、だから何だ!!」
(くっ……前に集中してて、
 全然気が付かなかった……!!)

動揺しながらも
アオイは「キッ」と相手を睨む

シン日本兵
「……子どもは労働力。
 お前は、中央で奴隷にしてやる。
 まぁ安心しろ、
 ちょっと気絶してもらうだけだ。
 ——『ミント』!!」

シン日本兵が
瓦礫の山に右手を触れながら唱えると
白い幾何学模様が現れる。

瓦礫はバリバリと
電撃を放つ警棒に変化した。

アオイ
「!?ヤバい!!!」
(……くそ、一か八かだ!!)

「——『ミント』!!」

アオイはバッとその場にしゃがみ
両手を地面に当てる

……しかし、
何も起こらない。

シン日本兵
「???
 ……おいおい、マジか。
 『ミント』できない奴なんて
 初めて見たぜ……!!」

アオイ
( !!!
 くそ!!なんで……なんで!!!
 ぼくだけ出来ないんだッ!!)

シン日本兵
「覚悟しな、小僧!!
 いや……嬢ちゃんか」
電撃の通った警棒を
バチバチ鳴らしながら近づく

アオイ
(やめッ!?)

アオイが目を瞑った、
その時……

???
「——『ミント』!!」

——ズバンッ!!

シン日本兵
「!?がっ、は……!!!」

アオイの目の前で
シン日本兵が血を流し倒れる。

オーク
「アオイ!!!!
 何してんだ、バカヤロウ!!」

アオイ
「オーク!!?」

オーク
「『オーク!!?』じゃねぇだろ!
 俺の側から離れんな!!!」

オークは子供を叱るように、
アオイにゲンコツする。

アオイ
「ぼ、暴力反対!!」

オーク
「言う事聞かねぇガキには
 当たり前だ!!!」

アオイ
「ね、ねぇ、オーク。
 コイツは……死んだの?」

オーク
「……このくらいじゃ、
 人間は死なん。
 運が良ければ、助かるだろ」
 

アオイ
「そうか、良かった……」

オーク
(……)
オークは無言で顔を顰めた。

オーク
「アオイ!!!
 次はもう助けねーからな!!」

アオイ
「うん……わかった」
(結局また、助けられちゃったな……)

アオイは軽くうなずき、
瓦礫の影に隠れながら、
オークの背中についていく。

——アオイはふと、
この戦争に志願した数日前を思い出す……

アオイ
「頼む、オーク!
 一回!!一回でいいから
 戦場に連れて行ってくれない?
 この通りッ!!お願い!!!」

彼女は両手をパチンと合わせ、
何度も何度もオークに頼み込む。

オーク
「だからな……
 何度言われても絶対にダメだ。
 お前なんかが来ても、
 ただの足手まといだろうが。
 ほら、さっさと掃除でもしてろ!!」

アオイ
「!!!!掃除……?!ぼくは……
 掃除するために生まれたんじゃない!」

オーク
「〜〜!!
 とにかくダメだ!!
 いいか、戦場は危険なんだ。
 お前みたいなガキがいたら、
 迷惑なんだよ!」

アオイ
「!!…………」

オーク
「……スマン、
 ちょっと言いすぎたな」
 

アオイ
「……ぼくは、諦めないよ!
 もし連れてってくれないなら……
 勝手についてくからね!!」

オークは深くため息をつき
右手で額を押さえながら、
アオイに質問する。

オーク
「はぁ、全く……
 なんでそこまで
 戦場にこだわるんだ?」

アオイ
「……確かにぼくは、
 まだ何もできないと思う」

アオイ
「だから!!!!
 戦場に行って、
 自分にできることを探したいんだ。
 そして、いつか……
 オークみたいに、誰かを守るんだ!!!」
グッと拳を握り、両手を下に伸ばす

オーク
(!!?おいおい、まじか……)

