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Jブルーカーボンクレジット制度って何?第2回宮城県ブルーカーボンシンポジウム開催レポート①


宮城県では、2021年度から、新たな地球温暖化対策として注目されているブルーカーボンについて県内の取組や社会実装の状況を多くの方に知っていただくため、『宮城県ブルーカーボンシンポジウム』を開催しています。

2023年2月3日(金)にTKPガーデンシティPRIMIUM仙台西口で第2回宮城県ブルーカーボンシンポジウムが開催されました。基調講演と事例報告の2部構成で行われ、基調講演ではジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)理事長 桑江朝比呂氏が「ブルーカーボンクレジット制度の活用について」、事例報告では南三陸町自然環境活用センター任期付研究員 阿部拓三氏が「南三陸町における取組〜宮城が誇る海の多様性~」を紹介。昨年(2022年3月)開催された第1回宮城県ブルーカーボンシンポジウムから、さらに社会実装に向けて進んだブルーカーボンの具体的な概要について討議しました。

桑江朝比呂氏 
京都大学大学院修了後、運輸省港湾技術研究所に研究官として配属。熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター客員教授兼任、港湾空港技術研究所沿岸環境研究グループ長などを経て、現職は沿岸環境研究領域長。2020年よりJBE理事長兼任。海洋CO₂の吸収源としてブルーカーボンに着目し、新たなカーボンクレジットとしての『Jブルークレジット®』制度を創設。次世代以降も持続的に海の恵みを受けられるための技術開発を目標に掲げ、異業種連携で調査研究を推進することを目的に活動している。

■CO₂削減からカーボンニュートラルの実現へ

2019年9月、国立環境研究所、茨城大学、京都大学、芝浦工業大学、筑波大学、東京大学、農研機構、立命館大学などの研究グループは、地球温暖化によって生じる経済的な被害額の推計を行いました。
 
その論文によれば、全世界における、今世紀末の気候変動による経済損失は、国内総生産(GDP)比で、最悪の場合で約5%以上、最良の場合でも1%に及ぶと予測されています。日本のGDPが500兆円とすると、良いパターンで約5兆円、悪いパターンで25兆円程度の経済損失は免れません。無策の場合と対策をした場合で約4%の差があります。少しでも早く対策をとることで、将来の経済損失は抑えることができます。

 日本ではこれまで、2030年度に2013年比で26%削減など、削減目標だけが定められていました。しかし、2020年10月26日、当時の菅内閣総理大臣は、所信表明演説で日本が2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。
 
一見似ていますが、これはゲームチェンジ級の目標の大転換になります。いくつかの将来予測がありますが、2050年までに排出削減できるCO₂は、今の70%〜80%までだと言われています。つまり、いくら頑張っても10%〜20%の排出は、2050年時点でも残ってしまう。
現在、日本では11.5億トンのCO₂を排出しています。つまり、2050年時点で1億トン〜2億トンの排出が残ってしまうわけです。これを残余排出と呼びますが、この残余排出を吸収除去技術で大気から除かないとゼロにはならないということです。ここが、今までの削減との大きな違いになります。

■CO₂除去のポテンシャルが高いブルーカーボン

2050年にカーボンニュートラルを達成するためには、残余排出を打ち消す吸収・除去技術が必須になります。
 
吸収・除去は、大気からCO₂を捕まえる補足(Capture)と貯留(Storage)が同時に活かされて初めて達成することができます。大気からCO₂を補足する方法としては、植物を使って光合成でCO₂を取り込む、あるいは、アミン系吸着液などで吸着させて取り込むなどの方法があります。

問題なのが貯留です。一時的に補足しても、貯留できなければもとに戻ってしまいます。 森林では、CO₂は木材に貯留されます。木の成長が止まったら追加的な貯留は起きませんし、山火事が起きたり、伐採して放置したりすると、すぐCO₂として大気中に戻ってしまいます。

一方、ブルーカーボンにおけるCO₂の貯留は独特で、植物そのものには貯留能力がほぼありません。枯れた海草が埋没したり、大陸棚や深海に運ばれたりして海底堆積物となり、それが数千年レベルで海の中にたまっていくのです。陸上の森林と違い、植生が失われても再び排出とはなりません。森林による炭素の貯留期間が40年〜50年なのに対し、ブルーカーボンは数百年から数千年の貯留期間を持ちます。

現在、日本の森林はCO₂吸収の多くを支えています。しかし、2030年には森林は老齢化し、追加的な成長は見込めず、徐々に吸収量が減少していくことが予想されます。このままでは、2050年度の削減達成は難しい。そのため、ブルーカーボンが今注目を集めているのです。

