ひなちゃんはひなちゃんなりに

 ひなちゃんとの意思疎通が以前よりもできるようになってきたと思い始めたのはここ3ヶ月ほどのこと。まだ言葉にはならないものの、ひなちゃんはひなちゃんなりに声を出したり我々にわかる方法でなんとか意思を伝えようとしているのだ。
そんなひなちゃんとのやり取りは早朝から始まる。
 まだ寝ていたい時間にひなちゃんはむくっと起き出し、おーとかうーとか言いながら我々を起こしにかかってくる。最初は背中をぽんぽん叩くという優しいものなのだが、寝たふりをしているとだんだんと声の音量が大きくなり、髪を引っ張るという荒業に出るのだ。
そのあたりでこちらが負けを認めてゴソゴソ起きるというのが毎朝お決まりの我が家のルーティーンとなっている。
 絵本を読んでほしい時にはその本を持ってきて手に触れさせてみたり、声でも
「えー、えー」
とアピールしてくる。
声の感じを直訳すると「ほら、読め」というようなテンションで非常に雑なのだが、見せたり指を刺すだけでは伝わらないということがひなちゃんなりにわかっているのかもしれない。
 この前はお菓子が入っている棚の前に立って、やっぱり
「えー、えー」
と必死に声を出している。こちらも声の感じを直訳すると「ほら、はよ、かしはいってんやろこんなかに」というテンションなのだが、そこまでされるとあげないわけにはいかないというのが親というもの、なのだろうか。
 ただこれらはまだひなちゃんに余裕がある時だ。先日外出中にどうしてもお腹が空いたようで、だっこひもでママに抱えられたひなちゃんがぐずりだした。普段歩いている時は基本的におとなしくしているのだが、よっぽどお腹が空いたのだろう、半歩前を歩く僕の腕や白杖を引っ張ったりと落ち着きがない。
「ひなちゃんあかんそれは、歩くのに支障が出る」
と言ったところでひなちゃんは全くお構いなしだ。
最終的には僕のリュックに手を伸ばし、ファスナーを開けようとしてくる。リュックの中にご飯やお菓子が入っていることを知っているのだ。
「ごめんひなちゃんもうちょっと待ってー」
と言いながらなんとか近くのベビールームに辿り着き、無事ご飯をあげることができた。
 ひなちゃんはひなちゃんなりに知恵を絞って、できる限りの方法で空腹をなんとかしようと頑張ったのだろう。そんな必死さが伝わってきた出来事だった。
 ひなちゃん自身の意思を感じるようになるに連れて、この強情さはやはり我々の子供なんだなと改めて思う。今日もひなちゃんなりにいろいろと考えて家の中をいそいそと動き回っている。

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