オークは面を食らった。
数年前に戦争で失った息子と、
アオイの姿を一瞬重ねたのだ。

オーク
(……アイツも
 「父ちゃんみたいになりたい」
 って言ってたな。
 ……結局、我慢だけさせて)

数秒沈黙し、考えるオーク

オーク
「……今回だけ、だぞ」

アオイ
「!!?
 ありがとう……オーク!!」

彼の胸中を知らないアオイは、
両手を天井にかざし、
ぴょんぴょんと飛び跳ねる。

オーク
(また、天国の妻に怒られそうだな……)


オークは小さくため息を吐き、
子どもに諭す様に言い聞かせる。

オーク
「……ただし!!
 必ず俺のそばにいる事。いいな?」

アオイ
「うん、わかった!!!」

アオイの真っ直ぐ見つめる瞳は、
オークに覚悟を感じさせた。

オーク
「アオイ、最後に一つ」

アオイ
「???」

オーク
「……ヘルメスはな、
 戦うしか脳がない、
 ロクでなしの集まりだ。
 ……だが、そんなロクでなしにも
 守りたいものがある」

アオイ
「守りたいもの?」

オーク
「自分達の "居場所" だ。
 シン日本軍を倒し、元の生活を取り返す。
 これだけは、皆同じ想いなんだ」

アオイ
「…………」

オーク
「……だけどな、
 戦うことが正解とは限らん。
 だから、お前は自分の道を探せ。
 アオイにしかできない事……
 何か、見つかるといいな」

???
「アオイ……アオイってば!!」

アオイ
「あ、くーちゃん!
 どこにいたんだ?心配したんだぞ!!」

くーちゃん
「さっきからいたよ!
 それよりも……大丈夫?」

そばで話しかけるのは
茶色い毛並みの子犬
"くーちゃん" だ。

アオイがヘルメスで過ごす前から、
一緒に苦楽を共にしてきた
唯一の友人であり、
 "家族" のような存在だ。

アオイ
「あ、うん。ちょっと出発前、
 オークに言われたことを
 思い出しててさ……」

アオイは、
オークの背から視線を滑らせる。

すると、
衝撃的な光景が目に飛び込んできた。

アオイ
(!!?くーちゃん、しゃがめ!!)

くーちゃん
(!!?)

二人の目線の先には、
シン日本兵が数人、民衆を取り囲んでいる

シン日本兵A
「水も食料も全部、車に乗せろ!
 働けそうなやつは、
 気絶させてトラックに積め!!!」

シン日本兵B
貴重な水を頭から浴びる兵士

シン日本兵C
民の食べ物を頬張る兵士

アオイ
(!!?アイツら……
 好き勝手しやがってッ!!)

アオイは
シン日本軍の蛮行を目の前にし、
拳を強く握り締める。

くーちゃん
(ねぇ、アオイ!!
 もっとしっかり隠れてよ!
 見つかっちゃうってば!!!)

アオイはくーちゃんの指摘で
瓦礫の影に隠れ直す。

だが、
目線はシン日本兵に向いている。

——その時、

子供
「やめろ!!
 お母さんを、いじめるな!!!」

シン日本兵D
「生意気なガキだな。
 お前らに人権なんて、ねぇんだよ!!!」

——ドガッ!!

アオイより
ひと回り小さな男の子が
シン日本兵に腹を蹴られる。

アオイ
(!!!?
 ——あいつら、子どもまで……!!)

くーちゃん
(アオイ、落ち着いて!!)

さらに、
シン日本兵は子どもを嘲笑しながら
銃口を子どもに向ける。

アオイ
「!!!?やめろぉぉおおお!!!!」

気が付くと、
アオイは瓦礫の陰から駆け出し、
シン日本兵の顔を思い切り
殴っていた。

シン日本兵D
「!!?いっでぇぇ!!!
 なんだ、コイツ!どこから現れた?」

オーク
「!!!?アオイ!!
 何してんだ、逃げろ!!!!!!」

オークはすぐに騒ぎに気がつく。
目の前の敵と戦いながら、
慌てて声を上げる。

アオイは、
オークの言葉にハッと我に返る。

アオイ
「オーク!!!!
 だって、こいつらが……!!」

その時……

シン日本兵D
「〜〜!!ガキが!!!
 ——『ミントッ』!!!」

——パンパンッ!

