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【読書】『じゃ、また世界のどこかで。』ー撮って 笑って 旅をしてー

笑顔、笑顔、笑顔。

「僕の写真でもっとたくさんの人を笑顔にして、幸せを贈りたい」。

『はじめに』に書かれているこの言葉どおり、この本にはとにかく笑顔が溢れている。
思わず笑ってしまうような明るい文章とともに、人々の笑顔の写真がこれでもかと溢れている。

1年半で33カ国を巡って人々の写真を撮りながら、出会った人たちに2000枚以上のチェキを贈ったフォトグラファーの「こんちゃん」こと、近藤大真さん

彼の旅を綴った本書は、わたしの大好きな一冊。
その幸せな空気に触れたくて、定期的に開く。
はじめは読みたくなるたびに図書館で借りていたのだけれど、あまりに何度も借りている自分に気づいてついに買った、私の本棚の精鋭本。


1枚のチェキにできること

全体として楽しく幸せな本だ。
思わず吹き出してしまうような楽しさと心がくすぐったくなるような幸せが溢れる本で、その無条件の幸せ感がわたしがこの本を大好きな一番の理由。

けれどそんな中に、ピリリとした場面がときどきある。
旅をしていて直面する世界のダークサイド、人類が抱える悲しみの側面。

そのひとつに、インドでのこんな場面がある。

インドの根強いカースト制度の中で貧困や差別に苦しむ人々に対し「自分にできることはなんだろう」と考え続けたこんちゃんに、汚れた袋をぶら下げた裸足の女の子が話しかけてきたときのこと。

女の子:マネー!マネー!
僕:ノーマネー!オッケーフォト!!(笑)

カメラを向けると、女の子は嬉しそうにボサボサだった髪の毛を手櫛で直したり、いろんなポーズをとってくれた。
撮った写真をチェキにして渡す。喜んでくれるのかなんてわからなかった。
「こんなんいらん!金くれ!!」
「今の自分は汚れてるから嫌だ!撮らないで!」
そんなことを言われるかもしれない。

でも、この笑顔が安心させてくれた。めちゃくちゃ嬉しかった。
そうして写真を撮っていると、通りすがりのおっちゃんが僕を見て、手を横に振った。”やめておけ”みたいな仕草をした。余計なお世話だ。

女の子と遊んでいると、その友達も来てくれた。こっそり撮ったけど、裸足で、汚れた大きな袋を持ち歩いていた。
男の子はかっこいいポーズをキメてくれ、
女の子は手櫛で髪を整え可愛く身なりを整えてくれた。

この子たちにとって、
僕の贈るチェキがどんなものになるのかわからない。

この時、友達と写った1枚の写真が一生の宝物になるかもしれない。
何も思わずすぐ捨ててしまうかもしれない。

それでも僕は、写真のもつ力を信じる。
写真は一生の宝物になると信じている。

べつに偽善者と言われてもいい。
僕は、自分の旅に誇りをもっている。

この笑顔を信じている。

それが、僕にできること。

『じゃ、また世界のどこかで。』より

この文章とともに添えられた写真には、貧困にあえぐ裸足のストリート・チルドレンの、輝くほどの笑顔が写っている。
お金を求めて話しかけてきた子が、お金の代わりに自分の写った1枚のチェキを贈ってもらうことでこんなに素敵な笑顔になるんだと、何度読んでも不思議な感動に打たれる。

今日初めて出会った外国人が、見返りを求めることなく撮って贈ってくれた、自分の写真。
もしかしたらその写真は、この子にとって生まれて初めて手にした自分の写真かもしれない。
もしかしたら生涯でたった一枚きりの、子ども時代の写真になるかもしれない。
その写真と時間は、彼らの中で一生の思い出になるかもしれない。
お金をあげる以上の価値が、そこにはあるかもしれない。
もしかしたら。もしかしたら。

幸せ溢れるこの本の中にときどき現れるこういうエピソードは、美しい湖に落ちた水滴のように、波紋となっていつまでもわたしの心に残る。

世界をより良くするために、こんちゃんは写真を撮り続ける。
わたしは何が、できるだろう。
わたしは何が、したいだろう。

心に広がったその波紋は、消えることなく静かに広がり続ける。
きっとこれからも、考え続けていくために。


したいことがあるのなら。

この本のおわりに、そっと背中を押してくれるような、著者からのこんなメッセージがある。
ほんとうにそうだなあと、折に触れて思い出す。

 英語が中学生レベルでも、2カ国目で前歯が3本折れても、飛行機を3回逃しても、4日間アフリカの村で水とビスケットだけで生活しても、海外で全財産が250円をきっても(今思い返すと滅茶苦茶だけど)、なんとか旅を続けてここまで来られたんですよ。
 いろんな人に「絶対無理だよ」「できるわけない」「もうやめたら?」とか、いろいろ言われてきたけれど、自分を信じて、たくさんの人に助けられながら、ここまで来られたんですよ。

 だから、何かしたいことがあるなら、やればいいと思う。できない言い訳を探すよりも、どうすればできるかを考えよう。やってもないのに「無理だ」なんて言う人には、言わせておけばいい。結局、僕が言いたいのは、たった一度の人生、やりたいことやろう。逃げる理由なんていくらでも作れる。
 でも、逃げずに小さな一歩を踏み出すことで、大きく未来が変わるかもよ?

 これからも、僕は旅を続けます。
 もっといろんな景色を見てみたいし、もっといろんな人に出会いたい。
 僕の写真で、もっともっとたくさんの人を幸せにしたいから。

 この本を読んでくださったあなたにも、旅先でお会いできたら、最高にうれしいです。

 じゃ、また世界のどこかで!!

『じゃ、また世界のどこかで。』より


何かしたいことがあるなら、やればいいと思う。できない言い訳を探すよりも、どうすればできるかを考えよう

怖がりな自分の背中を押してくれるメッセージだ。

* * * *

開くたびに幸せになる本。
自分の本棚にも、贈り物にも、子どもたちにも。


最後までお読みいただきありがとうございました。
どうぞ素敵な読書体験を!

※書影は版元ドットコム様よりお借りしています。

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