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正絹着物は自浄作用があるって本当?

 シルクには自浄作用がある。

 この自浄作用という言葉、初めて着物を買った古着屋のおじさんから教えてもらいましたし、シルク製品の紹介サイトでも見かけます。洋服を着ていた頃は絹製の服なんて着なかったものですから、「美しい艶や柔らかな手触りだけじゃなく、そんな機能性も備わっているなんて!」と驚きつつ素直に喜んでいました。

 着た後に必ずクリーニングに出さないといけない衣服は出費がかさみますし、面倒くさいとも思っていたので、自浄作用がある=クリーニングも不要という可能性は、懐事情も温かくない庶民かつ無駄を嫌うミニマリストの私には、たいそう魅力的な可能性に感じました。

 しかし、万が一この「自浄作用」が間違っていた場合、着た後に箪笥に仕舞いっぱなしの正絹着物が染みだらけ・カビまるけになりかねません。そこで、石橋を叩きすぎて渡る前には壊れがち、でおなじみの私は、素人ながら正絹の自浄作用について調べてみました

 結論から述べますと、絹に自浄作用はありません・・・

 なんだかショックです・・・。しかし、ただでは起き上がりたくありませんので、その根拠や、絹製品の管理や手入れに役立つ情報をまとめてみました。


はじめに

 本記事では絹に関して、「艶が美しい」などの主観や、「心地よい肌さわりで心の栄養になる」などといったことは述べません。絹製品のセールストークとして「皮膚がんを抑制する」と根拠の明記されていない情報までもが氾濫しているのを目の当たりにしたためです。

 私はただただ絹という物質の特徴と、それによって起こることのうち、わたしたちの暮らしに影響のある部分のみ、調べたことをまとめていきます。

絹の特徴

 絹という素材のメリットは、吸湿性・速乾性保温性に優れていることです。この3つの特徴は科学的にも立証されています。根拠について簡単に述べていきますので、そのまま読み進めていってください。

吸湿性が高い

 絹は木綿の1.5倍の水を吸うそうです。

これこれ。そんなに水をかけてはいけませんよ。

 絹の表面に大量に存在する親水性物質なるものが、水を絹繊維に引き込む働きをしているのだそうです。また、絹を構成するフィブリンという組織は、繊維の隙間に空気を含んだ微小な層が多数あり、水分の吸収を助けているとのことです。凄いですね。

速乾性が高い

 絹は木綿の1.5倍速く乾くそうです。

 絹繊維は前述したとおり多くの空気を含んでいます。また繊維はやわらかく空気や水を通しやすいため、乾きやすいのだそうです。

保温性が高い

 絹は木綿の・・・。すみません。木綿と比べてどのくらい暖かいのかは、分かりませんでしたっ!

 ですが、ご安心ください。なぜ暖かいのかは調べてきました。絹繊維のもつ空気層が熱の移動を防ぎ、吸湿性・速乾性によって適度な湿気を含んでいるため、汗を吸い、かつ乾燥も防ぐことができることが、保温性に繋がっているのだそうです。

絹の特徴から分かること

「そんな理科の授業みたいな説明はどうでもいいから、自浄作用について早く教えてよ!」

 と言われてしまいそうなほど、無味無臭な文章を書いてしまった…と少し反省しております。そこでここからは、もっと楽しく軽~くお話ししていこうかと思いまする。ここからは、絹という素材の特徴から分かる注意点について考えていきます。

 「またつまんなそう!」となりそうですが、私たちの暮らしに関わる部分なのでしばしご辛抱を。

 わたしが今まさにこの記事をへーこら書き殴っているのはなぜでしょう?それは、シルク製品の保管について悩んでいるからで、もっと具体的にいうと、保管中のシミやカビなどのダメージが不安だからですよね。だから自浄作用なんて素敵な情報を信じたくなっちゃうんですよね。

 わたしが着物を着始めたばかりの頃、もしかしたら祖母の箪笥に男物の着物が入っているかもと宝探ししたことがあったのですが、ほとんどカビやシミがついていました。実際に目の当たりにすると、思った以上にショックを受けます。

 カビやシミは絹や着物だけの問題ではありません。ウールや木綿、洋服や革靴なんかにもカビは発生してしまいます。そしてそれは、風通しが悪い高湿度な保管環境が主な理由だそうです。

 とは言われても、住環境は変えられないし・・・。

 ん?

