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【読書】『こどもスケッチ』おーなり由子/おもちゃ箱暮らしの記録

絵本作家おーなり由子さんがご自身のお子さんが赤ちゃんだった頃のことを綴ったこの本は、こんな素敵な「はじめに」から始まります。

あたらしい命は、大風みたい。

吹き込んできたとたん、それなりに整頓して積まれていた日常は、ぶおおおん!と天高くふきあげられて、ばらばら。
落ちてきた時には、みんな、なんだか色とりどり。
 (中略)
世界は、大騒ぎのおもちゃ箱になった。
それからというもの、賑やかなおもちゃ箱の中で暮らしている。
 (中略)
こどもは遊ぶ気まんまんで生まれてくる。
だから目に映るものは、ぜーんぶおもちゃ。

どんぐりも石ころも、しゃもじも、ごはんつぶも、ビニール袋も、ぱんつも、水たまりも、雨も、雲も、月もー
 
ひっぱりだして、遊んで、壊して、ほうりなげて。食べて、遊んで、眠って。
こどもを見ていると、ひょっとして人間は、いろんなことをして遊ぶために、この世に生まれてくるのかもしれない、と思ってしまう。

おもちゃ箱の底にー
たまにひかる宝物をみつけて、花が咲いたような気持ちになる。
 (中略)
世界が知らない色で埋めつくされ、暗い色が暗く、明るい色が明るく、気持ちのコントラストがひかるように際立って、とても鮮やかでー。

この本はーーそんないろいろの、スケッチです。

『こどもスケッチ』はじめにより

小さなひととの毎日は、おもちゃ箱暮らし

小さなひとと毎日をいっしょに生きることは、おもちゃ箱のなかで暮らすこと。
そんな、普通じゃない「ふつう」をとてもよく表しているこの「はじめに」が、わたしはとてもとても好きで、ときどき、読みたくなります。


子どもを育てる幸福ーときに逃げ出したくなるけれど

子どもを育てるということは、ふつうじゃない。
ぜんぜん、ふつうじゃない。
命がけで産み落とした直後から1秒の待ったもなく、
言葉のない世界の中で、
生まれたばかりのむきだしの、
心と体が差し出されるのだから。

それはもちろん大きな喜びではあるのだけれど、ときに、どうしようもなく逃げ出したくなるようなことでもあって。
そんなとき、子どもの寝息を聞きながら、何度もこの本を開きました。

ああ、わたしと同じ思いのひとがいる。
そう思いながらぱらぱら読むうち、子育ての幸福を思い出し、いつのまにか胸の中がひかるような気持ちになって、また、笑えるようになっている。

わたしの子育てに寄り添ってくれた大切な本。
子育てをしたことのある方にもない方にも、おすすめです。

無条件で求められた日々

最後に、これもわたしの大好きな、
「あとがき」の一部をご紹介します。

 「あかんなあ」と思いながら、「何もしていない」と思いながら、終わっていく毎日。始まりも終わりもないような毎日。失敗ばっかりして、ちいさいことでいろいろ笑って、何のことで笑ったのか、ちっとも覚えていない毎日。
愛しさは、大げさなことではなく、ごちゃまぜの毎日の連続で編みあがっていく。
 わたしの見ている景色とこどもが見ている景色は、まるで違うかもしれないんだけれど、ちいさい時のことなんか、こどもはぜーんぶ忘れてしまうかもしれないけれどーー無条件で求められた日々。
わたしは親を体験できて、とてもありがたかった。
でも、まだ途中。これからも、こどもに心ゆさぶられる日々は続いていく。

『こどもスケッチ』あとがきより




「いたいのいたいのとんでいけ」


「女の子は小さな頃から、だれかをだっこしたい」


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