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YURIホールディングスPresents プレイヤーズヒストリー特別編 吉田謙監督インタビュー

2022明治安田生命J2リーグの開幕まで1週間を切りました。
ブラウブリッツ秋田公式noteにてプレイヤーズヒストリーを執筆いただいている土屋雅史さんによる、吉田謙監督の特別インタビューをお届けします。
昨シーズンの振り返り、今積み上げてきていること、「秋田一体」とは…など、様々なことを聞いていただきました。

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――まずは改めて昨シーズンのお話を聞かせてください。11勝14分け17敗、41得点53失点で13位でした。率直にこの結果に関してはどう感じてらっしゃいますか?

「“結果”は読んで字のごとしで、『結論の果実』。全員で日常を大切にしたその果実。そして数字は真実です。それよりも高みを目指し、チームみんなで走るのみです」

――シーズンが始まる前に具体的な数字は掲げていたんですか?

「掲げたことはございません。それよりも、すべては日常。『勝負の神は日常に宿る』と信じています」

――何となく『これくらいはJ2でやれるだろう』と想定されていたであろうものと、実際のシーズンでの戦いぶりにギャップはありましたか?

「日常から力を出し切れば、自分たちで切り拓き、切り抜けられると思っていたので、その一体感は最後まで崩れずに戦ってくれました」

――それこそ2020年シーズンと2021年シーズンでカテゴリーが変わったからと言って、トレーニングから変えたようなこともなかったでしょうか?

「積み上げたものをさらに強度を上げて、より強く、速く、正確に、ということを突き詰めていきました」

――“強度”って今のサッカーで凄く大事にされていると思うんですけど、吉田監督の考える“強度”というのは、もう少し具体的に言うとどういうものですか?

「ボールを奪う。そして、前に挑む。その2点だと思います」

――『ボールを奪う』ことにフォーカスして、“強度”を上げるために必要なことは何ですか?

「心と身体。心の覚悟が決まれば、プレーも変わる。その次に身体。フルスプリント、クイックネス、そしてパワー。パワートレーニングをサッカーパワーに変えていく。自分で自分を変えていく。自分で乗り越えた力は必ず自信になります」

――秋田の選手はプレッシャーを掛ける時の相手との距離感が、Jリーグの他のチームよりかなり近いというか、激しく行けると思うんですけど、それはトレーニングから意識されていることですか?

「日常から自己ベストを更新してほしい。もっと相手の懐まで、届く距離まで挑戦する。躊躇なく寄せる勇気やリスクというのは、自分で責任を背負った分だけ力が付く。厳しさの裏側にあるのは誠実さ。寄せる距離は仲間を裏切らないと思います」

――僕は秋田の選手から“フェア”という部分を感じているんですけど、いわゆる“フェア”な接触に対して、Jリーグはファウルにすることが多いような気がします。そのあたりはいかがですか?

「磨いたサッカーパワーでしっかりボールに行っているのに、ファールを取られる事もあります。しかしジャッジに関してはレフリーが決めるもの。自分たちができることは、厳しくボールに行き続ける。それが判断や強度を上げていきますし、練習から守備が厳しいほど、間違いなく攻撃者の質は上がる。緩い空気で練習しても何も生まれない。研ぎ澄まされた空気感で練習することが、最高のチーム、選手を作ると信じています」

――『秋田一体』は吉田監督がいつもおっしゃっている部分だと思いますし、インタビューでもよく使われていますけど、『秋田一体』をもう少し具体的に説明するとしたら、どういうふうに捉えているんですか?