 絹の特徴ってなんだったっけ?そうです。空気や水を吸ったり放出したり、つまり通気性がよくて湿気も溜め込まないのです。このことから、絹自体が細菌やウイルスが繁殖しづらい素材であると考えられます。

結論:絹に自浄作用はない

 ここまで調べてもなお、「絹はカビにくいのかも?」程度の推測しか立てることが出来ず、自浄作用についての科学的根拠となるような情報は見つかりませんでした。しかし、

 「絹よ。自浄作用があってくれ」

 そう願いながら、わたしはもうしばらくネットをさまよいました。

 そして、絹には抗菌作用があるという情報を見つけました。

 「そうか。抗菌作用があればシミやカビが発生しない。これが自浄作用の根拠になりえるかも!」とうきうき調べ始め、
 
 そして絶望しました・・・。

 どうやらこの抗菌作用説は、「フルボノイド色素というものが、絹を作る過程で完全に除去されなかった場合に防菌作用がある」という話らしく、絹じゃなくフルボノイド君がすごいだけでした。もしかしたら、絹の透湿性による菌が繁殖しづらいという特徴から飛躍して、抗菌作用があるなんて言われている可能性もあります。

 とにかく、われわれが必死に探し求めたひとつなぎの大秘宝(自浄作用)は見つけられず、冒険もここで打ち切りとなりそうです・・・。

 もし、なにか情報をお持ちの有識者様がいらっしゃりましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

正絹着物の保管方法

 絹に自浄作用がないと分かった今、私たちは気を付けて着物と付き合っていく必要があります。そこで参考までに、実際に着物で暮らしている私の正絹着物との付き合い方を列挙し、弊記事を終わろうと思います。

  • 汚れる場には着て行かない

  • 汚れが付かないようにする(食事の際は膝にハンカチをかけるなどetc..)

  • 着用後はハンガーに掛け1週間汗をとばす

  • ハンガーに掛ける際に汚れがないか確認する

  • 汚れがついていたら自分でとる(高級な着物じゃないなら)

  • 汚れをとる時は濡れタオルで叩く⇒とれなければベンジンを使う

  • 高級着物の汚れや、自分でとれない汚れがあったらクリーニングへ出す

  • 汚れがなければ畳んでしまう

  • 半年に一度、からっとした陽気の日にハンガーにかけて干す

 そして、もうひとつだけお伝えしたいことがあります。正絹の着物は洗濯しない方がいいです。具体的に言いますと、正絹の袷、つまり裏地のある着物は洗ってはいけません。

 私は以前、正絹の袷着物を手洗いしたことがあります。大島紬という、反物の制作過程で水につけることで有名な着物でしたので、「水に強いんじゃね?」と思い洗ってみたのですが、裏地との収縮率の差で変な皺が生まれ、生地の艶も失われました・・・。

洗濯直後の水が滴っている状態。
完全に乾かした後。

 反省点はいくつもありますが、お洒落着用のエマールを使ったのもよくありませんでした。正確に言えば、「お洒落着ウールも洗えるのだから絹もいけるよね」と過剰な期待をしてしまった私が悪いのです。使ったことはありませんが、絹専用の洗剤なら結果は違ったかもしれません。評判の良いものを載せておきます。

 みなさんが私と同じ轍を踏まないことを願っております。

むすび

 正絹着物の自浄作用、および管理に関する筆者の結論は以下の通りです。
  
 自浄作用はないものの菌が繁殖しづらいという特徴があることから、過度にシミやカビを怖がる必要はないように感じる一方、保管環境が劣悪(換気されない湿気のある場所)であればカビるでしょうし、絹は虫に食われやすいので、一定のリテラシーある管理は必要でしょう。

 適度に怖がりながら絹と付き合っていくことが、長持ちの秘訣なのかもしれませんね。

 みなさんの暮らしが、よりいっそう素敵なものになりますように。

 おわり。


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