■お金と仕組みがブルーカーボンを加速させる

CO₂の吸収・削減を見込める藻場の再生は、これまで市民団体やNPO法人などによって支えられていました。しかし、ボランティアベースの自然再生活動だけに頼っていては、持続可能ではありません。いかに、新たな資金を導入し、企業や大規模団体の参画を促すかが削減目標を達成するには不可欠です。そこで国土交通省が、ブルーカーボンの具体的な実装に向けて2020年7月、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)の設立を認可しました。
 
JBEは、異なる分野の人々が、海洋の保全・再生・活用などブルーエコノミー事業の活性化を目的とした技術の研究開発を、連携して行うために設立されました。これまで海辺の環境保護を支えてきた環境活動団体に対しては、地元の活動の全国への訴求や活動資金の調達。民間企業に対しては、取り組みの数値化や目標達成に向けたブルーカーボン活用を推進しています。
 
ブルーカーボンに関わる取り組みを進めるために、JBEがつくった新たなカーボンクレジットが「Jブルークレジット®」制度です。この制度を効果的に運用できるようになると、クレジットの創出者(環境活動団体)は資金を得ることで、取り組みの活性化持続性の向上が見込め、クレジットの購入者(企業や団体)は、間接的にCO₂の削減に寄与し、社会貢献による組織価値の向上を見込むことができます。

■どうしたらJブルークレジット®を創出することができるのか

クレジットは先行投資、あるいは汗をかいた報酬と考えられていて、自主的な活動が必要になります。経済的なリスクを取らない場合は、自主的とは見なされません。

また、あくまでも、人為的に増やした分だけがクレジット化することができます。プロジェクトの実施前と実施後で増加したことを示せているか(Before-After)。手を入れた場所と入れていない場所を比較して示せているか(Control-Impact)。これらが重要なラインになります。人が手を入れたから増えたということ。この視点でのデータがクレジット創出にあたり必要となります。
 
そしてもう一つ大事なことが「追加性」です。クレジット取得が吸収量維持や増加のために必要で、かつ、クレジット売却による資金が活動維持や発展につながることが見込めるかどうか。クレジットを渡した時に、追加的な吸収除去が行えるかどうかがポイントになります。

例えば、経営が厳しくて水産養殖をやめるかもしれない状況で、クレジットがあれば採算が合う、あるいは養殖の継続・拡大が見込めるということになれば、追加性が高く、ブルーカーボンとして認証されます。

 ■Jブルークレジット®のこれから

Jブルークレジット®はこれまでの国の制度と大きく異なり、認証についての方法論を一つに定めていません。画一的な方法論を定めてしまうと、その方法を取れない方々は参入ができないことになります。それではブルーカーボンの裾野は広がりません。私たちは地元の良いプロジェクトを増やしたいので、証拠があるものについては、どのような計測方法や解析データでも受け付けることを基本方針にしています。

もちろん、各現場で使われる調査手法では不確実性が生じるので、審査認証委員会で審議し、その結果を認証されるクレジット量に反映させています。

少しずつJブルークレジット®の取得が増える中で、面白い結果も出てきています。社会実験として行なった横浜の事例では、クレジット認証したトン数を分割し入札をかけました。一方は購入量しか書いていない証書。もう一方は藻場づくり活動の関連事項として創出者が主張した、漁獲の増加、水質浄化量、種の保全など複数の環境価値を提示した証書。その結果、10倍以上の単価の違いが出たのです。

これは、買う側が炭素の量だけでなく、環境価値トータルで考えているということを示す事例だと思います。ブルーカーボンの価値は、世界の環境問題を同時に解決できるポテンシャルを持っているのです。

苦痛を伴うような行動変容は決して人は起こすことができません。気候変動の問題は、できれば収益が伴う形で、あるいは楽しく問題解決をしていきたい。その障壁を取り除き、起爆剤になるようなことを皆さんと一緒に考えていきたいですね。 

■おわりに

今回のシンポジウムでは、Jブルークレジット®制度の第一人者である桑江さんから、ブルーカーボンを取り巻く状況や今後の展望をお伺いしました。

日本の掲げる目標がCO₂削減からカーボンニュートラルへと変わった今、ブルーカーボン、および、Jブルークレジット®はますます注目されることになりそうです。

第2部の事例報告では、ブルーカーボンクレジット(Jブルークレジット®)の創出を目指す南三陸町での取り組みをご紹介します。


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