「プロフェッショナルの本質には、“貢献”と“結果”があると思います、“貢献”は選手がチームの勝利のために、自分の強みを出して貢献する。その次に、秋田の皆さまに対して、ブラウブリッツ秋田がどのような貢献をするか。秋田の皆さまが、秋田のために走り抜く選手達のひたむきな姿に、共感していただけた時に、一体になれると。

秋田の皆さまに貢献するためには、まず僕らが熱くなければ何も始まらない。秋田のファン・サポーターの皆さまがどのように受け取っていただけるかを考えると、まず自分たちの熱量が大事かなと。スタジアム中にチームの熱が伝播して、応援してくださる皆さまの心も熱でいっぱいになった時に、一体感のある熱力釜になると思います。そして貢献と結果の“結果”は勝ち負けを超えて、どんな時も走り、どんな時も秋田のために最後まで戦うチームが秋田であるという結果を証明したいです」

――J2に昇格したことで吉田監督の試合前、試合後の監督インタビューが復活しました。いわゆる“吉田節”というか、バシッと短い言葉で、はっきりと、分かりやすく話されていると思いますが、あれにはどういう意図があるのですか?

「伝えたいことしか伝わらない。そして重要なことだけに絞って、より少なく、より良くしたい。言葉選びや伝え方、そしてサッカーも考えるほど、無知になっていくなと思います。一つのことを深掘りすると、自分は全然分かっていない。その時に自分の拠りどころ、原点に帰るのは、やっぱり本質。だから、本当に“無知の知”という感じです」

――ゴールデンウィークに開催されたホームのファジアーノ岡山戦で、インタビュアーの方が「今日初めてスタジアムに来た、秋田市の小学4年生から質問です。『サッカーの魅力ってなんですか?』」と聞かれたじゃないですか。それに対する回答、素晴らし過ぎました。あれは普段から考えてらっしゃることですよね

「『助け合う』という話ですよね。どんな時も“貢献する人”になってほしいなと。あれは子供たちへ答えるものでした、今の子供たちは簡単、便利、快適な世の中で生きていると思うんですよね。でも、何か大きなことを成し遂げる時に、1人では絶対にできない。助け合わなければ絶対にできないんです。最後は苦しみながら自分に勝って、人のために、仲間のために努力する。頑張った道のりと達成感をたくさん経験して欲しい。挑戦した分だけ強くなり、成長していくと思います」

――僕は「助け合う」というフレーズはもちろんなんですけど、サッカーを「心が強くなるスポーツ」と表現されたのが印象的でした。

「子供たちが主体的に、自分からやろうと思っているエネルギーって、目標に向かって夢中になっている姿って、ありえないほどカッコいいものじゃないですか。下手でもいいんです。それって絶対に応援したくなる。そして『ひたむき全力』で頑張る子は、感謝の気持ちを胸に秘めているはずです。感謝しているから全力になれるし、だからこそ心が強くなれると思います」

――あれは僕が見た2021年のJリーグのインタビューの中では、確実にベスト3に入ります。

「ありがとうございます(笑)」

――ホーム最終節の挨拶で、試合になかなか出られない選手の練習の姿勢について言及されて、少し声を詰まらせてらっしゃって、あれは凄く吉田監督らしいなと思ったのですが、普段から吉田監督がそういう選手たちに対して思っている気持ちを、改めて聞かせてください。

「選手の心を預かれるか。チームは1つの家族、1つの生き物ですので、何が欠けてもダメだと思います。その中で全ての選手は試合に出たい。だけど、出られない選手もいる。その選手たちに我々は支えられている。全ての選手たちが主役なんです。あの最終戦の日だけではなくて、試合当日の早朝に、出場できない選手たちが練習している姿は、言葉で表現しては申し訳ないです。言葉以上の価値がある。それを取り囲むスタッフやコーチたちもそうですし、その姿を見て、心を預からなければならない自分の器は小さすぎると思っています」

――ロアッソ熊本の大木武監督も、J3で昇格を決めたホーム最終戦で、やはりメンバー外の選手がその日の朝に練習していたことに言及して、涙で声を詰まらせてらっしゃいました。

「大木さんは選手の心を受け取っていると感じます。『心を受け取る』と書いて、『愛』ですよね。愛情がある大木さんは、素晴らしい指導者だと思います」

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――ここからは今シーズンのことを聞かせてください。吉田監督は2022年シーズンの戦い方として、今はどういうことを考えてらっしゃいますか?

