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惑わしキノコの森のお姫さまたち|童話

🍄 キャラクター紹介

(左から順に)

🍄 せきぞう王:狩りの得意な王様
🍄 汀姫&紗蘭姫:双子のなかよし姉妹。
🍄 ブレード:麻衣さんの仲間のきつね。かわいい見かけのわりに、口が悪いらしい
🍄 麻衣さん:この物語の語り手、魔女見習い
🍄よるつきさん:森に住む妖精。アクセサリー王国出身



🍄物語の本編


 これは、紗蘭姫と汀姫が、まだ幼い少女だった頃のおはなしです。

 せきぞう王とふたりのなかよし姉妹の住むお城のそばには、深い森がありました。

 妖精のよるつきさんは、きのこの谷がお気に入り。しっぽの先の、ねむの花みたいなふんわりをつんと立てて、なにか楽しいことがないか、あたりを見回しています。
 ですが、そこにはいつものように、素っ気ない顔をしたきつねのブレードがいるだけ。

 まだ午後も浅く、お日さまは高く輝いていましたが、森の中ではシルクをかけたようにやわらかく、シダの葉やきのこにたわむれる光は、ひっそりと静かでした。

 星の綿あめのような胞子がほわり...と明るんで、今日もきのこのかさの下で、雪の舞うようにふっています。
 そのため、きのこの谷は、星の砂が一面にまかれたように、曇り空よりも少し明るいのでした。

 そこへやってきたのは紗蘭姫と汀姫、ふたごの姉妹でした。王さまの言いつけをやぶって、きのこの谷に遊びにきたのです。ふたりは、初めて見るめずらしい景色に、瞳を輝かせています。

「かさのなかだけふるなんて、なんだかおかしいね」
 ふたりは手をつないだまま、顔を見合わせて笑いました。たがいの顔を見ると、なぜか楽しくなってしまうのです。
「そうね」
「ふつうは、お空からふるのにね」
 紗蘭姫は、きのこの絵本をかかえなおして、言いました。
「とうさまが言ってたみたいに、あまいかおりがするね」
 ふたりは、それを確かめるために、こっそりここにきたのでした。

 そして、こういったときいつも先に駆けだしていくのは紗蘭姫でした。
「みぎわちゃん、これあったかいね。バニラのかおり」
 汀姫は、後からついていき、少しためらいがちに手を伸ばして、小さな綿あめにふれました。ひんやりと、甘い香りがします。
「そうね、クレームブリュレみたい」
「むこうのは、きのうのピーチメルバみたいだったね」
 紗蘭姫は、小さな両手をいっぱいに差し出して、光るふわふわを手のひらに受けました。おはなを近づけると、かすかにバラのようでもありました。
「しゃらんちゃん、おはなについてる」
「みぎわちゃんもだよ」
 ふたりはおはなの先にやわらかな光る香りをつけたまま、互いの顔を見て、また笑いました。

 汀姫は袖でおはなをこすって、くすぐったい綿あめを取りました。
 一方、紗蘭姫は、くちびるについた綿あめの甘い香りに誘われて、あむ、と飲み込んでしまったのです。
「みぎわちゃん、これおいしい」
 それはスミレの砂糖漬けのような、鼻の奥をくすぐるやわらかさでした。

 そして、見る間に、紗蘭姫の大きな愛くるしい瞳が、なんとなく眠そうにまたたきはじめました。
「しゃらんちゃん...?」
 すう、と息をはいて――そのまま紗蘭姫は丸くなって眠り込んでしまいました。絵本を大切そうに抱えたまま。
 揺り起こそうとしても起きません。どうしたものでしょうか。

 汀姫は、光るふわふわがどこかあやしく降り注いでくるのを見上げます。
 それはあまりにも綺麗で、自分たちが困っていることも、忘れてしまうほどでした。

 きのこは、土の中の悪いものをすいとって、きれいにしてくれるんだって――歩きながら聞かせてくれた、紗蘭姫の言葉。

 見上げると、淡くうるんだ光は、さくら貝や宙(そら)の流した涙のような、やさしい色をしていました。
 たぶん、お日さまやお月さまが呼び合って、悪いものを透かせて、なくしてくれたのでしょうか――。

「……みぎわちゃん、きのこ、ゆめをみながらきれいになるの...」
 紗蘭姫が、むにゃむにゃとつぶやきました。
 汀姫はにこりと笑って、紗蘭姫の星の髪飾りをなおしてやりました。

