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【人怖話】相手によって態度を変える者

職場のオカルト仲間が神妙な面持ちで私に話しかけてきた。
彼女はTさん。
予知夢を見ることがあり、直観力が優れている人である。


T「時間ははっきりと覚えてないんだけど、たぶん開店前の準備中の時だった」

T「事務所には誰も居ないはずなのに、何故か人の気配がしたの」

T「ちょっと気になってチラっと確認してみたんだけど、やっぱり誰も居なかった」

T「最初は気のせいかと思ったんだけど、何となく薄気味悪くてね・・・」

T「しばらくすると、ガタっと物音がしてびっくりしてね」

T「事務所の奥の方から音がしたから確認しにいったんだけど・・・」

T「揺れも何もなかったのに、物が勝手に落ちていた」

T「幽霊の仕業なのかな・・・?」

T「ポルターガイスト現象っていうのかな、勝手に物が動いたというか」

私「落ちた物ってどんなものだったの?」

T「大したものじゃなかったんだけど、落ちたショックで少し欠けてしまっていたよ」

私「う~ん・・・霊が物を動かすことはあるとしても、少し傾いて置かれていた可能性も否定できないよね」

T「それはあるかもしれないね、ぱっと見は普通に置かれているように思えても、ほんのわずかでもズレていたら、ちょっとした振動でも動くだろうし」

私「でも、振動は何もなかったんだよね?」

T「うん、揺れの原因となるものはなかったよ」

T「幽霊が居るのかな?」

私「人の気配がしたんだよね?」

T「うん・・・誰も居なかったけどね」

私「気のせいか、疲れているのか、それとも・・・何とも言えない」

T「気のせいだといいんだけどね・・・」


Tさんとの会話の直後に私の頭にあるメッセージが浮かんできた。


-ちょっと癖のある男の生霊の襲来-


メッセージと同時にピキーンと感じたものは不安な感情だった。
人間はちょっとしたことですぐに生霊を出してしまうが、本人は自覚していない場合が多いと聞く。

ましてや、生霊なんて普通はなかなか感知できないものだ。

私は霊能者だった祖父の影響が多少なりともあるのか、黒い人影を見たり人ならざる者の声を聴いたり、耳鳴りが多く発生することがある。
とは言えど、それが霊的なものかどうかの判断に迷うこともある。
そのくらい、能力的には中途半端なのである。

ちょっと癖のある男の人が一体何の用件で生霊を飛ばしてきたのだろうか。
販売業をしていると、思いもよらないところで恨みを買うことはある。
生霊が飛んできてもおかしくはない状況だとは思うが・・・。

それにしても生霊が物音を立てるほどの力があるのだろうか?
疑問に感じつつも作業をこなして徐々に聞いた話が記憶から薄れていった。

ところが。

問題は昼間に起きた。
応援ベルが聞こえてきたのでレジまで飛んで行ったのだが、どうやらちょっとややこしい問題が起きているようだ。

レジ店員に何か不満があるような言動を取っている男性客の姿が見えてきた。
その表情を見てもなんら違和感はないが、Tさんの話を聞いた時に受信したメッセージと不安な感情が即座に脳裏をかすめた。

ちょっと癖のある男の生霊の襲来・・・。

男性客の言い分を聞いた時に自分が感じ取ったものが正しいと理解した。
やはり、癖のある人物だった。
詳細を書くことは出来ないが、似たような体験はコンビニ勤務時代にも経験したことがある。
その時の話を少し書いてみようと思う。

あれは、10年以上前の話だ。
当時の私はコンビニの仕事にかなり慣れている時であり、責任のある作業を任されることも多かった。

常連客から「頑張ってるね」とか「いつも真面目に働いてるね」と褒められることもあり、褒められると嬉しいからもっと頑張ろうという気持ちになって、その頃はとても充実していた。

それでも、接客業というものは色々な問題が起きる。
カスハラやクレーマーといったようなちょっと厄介な人物が絡んでくることもある。

※問題を起こす人はもはやお客さんとはいわない

接客業を務めている人なら遭遇している人もいると思うが、店員によって態度を変えてくる人物がいる、というものである。

男性店員の前では大人しいのに、女性店員や若いバイトの前では横柄な態度を取る人、特定の従業員にだけ嫌がらせしてくる人などだ。



ケースその1 男性店員と女性店員で態度を変える人

ある時に女子大生バイトにレジを任せて作業をしていた時のこと。
しばらくすると年配男性の怒鳴る声が聞こえてきたので作業を止めて声の聞こえてきた方に急いだ。

女子大生バイトにぎゃんぎゃん文句を垂れている年配男性客が居たのだが、何を言っているのか尋ねてみたところ、年配男性客が落としたお金を女子大生バイトが拾おうとした際に怒られたのだという。