一瞬の出来事だった。

アオイが
オークに気を取られた隙に
シン日本兵は、彼女の両足を一発ずつ
撃ち抜いたのだ。

アオイ
「ガッ……!?
 ぐ、あぁぁぁあああ!!」

——ガチャ!

シン日本兵は、
倒れたアオイの頭を足で踏みつけ
両手に手錠をはめる。

オーク
「アオイ!!!
 ぐっ、貴様ら……!!!!」

シン日本兵
「おぉっと、動くなよ?」

——パン、パンパン!!!

オーク
「がはっ!!!?」

アオイ
「オーク!!!!
 ……てめぇぇぇ!!!!!」

くーちゃん
「!!?やめろーー!!
 アオイを、放せぇぇええ!!!!」

——ガブッ!!!

くーちゃんは勇気を振り絞り、
シン日本兵の足に、
思い切り噛み付く。

シン日本兵
「!!?イダダダダ!!
 喋る犬!?動くなって言ってんだろうが!!!」

驚いたシン日本兵は、
噛みついて離れないくーちゃんを
銃で何度も叩きつける。

くーちゃん
「ぐっ、が、ぐうぅぅぅうう!!!!」

——ズザザザザザ!!!

くーちゃんは、
シン日本兵に振り飛ばされる。

アオイ
「!?くーちゃん!!!!
 クソ、やめろ!放せ……」

シン日本兵
「黙れ、ガキ」

——パン!!
くーちゃんを撃つ

くーちゃん
「!!??」

アオイ
「!!!!!??
 何してくれてんだぁぁあーーー!!!」
大切な家族に暴力を振るわれブチ切れる

——バチッ!
バチバチバチバチ!!!!!!!!!

全員
「!!?」

——その時、驚く現象が起きた。

アオイの周囲に電撃が走り
 "ネオNFTエヌエフティ" 全てが音を立てて
ショートしたのだ。

オーク
(!? "例のアレ" が出たか……!!
 アオイの昂った感情が、
 周囲に干渉してやがる……!!)

オークは額に汗を垂らす。
その表情は「まずい」と物語っていた。

シン日本兵
「な、何が起きた!?
 武器が……う、動かない」

手元の銃をガチャガチャいじるが、
何も作動しない。

オーク
(もし、アオイが敵に捕まれば
 どんな目に遭わされるか……
 やはり連れてくるべきじゃなかった!!)

アオイ
「???
 な、何か起きたのか?!」

オーク
「ぐっう……!!!!!」
(撃たれた箇所が、悪いか?!)
オーク膝をつく

くーちゃん
「…………」

アオイ
「二人とも!!!?」

シン日本兵
「ハハハハハッ!!!
 手出しできねぇだろ、
 ザマァみろ!!!!!」

アオイはもがき、
背中を踏みつける敵を睨む。

アオイ
「——お前ら、
 よくも、くーちゃんとオークを!!!
 ぼくが、テメェらを……!!!」

——ガンッ!!!

アオイ
「……ゔッ!!!!!」

シン日本兵は、
アオイの後頭部に壊れた銃を
強くたたきつけ気絶させる。

シン日本兵
「『テメェらを』なんだって?
 ……おい、連れてくぞ!!!!」
仲間の兵士に撤退の命令をする

動かなくなったアオイを見て
オークは興奮し、声を荒げる。

オーク
「ッ!!?アオイを放せ!!」

すぐさま駆け出そうとするオークを、
周りの者達が慌てて制止する。

ヘルメス兵士
「何やってんですか!
 リーダーまで捕まっちまったら、
 終わりだ!!
 それに……その傷じゃ!!」

オーク
「ごちゃごちゃ言うな!!!!
 戦わせろッ!まだ間に合う!!」

オークは、血を流しながら
仲間の腕を振り解かんと、
激しくもがく。

——

その思いは届くことなく、
アオイは引き摺られるように
連れ去られていった。

オーク
(俺は、また……
 何やってんだ、俺は…っ!!)

