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Jブルーカーボンクレジット創出に向けてやるべきこととは? 第2回宮城県ブルーカーボンシンポジウム開催レポート②

宮城県では2021年度から、新たな地球温暖化対策として注目されているブルーカーボンについて県内の取り組みや社会実装の状況を多くの方に知っていただくため『宮城県ブルーカーボンシンポジウム』を開催しています。
 
2023年2月3日(金)にTKPガーデンシティPREMIUM仙台西口で第2回宮城県ブルーカーボンシンポジウムが開催されました。基調講演と事例報告の2部構成で行われ、基調講演ではジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)理事長 桑江朝比呂氏が「ブルーカーボンクレジット制度の活用について 」、事例報告では南三陸町自然環境活用センター任期付研究員 阿部拓三氏が「南三陸町における取組〜宮城が誇る海の多様性〜」を紹介。

この記事では第2部の事例報告の様子をレポートします。ブルーカーボンクレジット(Jブルークレジット®)の創出を目指す南三陸町では、一体どんなことに取り組んでいるのでしょうか。

阿部拓三氏
北海道大学大学院修了後、南三陸町自然環境センター任期付研究員、北海道大学水産学部助教などとして海洋生物の研究・教育に携わる。東日本大震災後、流出した南三陸町自然環境センターの復旧に取り組むため南三陸町に戻り、2019年より現職。志津川湾のラムサール条約湿地登録に深く関わるとともに、志津川湾でのCO2吸収源である「藻場」(もば:海の森や草原)の基礎データを収集し、クレジット制度の活用を目指している。


■世界的にも貴重な南三陸の海

2018年10月、歌津・志津川・戸倉の海域を含む南三陸町沿岸が「志津川湾」としてラムサール条約(※)湿地に登録されました。海藻の藻場としては、日本国内で初めての登録になります。

※ ラムサール条約とは
正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」で、保全・再生と賢明な利用(ワイズユース)、そして湿地を維持する人づくりや仕組みづくりを大切にしている。

南三陸町志津川湾の最大の特徴は藻場の多様性です。マコンブやアラメ、アカモクなど大型の海藻類が岩場に海の森を作り、アマモなどの海草類が浅い砂地に海の草原を作ります。絶滅危惧種にも指定される世界最大の海草タチアマモのダイナミックな草原も広がっています。冷たい海にはえるマコンブと暖かい海にはえるアラメが共存する南三陸の海は世界的にも貴重となっています。

この両者がなぜ共存できるのか。その秘密は日本付近を流れる海流にあります。南三陸の志津川湾は、暖かい黒潮、冷たく栄養豊富な親潮、日本海を北上する対馬海流の支流である津軽暖流がバランスよく混ざり合う場所に位置しているのです。

私たちの調査では、志津川湾内において、海藻・海草で220種以上、動物で700種以上が確認され、独自の生態系が育まれています。例えば、サンマやサヨリ、トビウオといった外洋域の魚が沿岸の藻場から流れ出た「流れ藻」に産卵していたり、藻場がサケの幼魚の隠れ家になっていたりします。また、志津川湾は、アマモを餌とする渡り鳥で、国の天然記念物と絶滅危惧種にも指定されているコクガンの重要な越冬地でもあります。藻場は広いスケールで生きものたちを支えているのです。

■海水温上昇による海の変化

しかし今、そんな豊かな南三陸の海にも変化が訪れています。温暖化に伴う海水温の上昇により、暖かな海の魚 (季節来遊魚(※))が多く見られるようになっているのです。貝類や甲殻類の種類にも変化が出始め、季節来遊魚がこれまでの分布域を拡大しています。
 
※ 季節来遊魚
夏から秋にかけて、黒潮などの暖流に乗って流れてくる幼魚。冬になると水温の低下とともに死んでしまう。近年、温暖化により越冬するようになっている。

その中で、特に私たちが注目している魚がアイゴです。アイゴは主に西日本に生息し、海藻を食べて『磯焼け』を引き起こす厄介者です。南三陸の志津川湾でも生息が確認され、多くの目撃情報が寄せられるようになりました。
 
一方、急激に減っている魚もいます。その代表例がシロザケです。シロザケは全盛期の水揚げ量の1%以下まで減少し、道の駅の名物である『南三陸キラキラいくら丼』は幻のメニューになってしまいました。私たちが想像している以上に、環境の変化は早いのです。

このような海洋の変化を受け、地域からも、産業からも、脱炭素社会に向けたアクションが求められています。

■藻場はマルチプレイヤー

脱炭素社会への有効なアクションとして期待されているのが藻場の働きです。藻場の保全・再生は「ブルーカーボン」と「生物多様性の保全」にも貢献する可能性に満ちたアクションだと言えます。

ブルーカーボン貯留のプロセスの中で、アカモクの葉は流れ藻となって回遊魚の産卵場所にもなり、役目を終えると深海へ輸送されていきます。また、アマモの葉はコクガンの重要な餌にもなっています。藻場はブルーカーボンを貯留するとともに、生物多様性を維持するマルチプレイヤーなのです。

私たちは、藻場を保全・再生をする上で専門的な調査も行っています。2019年には、志津川湾全域で藻場の分布と資源量の調査を行いました。5年後、10年後に同様な調査をすることで藻場の変化を捉えることができます。

2020年から2021年にかけては、志津川湾内で越冬中のコクガンにGPS発信機を取り付け、行動を追跡する調査を行いました。アマモはコクガンの重要な食糧源なので、湾内でのコクガンの分布や行動を明らかにすることは、アマモの藻場保全の上でも重要になります。

こうした基礎的なデータの蓄積が今後のブルーカーボンの評価につながります。藻場の保全・再生によって、地球温暖化の緩和と生物多様性の保全につなげる。さらにクレジット化によってそのサイクルが強固に回っていく仕組みを確立していけたらと思っています。

■地域の目で自然と向き合う

藻場の保全と調査を行ううえで欠かせないのが、漁業関係者や地元の方々との連携です。研究者だけでなく、地域の目で自然環境をモニタリングしていくことが重要になります。
 
南三陸町では、2019年に地元の小中学生が「南三陸少年少女自然調査隊」を結成。地域の自然環境に親しみ、調査結果や地域の魅力を発信しています。1年の活動をまとめて制作した壁新聞は、2019年度全国エコ活コンクールで環境大臣賞を受賞。令和3年度宮城県ストップ温暖化賞も受賞しました。

目まぐるしく環境が変化している今だからこそ、次世代を担っていく子どもたちに、自然と向き合うしなやかな目と感性を養ってほしいと願っています。志津川湾では、藻場のブルーカーボンとしての役割や生物多様性との関わりを維持しながら、持続可能な漁業と地域のあり方を模索し続けています。

■おわりに

第2部では、南三陸町で藻場の保全・再生に取り組む阿部さんからお話を伺いました。
 Jブルークレジットの申請に向けて動き出した南三陸町。
藻場の保全・再生活動を科学的調査とセットで行い、取り組み自体にも地元の方や子どもたちを巻き込んでいました。
 大事なのは地域の目を養うこと。海の変化を一番身近に感じ、行動できる人を増やしていくことが、Jブルークレジット®を創出していくうえでも必要になってくるのではないでしょうか。

 これからも、宮城県ではブルーカーボンを推進すべく、シンポジウムなどのイベントを定期的に開催していきます。ぜひご確認ください。


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