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生きる力 森田正馬の15の提言(帚木蓬生/著、朝日新聞出版)

手持ちランタンみたいな優しい本

主に大正から昭和期にかけて、日本における精神医学の発展に携わった森田正馬。
彼は既存の治療法をもとに試行錯誤を繰り返し、やがて神経症に対する独自の精神療法である森田療法を編み出しました。
本書には森田療法の根底にある大切な考え方15選について、平易かつ親切な筆致で著されています。精神療法について学んで何になるの、ただ難しいだけなのでは、と敬遠するのはもったいない。筆者が「神経症的な要素は誰もが大なり小なりもって」おり、森田療法は「神経症とはいえない、普通の人々に対しても、大いに通用する」と書いているように、誰にでも一読の価値がある本だと思います。ページ数も多くなく、読了にさほど苦労を感じませんでした。

さて、個人的にこの本の重要ポイントを短く言い表すなら、
≪マインドフルネス≫と≪悩むより行動すること≫
だと考えます。
マインドフルネスとはよく、「今、ここで起こっていることをそのままに体験すること」と言われます。
例えば「目的本位」の章では、昨今は人の外見よりも内面や感情、すなわち心に重きが置かれる傾向にあると指摘されています。しかし、心は目に見えず、移ろいやすいものです。そのような不安定なものを拠り所にするのは不可能であり、むしろ振り回され身動きが取れなくなってしまう。おまけに、5分以上思い悩むと脳は傷む(!!)そうです。
自分の中の感情を否定したり、覆い隠したりする必要はないが、それがあることを認めたうえで、「ひとまずやる」「まずは同じ時間に同じ行動を繰り返しやってみることから始める」ことが大切だとされています。
どんな感情があっても拘泥せず、目を背けず、それはそれとして今できることをやる。行動を優先することで意識を自分の外側に向け、かつ過去と未来にとらわれることなく、現在という時間を大切にすることにつながる。
あるいは、「無所住心」の章。
「周囲のすべてのありさまに注意を払いつつも、心は何か1つに固着せず、自由自在に変転する様子」を意味するようです。本書では幼い2人の子どもを同時にお世話するお母さんの例が挙げられていますが、これも言い換えれば≪今、ここ≫で何が起きているかに重点を置くことで子ども達と過ごす時間を密にすることにつながり、マインドフルネスの考え方に通じると思います。
そして「即」の章では、渾沌に満ちた世界をAとBの二分法でとらえるのではなく、大いなる無秩序、矛盾を抱えた状態のままにとらえることで本質が見えてくると説いています。いわゆる「べき思考」から解放され、自由になることができる考え方だと思います。

思い悩むだけでは目の前の現実は変わらない。悩みは自己の内側に意識を向けさせ、肥大化した自己は、不安や劣等感を増幅させる。それよりは、悩んでいる状態の自分を受け容れたうえで、小さなことでいいから手足を動かした方がよほど有意義な「今」を過ごすことができる。
本書は足元を優しく照らす、手持ちランタンのような存在だと思います。

正直なところ、本書の感想を「どうやって書こうかなあ」と考えていたら他事に気をとられ、時間が経ってしまいました。もう何でもいいから出だしだけでも書こうとPCを開き、それを自画自賛する日記を書き、次の日は300文字くらい書き足してそれをまた日記で自画自賛して…を繰り返し、やっとここまで書くことができました。
気分が乗らなかったのは、「うまく書かなければ」という思惑が働いていたのもあると思います。そんな気分本位の自分がいることも認めつつ、≪とりあえず書き終える≫ためのスモールステップを重ねられたことを褒めたい気分です(笑)。


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