ヘルメス兵士
「リーダー!!!
 もう限界です、
 今すぐに撤退の指示を!!」

仲間の悲痛な声が、響く。

劣勢へと転じた状況は、
もはや誰の目にも明らかだった。


同年 6月15日 深夜
東京第二拘置所

アオイ
「——うぅ……」

アオイはコンクリートの独房で、
ハリツケにされていた。

華奢な体は傷だらけで、
独房の中は血で濡れている。

シン日本軍 拷問官
「あれから、もう三日経つ……
 いい加減、吐け……!!
 ——お前らのボスはどこだ!!!」

拷問官は、
アオイの身幅三倍はある巨体な男だ。

アオイは、
拷問官を睨みつけ
かすれた声で答える。

アオイ
「くーちゃんと……
 オークは、どうなった?」

シン日本軍 拷問官
「またその質問か!
 同じことばかり、言いやがって……!!」

アオイ
「くーちゃんと……
 オーク、は…………?」

シン日本軍 拷問官
「〜〜!!!
 ……そんなに死にたいか。
 もういい、お前は用済みだ!!!
 ——『ミント』ッ!」

拷問官はついにキレる。
そして、
処刑用のサーベルを具現化。

シン日本軍 拷問官
「死ねッ!!!!!」

アオイ
(……もうダメだ。
 くーちゃん、オーク……!!)

アオイが心の中で叫ぶと、
目の前に走馬灯が流れる。


………2年前
シン東京郊外の荒れ地

くーちゃん
「キャンッ!!」

東京郊外の砂漠化しかけた荒野。

シン日本兵
「おらッ!おらぁ!!!
 このクソ犬がぁぁああ!!!」

——ズザザザザァァ!!

シン日本兵は
くーちゃんを蹴り飛ばしている。

アオイ
「頼む、もうやめてくれ!
 くーちゃんは、大事な家族なんだ。
 殺すなら、ぼくを……

 ぼくなら、死んでもいいから……
 くーちゃんだけは、
 殺さないでくれ……」

アオイは、
シン日本兵に対し懇願する。

シン日本兵
「はぁ?犬が家族とか
 馬鹿じゃねぇのか?

 今の日本ではな……
 自分を守ることだけ、
 考えてればいいんだよ!」

そう叫ぶと、シン日本兵は
アオイの左脇腹に
強く蹴りを入れる。

アオイ
「ゔうッ!!?」

アオイは痛みで、
その場にうずくまる。

シン日本兵は
彼女の側頭を踏みつける。

シン日本兵
「……もう、この国には
 希望なんてねぇんだよ」

シン日本兵は、
片手でくーちゃんの首を掴み
持ち上げる。

そして、
呼吸ができないように
力を徐々に入れる。

アオイ
「や、やめてくれ……!!」

アオイは
頭を踏みつけられながら、
歯をギリギリと食いしばり
シン日本兵に問いかける。

アオイ
「なんで……なんでお前らは、
 命を奪おうとするんだ……
 そんな権利、お前らにないだろ……!!」

——ブンッ!

シン日本兵は
くーちゃんをアオイに投げ飛ばす。

シン日本兵
「……権利だと?
 そんなもの、今までずっとねぇよ!
 何をしても中央に獲られる……。
 水、食料、金、資源……ヒトまでもだ!!