「ゴールを奪う。ボールを奪う。前へ挑む。走る」

――それは継続ですか?それとも新たに進化させたいことですか?

「継続したものから、さらに、そしてもっと強く、速く、正確に、です」

――ここまでのキャンプ(※取材は1次キャンプ終了時に実施)で例年はやっていなかったようなトレーニングや、今までしていなかった選手へのアプローチも含めて、意識的に変えていることはありますか?

「徹底と継続からしか、本質は見えてこない。そこからしか磨かれた感性も出てこないので、根気を総動員したいです」

――吉田さんが辿り着こうと思っている本質の核みたいなものがあって、そこに近付くためのトレーニングをずっと継続しているというイメージですか?

「トレーニングはゴール付きが多い。ゴールを目指す。ボールを奪う。切り替えを連続して相手を上回る。サッカーを毎日しています」

――それはある意味で『ピッチで100パーセントプレーする』という、吉田監督が普段からおっしゃっていることに繋がってきますか?

「やるからには101パーセント、102パーセントの真剣勝負と自分磨き。その1パーセント、2パーセントの貯金が、選手の貯金になる。本気だから楽しいし、真剣の度合いが自己ベストの更新に繋がり、その高みへ向かう選手の背中がチームを強くすると思います」

――今年のチームのスローガンは『超秋田一体』ですよね。これは吉田監督が考えられたんですか?

「クラブの皆さんで考えました。いろいろな案もあったと思いますが、『秋田一体』というものが秋田の皆さま、クラブ、選手、フロント、アカデミー、すべてで大切であると思っていますし、それを超えて、さらに強く、ひたむきにという意味で、『秋田一体』を超える強固な一体感を表現しています」

――あとはあえて吉田監督にお聞きしたいのですが、今年はU-18がプリンスリーグ東北に参戦します。これはトップチームの監督として、どういう想いがありますか?

「リーグのカテゴリーも大切ですが、地域の子供は宝なんです。スクール生からU-18まで、すべてに愛情を持って接しないといけない。育成年代に関わる指導者はスポーツを通じて、秋田の未来を背負う人材を育てる責任があるんです。それを指導する熊林(親吾・U-18監督)を筆頭にするアカデミースタッフの努力は計り知れない、素晴らしいものです。熊林は午前のトップの練習にすべて来ます。その上で夜もU-18の子たちを指導している。彼を衝き動かしているのは、秋田への想いと使命感、秋田のためにという愛です。彼なしにはアカデミーは成り立たないですし、秋田生まれ、秋田育ち、秋田のために生きている男です」

――熊林さんはよく取材もさせてもらっていますが、素晴らしい指導者ですね。

「熊林を中心に、秋田にしかできない、秋田だからこういう選手が育つというようなことを考え抜いていると思います。原石を磨き込んで徹底と継続から、サッカーだけでなく、いろいろな分野で活躍する人を輩出していくと信じています」

――これが最後の質問です。吉田監督が考える、今シーズンのブラウブリッツ秋田の目標を教えてください。

「日常に全てを懸ける。以上です」

――では、ブラウブリッツ秋田として成し遂げたいことはありますか?

「ゴールを奪う。ボールを奪う。前に挑む。以上です」

――ありがとうございました!

文:土屋雅史
1979年生まれ、群馬県出身。
Jリーグ中継担当や、サッカー専門番組のプロデューサーを経てフリーライターに。
ブラウブリッツ秋田の選手の多くを、中・高校生のときから追いかけている。
https://twitter.com/m_tsuchiya18

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ピッチ上では語られない、選手・スタッフのバックグラウンドや想い・価値観に迫るインタビュー記事を、YURIホールディングス株式会社様のご協賛でお届けします。
https://yuri-holdings.co.jp/

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