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長い下準備

昔から、将来の夢が三つある。

一つ目は精神科医になること、二つ目は作家になること、三つ目はブックカフェを経営すること、である。

一つ目の夢は叶えたので、二つ目と三つ目をどうするのかが問題である。

作家として、「最強の精神科医」が出てくる物語作品を書きたい、としばしば空想する。しかし、最強の精神科医とは何たるかを自分自身がが理解できていなければその存在を描くことができない、という結論に思い至り、その難易度の高さに慄然とする(結果、まだ書けないと諦める)。まだ精神医学の極意は修得していない。

現時点での個人的な結論としては、最強の精神科医は「最強の読解力」を持っている。目の前の患者の「物語」を読み解く能力に長けており、そのストーリー展開から、必然的に求められる答えを提示できる。生物学的な異常、生活史の機微により生じる心の動き、社会的な構造上の問題、など、雑多で膨大な情報を総合し、繋がりを見出し、現実に根ざした物語として、論理と感情の両方で理解できる。ストーリーさえ理解できれば、適切な薬、言葉、行動、その他治療法を差し出すのは容易であろう。読む段階で治療の成否の80%は決まっている。

医学知識で読み解けるのは生物学的な問題発生のメカニズムだけ(体の異常)。心理社会的な心の動きを読み解くのに役立つのは何か、、、と考え、昔から答えを探している。

そんな、「心の動きを読み解くのに役立つもの」として、個人的に辿り着いたのは、「物語作品を味わうこと」である。漫画、小説、映画、知り合いの苦労話や、有名人のwikipediaでもYoutubeでもなんでもいいが、自分以外の誰かが登場する「物語」を鑑賞し、自分の心を動かすことで、「人の心の動き」の標本が自分の中にできる。自分が直接多くの人生経験を積むのが理想ではあるが、一人の人間に与えられた時間は有限なので、経験できることにも限りがある。だから、物語作品を通して、間接的に誰かの「物語」を経験するのが、効率的で、有用なのである。

、、、なんてことを考えて、居心地の良い、「物語のセレクトショップ」を経営したいな、と大学生の頃から考えている。そのための下準備のブログが、プロフィール欄にリンクを貼っているブログ『ナラティブ研究会 活動記録』で、もうすぐ10年目に突入する。読んだ物語作品の感想を淡々と書き続けるという内容で、とりあえず続けておけば精神科医力、作家力、ブックカフェ経営者力が上がると考え、意地で続けている。当初宣言した10年を達成したらやめると思う。

ローランドと高城剛の成分が入った型破りな精神科医が活躍する話を、いつか描くかもしれない。一見フワッと何も考えず明るく人生を楽しんでいるようで、最強の読解力を持ち、うちには悲しみを秘めている。何を考えているか分からないながら、常識を超えた手段で、現代の医学だけでは届かない、傷ついた誰かの心を救うことができる。

そんな作品のために延々と続けている下準備が、このようなエッセイなのである、かもしれない。機が熟したら書けたらいいなと、いつも思っている。自分がなるのもいいが。その両方が理想か。まあ、できることから一歩ずつ。

そのようなことを考えながら、こんな文章を書いている。

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