 だから、俺は奪う側に回る。
 弱肉強食の世界で生きるなら、
 強者につく……ただそれだけだ!」

そして、アオイの頭や体を
容赦無く蹴り始めた。

アオイ
「ぐッ!!やめ……ろ!」

その時、アオイは偶然目の前に
小銃が落ちているのを発見する。

アオイ
(!?……武器だ!!)
「ぐ!!……く、くらえ!!」

アオイは必死でその小銃に手を伸ばし、
シン日本兵の腹部に向け、
撃とうとする。

しかし……

——ガキンッ

アオイがトリガーを引こうとしても
引き金は固く、動かない。

アオイ
「!?なんで……」

シン日本兵
「お前、何も知らないのか?
 自分で『ミント』してない銃は
 相手に権限を渡さないと使えない。

 ……つまり、
 他人の銃がその辺に転がってても
 それはただの "ゴミ" だ。
 お前みたいな、な!」

愉悦に表情を歪ませ、
嘲るシン日本兵。

アオイ
「ぐっ!!
 うぅぅぅ!!!!!」

アオイは悔しくて泣いた。
一瞬だが、助かったと思った。

目の前の希望が一気に消え、
全てが真っ白に映る。

シン日本兵
「……弱者はな、
 いつだって淘汰される。
 ただ、それだけだ——『ミント』!」」

シン日本兵はそう言うと、
手に持った瓦礫から、
軍用の日本刀を具現化する。

片目を瞑り
彼女の首元に照準を合わせる。

シン日本兵
「……死ねッ!」

そして、躊躇なく刃を振り下ろす。

するとその時……

——ズバンッ!!

一人の大男が急に現れ、
シン日本兵を背後から切り倒したのだ。

アオイ
(!!?うぅ……?)

???
「なんだガキか……
 相当、やられたな」

大男は、
アオイの近くに
犬が倒れていることに気が付く。

アオイ
「!?触る、な……」

アオイは
その犬を守ろうとするが、
痛みで身動きが取れない。

???
「お前の犬か?
 大丈夫だ。悪いようにはしない……」

彼女は、
最後の力を振り絞って立ち上がり、
枯れた声で叫び威嚇をする。

アオイ
「フゥーッ、フゥー!!
 ……くーちゃんに、
 触るなぁぁあ!!!!!!!」

アオイが大声で叫ぶと……

——バチバチッ!バチン!!!

その瞬間、
男の腰に据えていた武器や
周囲の送電線がショートした。

???
「!!?」

この出来事に、
男は瞳孔が開くほど驚く。

——ガシッ

アオイは倒れ、
男の足を掴む。

アオイ
「ぼくは……死んでもいい。
 その代わり、くーちゃんだけは、
 殺さ……ない、で」

——フッ

アオイは意識を失う。

???
(!?コイツ……
 意識を無くしても!!!!)