 午後も遅くなり、風もはちみつ色に少し溶けて、いつのまにか凪いできました。
 なんだか眠くなってきたわ...。
 まぶたをふわりとかすめるきれいなかおり。
 そのまま、汀姫も、ふう、と息をはいて――紗蘭姫の隣で、丸くなって眠ってしまいました。

 よるつきさんは、きのこのかさの上から首をのばして、のぞき込みます。
 香りだけならともかく、飲み込んでしまったら、三日くらいは目覚めません。

 しかも、あとからあとからほわりとつもる粒の下にいては、いつまでたっても醒めようもありません。

 よるつきさんは、ブレードを見ました。ブレードは一瞬目を合わせてから、ふいっと姿を消しました。

 麻衣さんを呼びに行ってくれたにちがいありません。

 麻衣さんなら、赤い眼の不機嫌なチェシャ猫や、気まぐれな子ども竜のいる原っぱをうまく通り抜けて、お城から王さまを呼んできてくれるに違いありません。

 よるつきさんは、きのこの下で眠り続けるとどうなるか、よく知っていましたから、ふたりのまぶたに降り注ぐ光を、時おりふっ...と吹いて払いながら、王さまが来るのを待ちました。

 夕空に、早い月がゆらゆらと、昇りはじめる頃――。

 王さまがふたりのもとにやってきたとき、汀姫は時折うっすらと目を開けて、ぼんやりあまい香りのなかにいました。

「とうさま...?」
「さあ、おうちに帰ろう。夜になるとやっかいだ。胞子がそこらじゅうを舞い始めるからな」
 せきぞう王は、こっそりお城を抜け出してきたふたりを叱るふうでもなく、左肩に弓を抱え直すと、まだ深い眠りの中にある紗蘭姫を片手で軽々とだきあげました。そして、右眼のスコープで悪いけものたちの気配をスキャンしつつ、汀姫の手を引いて、お城へと歩き始めました。

「私もお城までお供しましょう」
 魔女見習いの麻衣さんは、紗蘭姫の絵本を拾い上げると、ローブの袖からクリスタルのロッドを取り出して、目の前にかかげました。

「じゃあ、みんなの姿が目立たないようにしてあげるね」
 よるつきさんは、クリスタルのなかにある、小さな水晶宮にすっと体をすべり込ませます。
 ふわりとウィステリア(藤)色の光が灯り、一行のいるあたりは、たそがれの蒼にまぎれた薄紫のように、気配を鎮めました。
「すげ、シールドかよ。初めて見たぜ」
 ブレードは、ふさふさしたしっぽをさっと一振りし、手のひらにのるほどの小さな姿になって、麻衣さんの肩におさまりました。

 きのこの光る粒は、夜の静けさのなかで、ますますふうわりと光を際立たせ、ひとつひとつが珠のふれあうかすかな音を立てながら、甘くやわらかく、空の月をたずねるように、空へと上り始めたのでした。

 今宵は、ハーベスト・ムーン、 "収穫月" の満月です。
 一行を空から見下ろす月は、銅(あかがね)と金の翼を静かにたたんだまま、大きなまあるいヒトヨタケのように、美しく照り映えておりました。

※)ハーベスト・ムーン...9月の満月の異名

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🍄この物語ができるまで

コラボをつないで、世界をつづれ織りに💛

まずは、この記事に使わせていただいた画像、ふたつの記事のご紹介から。

キャラクター造形は、よるつきさん。(妖精)↓


背景画像を追加して、世界観を広げてくださった、青紗蘭さん。(姫)↓


コラボ全体の流れはこちら↓

このコラボに参加してくださっている、note の愉快な仲間たち(左から順に)
せきぞうさん & 青紗蘭さん & 麻衣です!さん & よるつきさん


🍄 あとがき

上でご紹介したクリエイターさんと、コメント欄でおはなししていて、自然にできあがってきたコラボ。そちらで"裏設定"のようなものができていたので、おおむねそれに沿って物語を決めました。
"ヒトヨタケ"や"竜"(ドラゴンフルーツ由来)なども、その流れです。

また、麻衣さんが"物語の語り手"ということになっているので、地の文は麻衣ちゃんの美声で再生しつつ、書きました。

実在の方々のお名前を借りているので、ご本人のイメージと違いすぎていないといいな...と思いつつ🤗

童話...だったのかどうか、いまいち分かりませんが💦
キャラクター造形をふまえて、そちらに寄せながら書くのは、いつもの書き方と違っていたので、興味深い経験でした。

この場を借りて、改めて感謝を♡

#童話 #小説
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#いつもありがとう





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