「勝手に触るな!」と怒られたそうだが、何故そのようなことで怒るのだろうか。

女子大生バイトは少し困った表情をしていたが、気にするほどのことでもないと言っていたので、さらっと流していたようだ。

その時はちょっと困ったお客さんがいるもんだとしか思わなかったのだが・・・後日またその年配男性客が来店してきた。
その時にレジに立っていたのは私であり、年配男性客がお金を落としたので拾おうとしたところ、「勝手に触るな!」と怒られてしまった。

あの時と同じ反応だ。
それにしても、よくお金を落とす人だとは思うが、どうやらこれは店員を試す行為だったらしい。

また別の日に男子大学生バイトがレジに立っていた時のことだった。
その年配男性客がまた来店し、例の如くお金を落としたので男子大学生バイトが拾ったところ、「ありがとう!」とにこやかな表情でお礼を言われたという。

私や女子大生バイトとは態度が全く違っていた。

男性店員には普通に接し、女性店員には攻撃的な態度を取る年配男性客のお金を落として店員を試すという行動には何とも嫌らしいとしか言えない。
一体何のためにそんなめんどくさいことをやるのだろうか。
カスハラの心の中なんて見たくもないし知りたいとも思わないが、被害に遭うと「この人何なの!?」となってしまうものだ。

コンビニのオーナーに一連の出来事を報告したところ、こんな答えが返ってきた。

オーナー「あぁ、あの人ね」

オーナー「あの人はいつもあんな感じだよ」

オーナー「性別で人を判断する人だね、気にすることはないよ、所詮はその程度の人だと思えばいいよ」



オーナーはすでに知っていたようだが、自身には被害がなかったことと、カスハラに腹を立てても時間の無駄だと考える人だったので、あまり気にするなとしか言われなかった。

被害に遭った女性店員にとってはその日1日の気分が台無しであるが。
ああもう、二度と来店しないで欲しいって思っていたところ、ぱったり来なくなったので願いが通じたのだろう。
もう嫌な気持ちにならなくて済んだのでひと安心だ。


ケースその2 特定の店員にだけ態度が横柄な人

被害を受けたのは私ひとりだけなので、嫌な気持ちを共有できる人が居なかったことが少し嫌だなぁと感じた出来事だ。

コンビニにはポイントカードがあり、ポイントカードの出し方も人それぞれだ。
多くの場合はカウンターやコイントレーに置く人が多いが、中にはカードをつまんだ状態でのバーコード部分を見せてくる人もいる。

カスハラの名前を蜂野(仮名)とする。
年齢は40代くらいと思われる。

私がレジに立っていた時に蜂野が来店してきた。
レジに商品を持ってきた時の表情は至って普通だったのだが、ポイントカードの有無を尋ねるとすっと出してきた。

蜂野はカウンターにカードを置いてきたので、私はそれを手に取ろうとした瞬間のことだった。

蜂野「カードに触るんじゃねーよ、ボケが!!(ブチ切れ)」


怒鳴られたことで心底びっくりしてしまった。
なぜ、怒られなければならないのか理解出来なかった。
作業をしていた他の従業員が心配そうにこちらを見ているが、カードを触ることも出来ないし、蜂野の表情は怖いものに変わっていたので頭が混乱して少し固まってしまった。

どうしたものかと考えていたところ、蜂野はカードをつまんでバーコードの部分を見せてきて「カードに触らずにスキャンしろ!」と要求してきた。

恐る恐るカードをスキャンすると、そのまま財布にカードをしまって会計を済ませてそそくさと帰って行った。

こういうカスハラと遭遇したのは初めてだったので、何が何だか訳分からん状態に陥ってしまったが、機嫌が悪かったんだろうと思うようにした。

だが、数日後にまた蜂野が来店してきた。
嫌な気持ちを思い出して少し構えたが、私のレジに何食わぬ顔をしてやってきたので対応をすることになった。

蜂野はポイントカードをつまんでバーコードの部分を見せてきたので、前回のことを思い出してカードに触らずにスキャンをしようとしたところ・・・。

蜂野「お前の態度は横着だな!カードを手に取れよ、アホが!!(ブチ切れ)」



またしても蜂野に怒られてしまった。
今度はカードを手に取らなかったことで怒られたのだが、前回とは全く逆だった。
だから、私としてはなぜ怒られたのか全く理解出来なかった。

