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韓国の期間限定ノービザ再開 ~今後の見通しとリスク~

韓国の8月入国限定ノービザ

8月3日、韓国政府とソウル市が、日本など3地域からの「ビザ免除措置」による入国を一時的に再開すると発表しました。

●日本、台湾、マカオ対象にビザ免除入国を8月の1か月期間限定で4日施行
●出発72時間前にK-ETA(電子旅行許可制度)を申請、許可を得る必要あり
●ソウルフェスタ2022(8月10日~14日)に合わせソウル市が政府に要望
●3日の文化体育観光部、法務部、外交部、疾病庁などが参加した「海外流入状況評価関係部処会議」で決定

このニュースを最初に見て、「8月だけなんて短い!」と感じた方もいると思いますが、それは違います。表現上、8月に限定されているのは「入国」です。また、もともと日本などへのノービザ政策としては、90日間(3か月)の滞在が認められていました。また、ソウル市が主導し発表主体でしたが、決定自体は政府全体が行っています。ですので、以下のようなことが言えます。

●”8月中に限定”というのは韓国入国日。ノービザ滞在は90日(約3ヶ月)
例えば8月31日入国なら最長で11月末ごろまで滞在が可能
●ソウル市が主導したノービザですが、韓国政府全体として一時再開を決定しているため、済州や釜山などからの入国も可能

上記の解釈が正しいことは、外交部及びソウル市に確認済みです。

K-ETA(電子旅行許可制度)とは

すでに4日からノービザ制度が開始されていますが、ビザ無しで入国する方は、K-ETAという電子許可をホームページなどで72時間前に申請する必要があります。アメリカが行っているESTAのような簡易的な渡航手続きと同じものです。物理的なビザ申請に代わり、オンラインで完結するので、手続きが簡略化されます。(手数料かかります)

ただし、これまですでに観光ビザなどを取得されている方はそのままビザで渡航が可能で、K-ETAを申請できない仕組みになっているようです。
以下、K-ETA申請サイトのリンクと日本語での公式案内YouTubeリンクです。

”突然"のノービザ再開決定までの経緯

予兆があったのは、7月18日に韓国の朴振外相が日本を訪問して行った日韓外相会談です。この会談では韓国側が「ノービザの早期実現」を提案。
さらに韓国外交部の幹部は、この会談の背景を説明する場で、日韓ノービザの歴史について「我々が日本側に一方的に行ってきた」「一方的にやることは技術的には可能だ」と意味深な発言をしました。
すでに、"日本が動かないなら一方的にでもやってやろうと"韓国政府内で検討が進んでいたわけです。
そのまま、具体的な動きがないまま8月に入ってしまいましたが、1日になって、「明日2日にもソウル市がイベントに合わせて限定的なノービザについて発表するようだ」と情報が入ってきました。ただ、2日になると「会議は明日3日に変更された」と情報が錯綜。ただ、改めて取材を進めるとソウル市の関係者は、「会議は3日の午後2時に非公開で設定。外交部、法務部、疾病管理庁、文化体育観光部なども出席する。ノービザ実現の可能性が高い」と明かしてくれました。ただ、過去の経緯からしても、最後まで分からないのが韓国です。
事前に報じられるレベルまでは、情報精度を上げることができませんでした。このときの私のTweetが、以下。
翌日3日の午後3時半過ぎ、ソウル市から正式に発表が行われたという流れでした。

一方的なノービザの背景

なぜ今回、韓国政府は一方的な期間限定的なノービザに踏み切ったのでしょうか。理由は幾つかあります。

●日本の在外公館での観光ビザ発給業務の負担軽減
これは実際にビザ申請をした方ならわかると思いますが、ビザ受付予約のハードルはいまだに高く、申請が大変です。それに対応する大使館、総領事館のビザ発給の業務負担が限界に近づいていたということかと思います。
ソウル市の発表文でも、この点を指摘しています。ビザがボトルネックになって観光客が増えていないという状況だったわけです。

 「最近、訪韓の需要が急増し、日本など在外公館でビザ発給に3~4週以上を所要するなど、観光客誘致に支障が出ていたが、今回の3地域ノービザ再開の決定により、韓国訪問及び旅行の不便さが改善される」

ソウル市の発表

●韓国国内の観光産業の支援
ソウル市の発表資料では、コロナの前後比較で、観光業界売上の減少は約18.3兆ウォン、従事者の減少も約8.5万人と深刻な打撃を受けてきました。
ちなみに、これまで韓国への入国がノービザだった112国地域のうち、すでに104国地域が実はノービザ再開されています。ですので、欧米中心に多くの観光客が来ています。
そんな中で、最大の観光顧客だった中国はまだゼロコロナ政策で海外旅行どころではありません。
コロナ前、中国に次ぎ観光客数2位だった日本(327万人)と、3位だった台湾(126万人)からの観光客受け入れが、観光市場の活性化に不可欠だったのです。

●人的な往来の活性化を関係改善につなげたい
尹錫悦政権は「日韓の関係改善には人的な往来・交流を増やしていくことが重要」と考えていています。政権発足当初から肝いりで進めた"羽田~金浦便の再開"がその代表例です。本来は日韓相互でノービザ再開を目指したわけですが、コロナの感染拡大、日本側の慎重姿勢もあり、なかなか進まず…。
しびれを切らしていたところ、ソウル市から「Seoul Festa」で期間限定でできないかと提案があり、政府もそれに乗った形です。
韓国政府としても、そのイベントを名目に期間限定にする良い理由になったと思います。また、日本だけではなく台湾・マカオも入れた形にして、しかも、入国地点もソウルに限定しないというあたり、絶妙な判断です。

今後はどうなるか?

