ある夜の出来事
次の日も休みだし気にせずゆっくりと時間を過ごしたいと、某コーヒーチェーン店で先日購入した詩集を読んでいた。読み終わった頃にはもう外は暗くなっていたが、読後の孤独感に苛まれ、このまま帰るにはあまりに物足りなくて、知人から教えてもらったバーに行くことにした。そんな土曜の夜の出来事。
空腹にお酒はよくないと思い、バーに行く前にマックで安価な100円バーガーを2つ買った。20時以降は店内飲食できないので、やむを得ず近くの公園へ行く。控えめにいってデートの終盤に持ってこいのその公園には、寄り添うカップルや集団で花火をする若者、バドミントンをする家族連れまで様々。こんなに人がいるのに、私は一人かとハンバーガーを齧りながら思う。いつもなら寂しさが追い討ちをかけてくるが、今日はバーに行く予定があったのでむしろ清々しかった。こんな気持ちは初めてだった。
バーに行くと、堅苦しい雰囲気は無く大衆的で、初めて一人でいく割に気持ちが軽かった。案内されたカウンター席はスピーカーの真前。ゆらゆら帝国より坂本慎太郎が好きだと言うマスターがspotifyで流す好みの曲たちはどれも最高で、周りのお客さんも想い想いにリズムをとっている。
しばらくすると、常連の男性が私の隣の席を一つ開けて座った。(後からわかるのだが若く見えたものの私よりちょうど10歳年上だった。)一杯目に頼んだのはダイキリのロック。珍しいなと思っていたけど、本人曰くロックグラスだとゴツくてカッコいいからいいんだとか。(確かに普通のショートカクテルのグラスと比べれば言わんとしてることは分かる気もする…)手が寂しくなってついつい飲み過ぎてしまうと言う自称アル中の男性は、それを防ぐために葉巻を吸っている。葉巻の銘柄はPANTERというオランダのもの。缶を開けると残数は2本だけで、最後の一本をいただくことに。見知らぬ人に火をつけてもらうのは中々緊張する物だ。最後だから少し酸化してると言っていたせいか、味は苦目で飲んでいたストレートウィスキーの甘さが際立った。
男性は歌謡曲がメインのバンドをやっているらしく、音楽の趣味がマスターと合うらしい。私の席、その隣、男性の席がちょうどスピーカーの前の特等席で酒が美味くなると言っていた。たまに自分で買ったレコードを流してもらうのだとか。バンドに専念しているのかと思えば仕事は歯科医らしく面白い引き出しの人だなと思った。
おすすめの曲はないかと尋ねたら、逆に君はどんな曲を聞くんだい?と聞き返された。スピッツと答えれば、若いのに世代あってなくない?と言われたが、私からしたら小学生の頃からどっぷり聞いている指折りのアーティストである。その男性は、「チェリー」や「空も飛べるはず」のような有名曲ではなく、「愛のことば」が好きだと言った。私も冗談抜きでスピッツの中でも上位で好きな曲だったのでさらに意気投合した。(ちなみに、男性から教えてもらった曲は小沢健二の「ある光」。)
初めて行くバーでは少し物怖じしてしまってあまり会話をしないことが多いのだが、珍しく今日は会話が弾み、想定より一杯多く、時間も長く飲んでしまった。帰る間際に「お兄さん面白いね」と言われたのは素直に褒め言葉として受け取っておこうと思う。また、週末に訪れれば会えるだろうか。詩集を読み終えたときのどうしようもない孤独感はすっかり消化されてしまっていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?