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本気の釣り

引っ越してきて、本気で釣りに来るのは初めてだ。
自分にとって、本気、というのは、釣り上げなくてもいいや、ではなく、必ず釣る、出来れば食べられる魚を釣る、という覚悟のもとに釣行することを意味する。

その場合、最低限のルアーも用意するが、国内の場合は餌釣りを意味する。

大好きな作家で釣りをよくした開高健は、餌釣りの事を「百姓、乞食の釣り」と蔑んだ。ルアーや毛鉤のゲームフィッシングこそが「騎士道、貴族の釣り」と言いたいのはわかるけど、特に日本には伝統的に多種多様な餌釣りが根付いていて、地方色も面白く、僕はどちらも好きだ。

最近知った釣り船屋のお婆ちゃんから青イソメを買う。江戸川沿いには釣り船屋が多く、江戸前のハゼ釣りの伝統と風雅が残っていて好ましい。

そのまま自転車を走らせて、人の少ない某所へ。

南風が強く、時に頭から波をかぶる。塩辛い水の味。

こないだ引っ越し前についリサイクルショップで手に入れてしまった中古の延竿(ここではリールのない竿をそう言います)に、竿と同じ長さの釣糸、ソフトルアーなどで使う極軽いオモリのついた釣針(ジグヘッドという)、そこにイソメをつけるだけ。

一番先のテトラポットの向こう側に放って、ゆっくり沈める。一投目から、魚の反応。延竿の釣りの面白さは、どんな小さな魚の僅かな反応さえ即座に感じられる感覚の愉悦。釣り上げるコトのまえに、この海に生き物が確実にいる、という実感を、何よりも早く全身で感じられる。

ウキもなく、自分の手と全身の感覚だけで釣る道具の少ないこの釣りを「脈釣り」という。脈をとるように、指先から伝わるすべての感覚で釣るこの釣法は、僕のやる全ての釣りの基礎です。

それにしてもえさばかり断ち切られてかかってくれない。こういう場合はフグが群れていることが多いのだが、どうも勝手が違う。フグならフグで合わせ方があって慣れているのだけど。
指の反応速度を早く変えて川上にすりあげる。
かかった。

ちっちゃーい。
これでも黒鯛だ。赤ちゃんだけど。
でもいっちょ前によく泳ぐし、柔らかい渓流竿だと海の魚は強く感じられるので、結構楽しい。
今の仕掛けでコイツが50センチになっても釣り上げられるようになってるのではある、もちろんリリース。

その後もとにかくこのサイズが続く。いやー、オモロイけどちょっとなー。
なので反応速度を落としてかからないようにして逃がす。
大物はもしかしたら底のほうかも、と探り方を変える。違うあたりが頻発。
さて。

君かあ、ハゼドン。
しかも新人さん。今年生まれだね。
全く違う反応でプルプルと小気味よいが、ハゼは20センチくらいのしかキープしないことにしてるのでバイバイ。

このあたりで日が沈み始める。
もしかしたら、大きめのは今探っている岸壁から10メートルより遠いところにいるかもしれない、と今度はリール付きの竿に変えて似たような仕掛けで遠くから探る。

大きな反応はなかなかなく、一度だけドスン、という重いのがあったがエサを一瞬咥えただけで針がかりせず。

チビ達も沢山いるはずなのに、やっぱ延竿じゃないと微妙な反応が全然わからない。だから延竿は楽しい。

遠くにやるのは諦めてもう一度帰る前に延竿に戻す。
今度は泳ぐのがかかったが、これまた小さなスズキの幼魚セイゴだ。

でも、東京湾でひとところで何種類もの魚が釣れるのはかなり楽しいことです。
年々、多様な魚は釣れなくなってきているように感じる。

もう最後かな、という一投で、またオチビちゃん。

でも楽しかったよ。ありがとう。
全リリース。

帰りにちょっと焦って竿を壊してしまったけど仕方がない。
自転車で行ける範囲内にいい場所があることに感謝しよう。

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