今回の期間限定のノービザは、恒常化に向けての”検証”だと思います。それゆえに、入国地点をソウルだけにしなかったと考えられます。
聞いている限り、現時点で韓国政府としては、今回のノービザの期間を延長したいと考えているようです。ただし、結論はわかりません!

期間限定のノービザの間に、問題が起きないことが大前提です。
航空便や宿泊施設は足りるのか、コロナで帰宅困難者が続出しないか、韓国国内の感染者が増えないか、韓国国内で一方的なビザ政策緩和に批判が高まらないかetc 色々と考慮して、決定していくと思います。

日本側はどう対応するのか?

わたしは、”観光ビザ再開”のタイミングから「個人的には韓国側だけが入国要件を緩和する状況は、あまりよろしくないと思う」と言ってきました。それについて、以下のような質問がありました。
この質問への回答で、今後の悪いシナリオについて書いてみました。

こんにちは。ggrksって「ググれカス」、つまり、「それくらいGoogleで検索しろカス野郎」の略ですか。そう略すの知りませんでした!
さて、本題です。
本来、ビザ政策は「相互主義」、つまり双方で同等であるべきだと思います。ただ、日韓で見た場合、現在、個人観光を許容しているのは「韓国側だけ」で日本人だけが可能です。
これに加えて韓国側だけが「ビザ免除」まで行うと、さらに不均衡が拡大しますね。もし逆の立場なら、どう感じますか?
「おいおい、そっちは個人観光ビザも出していないのに、一方的にさらにノービザまで認めるのか?!」と感じてしまうのではないかと思います。韓国の方の不満は強まるでしょう。
これが"日本への一方的な譲歩"だと韓国の尹政権への批判が強まれば、他の懸案でも前に進めなくなる可能性があります…。
ただでさえ支持率が下がっているので、最も重要な懸案である、いわゆる徴用工問題などの解決にも影響が出るのではないかと危惧しています。
もし解決に至らないまま日本企業の韓国国内資産が現金化されたら、日本側は報復措置をとるでしょうし、それに応じて韓国側も…。日韓関係は、さらなる迷宮に入ります。往来の自由化どころではなく、逆行します。
ちなみに、現金化に対する日本側の報復措置の選択肢の1つとして、コロナ前は「韓国人へのビザなし訪問の停止」が挙げられていました。今、韓国に対してはコロナを理由にビザなし訪問を停止しているので、この選択肢は意味がありません。しかし、日本側が行う何らかの措置への報復として、韓国側が「日本人の渡航ビザの無効化」などを行うことだって可能性としてはあるのです。
私はそのような状況は見たくありません。『よろしくない』という一言にこのような最悪のシナリオを含意していました。

質問箱への原田の回答

ちなみに、8月4日にASEAN関連会議で、再び日韓外相会談があり、韓国の朴外相は「韓国政府が日本·台湾·マカオ対象の一時的な無ビザ入国を実施することにしたことを紹介。今後も両国間の人的交流の再活性化のため、制度的基盤づくりの努力を続けていこうと述べた」とのこと。
韓国側はノービザでも”日本の呼応”を期待しているワケです。
これに対して、日本側の発表は「両国間の懸案や課題について議論を行うとともに、両国間の協議を加速させることで改めて一致した」と 具体的な歴史問題やビザなどについて記載なく淡白な発表でした。
日本側が動くのは、まだ先になりそうな雰囲気です。

コロナ陽性になったら帰国できないリスクは依然有り

最後に今、海外に行くことのリスクについても書いておきます。
すでに色々と情報が出ているとおり、日本から出て韓国など海外で過ごし、そこで日本に戻るために必要なPCR検査を受けて陽性となる人が続出しています。
韓国は陽性になると自宅隔離7日ですが、それ以降もPCRで陽性が出てしまうことが大半です。予定通り帰国できない、帰国のメドさえつけられない「帰国困難者」という状態になるのです。日本大使館や総領事館から「領事レター」という書類を書いてもらい、帰国を認めてもらうのですが、すべて対応してくれるわけでもなく、航空会社によっては搭乗できないこともあるそうです。
日本人の「帰国困難事案」について、在外公館によっては注意喚起や帰国援護(領事レター)について案内しています。以下のリンクは、インドネシアのバリ島のデンパサール総領事館の案内です。隔離の制度やオーバーステイの基準などは異なりますが、領事レター発行に必要な書類などが記載されていて、参考になります。
https://www.denpasar.id.emb-japan.go.jp/files/100374432.pdf

とにかく、まとまった「公的な情報」が少ないのです…。
今後、ノービザで日本人観光客が増えるであろう韓国の日本大使館でも、邦人が陽性になって帰国できない場合の手順などを案内すべきだと思います。

また、知人が運営するインスタアカウントで、観光客が陽性になり、帰国が大変だった状況を説明してくれているので、参考にリンクを貼ります。