アオイは、そのまま
男の足を強く掴んで離さなかった。


……数時間後

アオイ
「!!?」


アオイが目を覚ますと、
ベッドの上に横たわっていた。

慌てて身体を起こすと、
全身に激痛が走った。

アオイ
「!?いっつ……」

その時、
木製の扉がギイィと音を立てて開く。

大男がパンと飲み物を手に持ち、
部屋に入ってきた。

アオイの記憶に新しい、あの大男だ。

???
「起きたか、どうだ気分は」

アオイが周りを見渡すと、
部屋には薬や包帯が置いてある。
どうやら医療室のようだ。

アオイ
「!?くーちゃんは?」

???
「あぁ、お前の犬……
 くーちゃんなら、大丈夫だ」

男は隣のカーテンを引いて、
ベッドで気持ちよく寝ている
くーちゃんを見せる。

アオイは安心して、ため息をつく。

???
「それよりも、
 お前の方が重体なんだ。
 安静にしてろよ」

アオイは、
敵意のない男に緊張がゆるむ。

???
「……なぁ、聞いてもいいか?
 嫌なら答えなくてもいいが……
 お前、他に家族は?」
 

パンと飲み物を机に置きながら、
男は話し出す。

アオイ
「……」

アオイは沈黙する。
男はその様子を見ながら、
質問を続ける。

???
「……親や兄弟は、いないのか?」

アオイ
「……」

男は少し咳払いをしながら、
少しきつい言葉を投げる。

???
「……悪いが、同情はしないぞ
 今は戦争だ……。
 家族を亡くした奴は、
 お前だけじゃないからな」

沈黙をしていたアオイだが、
少しずつ話し出す。

アオイ
「……記憶が……ないんだ」

???
「!?……記憶がない?」

アオイは両手を重ねて握り、
徐々に話し出す。

アオイ
「ぼくは……
 気がついたら、ガレキの中にいた。
 その前の記憶はない。

 だから、家族が生きてるのか
 死んでるのかも……分からないんだ」

男は、彼女の話を真剣に黙って聞く。

アオイ
「ずっと、一人だった……
 でもある日、
 くーちゃんに出会ったんだ。

 辛い毎日だったけど、
 お陰で少しだけ楽しくなった」

アオイは隣のベッドで眠る
くーちゃんを見つめなおし、
少しだけ微笑んだ。

アオイ
「大変だったけど、
 ずっと二人で必死に生きてきたんだ。

 危ない連中に襲われた時も、
 少ない食料を手に入れた時も、
 いつも二人で分けてきた……」

男は「そうか」
とひと言だけ相槌をうつと、
再び黙ってアオイの話に耳を傾けた。

アオイ
「……家族の事は、
 何回思い出そうとしても
 まったく思い出せない。

 でも、はっきり言えるのは
 く―ちゃんは大切な家族なんだ。
 ぼくの命に代えても……必ず守るつもりだ」

男はアオイの過去に、
自分の境遇と重ねて
心を動かされていた。

???
「自分が誰か、わからない……か。
 それは辛かったな。

 今の日本は正気じゃねぇ。
 失うことが当たり前の日常なんて、
 ありえねぇ……!!」

アオイはなんとも表せない
複雑な表情で話を聞く。

???
「さっきも言ったが、
 俺は他人に同情しねぇと決めてる。
 ……だがな」

アオイは、
続きの言葉を待つように男に視線を向けた。

???
「……ホントに頑張ったな。
 大切な家族を、お前が守ったんだ」

男は我が子を称えるように、
誇らしげに笑った。

アオイの表情が、パッと明るくなる。
これまでの警戒と緊張が、一気に解かれた。

???
「でもな……だったらお前、
 "死んでもいい"
 なんて絶対に言っちゃダメだろ!」

アオイ
「……えっ?」

アオイは驚く様子を見せるが、
自分の言ったことを思い出す。

アオイの記憶
(……殺すなら、ぼくを殺せ。
 ぼくなら、死んでもいいから……
 くーちゃんだけは、殺さないでくれ……)

???
「だって、
 くーちゃんは家族なんだろ……?」

アオイはその言葉を聞いてハッとする。

アオイ
(!?ぼくが死ぬことは、
 くーちゃんに同じ悲しみを……!!)

男はアオイの気がついた顔を見て
さらに問いかける。

???
「……くーちゃんにとって、お前は
 " NFTエヌエフティ" と同じ存在
 なんだ。言ってる意味、わかるか?」

アオイ
「……?」

???
「代わりの利かない、
 "唯一無二の存在" ってことだ。
 ……つまり、
 お前の代わりなんていないんだ。
 くーちゃんの為に、堂々と生きろ」

そう言うと男は、
アオイにパンを優しく投げ渡す。

???
「食え、腹減ってんだろ?」

アオイはお腹を鳴らし、
大きく口を開けてほおばった。

アオイ
「ん、ん……ぐすっ。
 ひく、ひっく……」

アオイは、
一口食べると涙が止まらなくなり、
その場で大声を上げて泣いた。

???
「俺はオークってんだ。
 もう "死んでもいい" なんていうなよ?」


——ハッ!?

