6歩目｢雨音と金木犀と､珈琲｡｣

   雨の降る､パタパタ……という音が聞こえる｡
こんな日には誰かにこの音を届けたくなって､
ボクは配信アプリを開いて枠を立てる｡

   YouTubeやツイキャス､zoomと違って､
映像の共有は出来ない｡
けれど､まったりできる癒しの時間を
誰かにもたらしたい｡誰かに届けたい｡
こんな気持ちは､ボク1人の
エゴでしかないんだろうけど……それでも｡

   ついでに自分もまったりしようと､配信中に
珈琲を1〜2杯分､用意する｡

｢もうひと息頑張りたい自分に｣

というテーマでブレンドされた､
香りも風味も豊かな珈琲だ｡

   どれだけのものかと言うと､
白砂糖を大さじ2.5〜3杯､そして
黒砂糖を大さじ0.5杯入れて飲んでも
風味も香りも全く死なず､何なら
入れる前より強まった感じすらする程で､
しかし､それでいてクセがあまりなく､
目が覚める様な､すっきりした味わいを感じた｡

   窓を開け､ベランダに腰掛けて､
珈琲を堪能しながら雨音に耳を傾ける｡
少し時間が経って､優しく香る｢秋｣に気付いた｡
隣近所でポツポツ咲き始めた──金木犀｡
その優しさに癒されながら､
ボクは腰掛けていた窓の桟から離れ､伸びをする｡

    ────さぁ､今日を始めよう｡

｢もうひと息頑張りたい自分に｣
    ──ものがたり珈琲 9月便

雨音を届けたくて開いた配信アプリ
   ──spoon(スプーン)