他の作業をしている従業員N子はニヤニヤしながらこちらの様子を伺っている。
どうも助けてくれそうにないので、カードを手に取ってスキャンをして蜂野に返した。
そのまま会計を済ませてそそくさと帰って行った。

先程ニヤニヤしていたN子がこちらにやってきたので事情を説明すると、こんなことを言われてしまった。


N子「ブルーさん、あのお客さんに好かれてるね(笑)」

私「いやいや、冗談はやめて下さいよ、前回はカードに触れたことで怒られて、今回はカードに触らなかったことで怒られたんですよ!」

N子「私は蜂野のレジ何度もやったことあるけどさ、なんも怒られないよ」

私「じゃあ、なんで私だけ怒られるんですか?」

N子「いや~それはさ~言わなきゃ分からない?」

私「分かりませんよ・・・」

N子「あの蜂野って奴はさ、ブルーさんのこと好きなんだよ」


私「はぁぁぁぁぁ!?」

N子「だってさ、他の従業員にはあんな怒ることないよ、怒られるのはブルーさんだけなんだよ」

私「そんなの嫌われてるから怒られるんじゃないんですか!?」

N子「にっぶいなぁ、嫌いだったらそもそも話しかけてこないって」

私「う~ん、仮に好きだったとしても、非常に迷惑で困ってるんですが」

私「私はああいう怒りっぽい人は大嫌いですし、あんな人の顔なんて見たくもないし、声も聞きたくないし、もう店に来ないで欲しいくらいです」

N子「蜂野の中身はおこちゃまなんだよ、だからああいう態度しか取れない」

私「小学生男児が好きな女児に嫌がらせするアレみたいなものですか」

N子「そうそう(爆笑)」


N子の衝撃的発言に一瞬引いてしまったが、実際のところ蜂野が私をどう思っているのかは分からないままだ。
そもそもいい歳した大人があんな横柄な態度を取るのもどうかと思うが。

相手に好かれたいなら好印象を与えた方がいいに決まってるし、こじらせた子供のような態度を取れば逆に嫌われるのは目に見えて分かるものだが。

たぶん、私みたいな大人しいタイプに日頃の八つ当たりをしているだけに違いないとは思うのだが。

実は、この蜂野とは別のコンビニで働いていた時にも遭遇したことがある。
態度は全く同じで、カードを手に取ったら怒られるし、バーコードを見せてくるからそのままスキャンしようとしたらそれも怒られる。

本当にめんどくさい男である。
何を思ってあんな態度を取って来るのか分からないし知りたいとも思わないし金輪際関わりたくない。
コンビニの近くにとある神様が祀られており、その神様にこのような願いを伝えてみた。

蜂野と縁が切れて一生遭遇しなくなりますように!

私の願いを叶えてくれたようで、蜂野は二度と私の前に姿を現さなかった。



・・・以上が、私が遭遇した相手によって態度を変える者の話である。

今となってはN子がなぜあんなことを言ったのかは分かる。
ネガティブな気持ちになると働いていても楽しくない。
それなら出来るだけ精神的に楽になれる考え方をした方がいい。
嫌われてるから・・・と考えるよりは好かれているから・・・の方が優位に立てるというのがN子の考え方のようだ。

まぁ、私には無理な考え方だ。
そもそも嫌いなものは嫌いだし、無理するのもよくない。
精神衛生上悪い。
N子のような考え方もありかもしれないが、蜂野が私のことを好きとか・・・いやいやあり得ないって、それに他人に優しい態度を取れない人に好かれたいとも思わないし、むしろ嫌われた方が縁が出来なくていい。

ハッキリ言ってただのクレーマーでしかない。
私の人生に全く縁がないどうでもいい人。
自分にとって必要のない相手に使う時間ほど無駄なものはない。


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