その時、
アオイは走馬灯から現実に戻った。
拷問官は剣を振り下ろしている。

アオイ
(!?くーちゃん、オーク!!
 ——ダメだ、死ねない!!)

「ウォォォオオオオオオーーー!!!!!」

——バリバリバリバリバリ!!!!

シン日本軍 拷問官
(!!!?電撃!!?)
「ッ!!?ぁああああ!!!!」

拷問官が振り下ろした剣に
電撃がほとばしる。

その衝撃で、
拷問官は壁まで飛ばされ気絶する。

……バツンッ!!

それと同時に、
拘置所内の電気が落ちた。

アオイ
「な、なんだ!?
 助かったのか!!?」

——ウーーウーーーウーーー!!

さらに重なり、
激しいサイレン音が
外から拘置所内に響く。

牢屋の外が異様にザワつき始める。

アオイ
「……次は、なんだ!?」

牢屋の外 シン日本兵
「——おい!
 侵入者だ、逃すな!!
 
 !!?バケモノか!?デカいぞ!
 落ち着いて対処しろ 」

パンッパンパン!!
——シュンシュンシュンッ!!!

外からは銃声のほかに、
まるで風を素早く切るような
鋭い音が聞こえる。

アオイ
(……???何が暴れてるんだ?
 バ、バケモノって……!!?)

牢屋の外 シン日本兵
「貴様ら!!!
 絶対に逃すなよ!!!
 中央にバレたら、大事になる!
 総員、全力で対処するんだ!!!」

アオイは、
外の異常事態に必死に耳を傾ける。

——シュンシュンシュン!

牢屋の外 シン日本兵
「ヒィィ!!グワァぁ!」

アオイ
「!!?」
(な、なんだ!?
 シン日本兵が、やられてる?)

——タッタッタ……!!
——ピタピタピタピタ

アオイ
(!!?……足音が、
 二つ……近づいてくる)


するとアオイの独房の前で、
銃撃音や悲鳴が突然止んだ。

急な静けさにアオイは恐怖した。

サイレンだけが、不気味に響き渡る室内。
乾いた喉でゴクリと唾を飲んだその時、

———ガゴォォン!!

アオイ
「!!?」

突然、独房の扉がこじ開けられた。

アオイはじっと目を凝らし、
乾き切った声で叫んだ。

アオイ
「———誰だ!!?」

アオイのぼやけていた視界が
暗闇に慣れ、
だんだんと辺りが鮮明に見えてきた。

独房の入り口に、
人間が立っているのがうっすらと見える。

美しい銀髪に、
緑色の長い髪を編み込んだ少女。

その傍らには、
アオイの体長2倍はある
大型の白鳥が寄り添っている。

アオイ
(…………綺麗だ)

アオイは、
不思議と敵意を感じなかった。

そして、その神秘的な姿に
数秒間、自身の状況も忘れ見惚れた。

——コツ、コツ……

すると、
銀髪の少女が歩み寄ってくる。
アオイは我に返り叫ぶ。

「!!?やめろ……
 ぼくに、近づくなぁあ!!!」

——ビリビリビリッ!!!! 

また、アオイの身体とその周囲に
例の電撃が走る。

白鳥
「クッ!!?」

白鳥は頭を翼で押さえる。
そして、頭を横に振り
痛みを誤魔化そうとする。

銀髪の少女
「……やっぱり、あなたは特別ね」

アオイは急に話しかけられ、
さらに警戒を強める。

アオイ
「な、なんの事だ!!」

その意味深な言葉に、
アオイは何のことか分からず
混乱する。

銀髪の少女
「アオイ……
 約束を、果たしに来たわ」

アオイ
「……!!?」

——アオイの特別な力を知る、銀髪の少女との出会い。こうして、アオイはシン日本帝国との戦いの渦に巻き込まれていく——


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原作者:なか→@naka_bluechip


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