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共創(Co-Creation)で生み出される価値あるイベント〜京都美山サイクルグリーンツアー

ぼくが事務局長となって企画し、実行委員会で運営している、美山町が舞台のサイクリングイベント「京都美山サイクルグリーンツアー」は、昨年(2019)の第8回大会まで、サイクリングを通じて多くの美山ファンを生み出し、サイクルツーリズムのジャンルで、この町を一気に国内外に有名にした、自他共に認める非常にインパクトあるイベントコンテンツである。

例年、1,000名を越える参加者が美山に集い、個人、家族、グループの垣根もなく、自然の中、自転車で一日を楽しく過ごすことが出来る良質のイベントとして関西のサイクリストを中心に人気を博している。
さらには、販売される定員1,000名のチケットが、発売後わずか15分で完売するという異常な人気ぶりは、行政や専門業者が関わらず、市民が主となって行うイベントとしては、他に類を見ないまさに特筆に値すべきものだと思う。

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あまりの人気に、主催者として広告を打つ必要もない上、参加者の定員割れなどという心配もない。つまり浮いた広告費を参加者へのサービス(つまり食料など)に転化するのだから、参加者からの評価もさらに高くなるのはある意味、当然のことであろう。
がしかし、どれだけ人気が出ようが、定員枠を大幅に増加させることはしないのが、ぼくらのイベントの特徴でもある。それは、参加人数増に伴うイベントの質の低下、例えば安全性だったり、提供する食料やサービスなどが低下することを防ぐためだ。つまり、「主催が身の丈にあった規模で、最善を尽くす」という考え方を貫いているイベントなのだ。

このイベントは、ぼくが美山に移住して2年目にはじめた「美山自転車の聖地プロジェクト」の3年目の集大成として企画したイベントで、当時、サイクルツーリズムが全国で人気を博すようになったころに、他の多くの地域と同時期に生まれたサイクリングイベントのひとつであった。
ただ、ぼくらのサイクルグリーンツアーは、「サイクリング」というものに対するとらえ方が、他のイベントとは大きく違っているため、その後のイベントの成長と展開が余所とは大きく違う。

その違いとは、そもそもイベントの構造にある。
サイクルグリーンツアーは、他のサイクリングイベントと違って、二日間にわたって複数のプログラムが存在する複合型のイベントとなっている。
メインコンテンツは、町内全域をオリエンテーリング形式でくまなく巡る周遊型のサイクリング “ロングライドチャレンジ”だが、それだけではなく子どもを対象とした“キッズ夏休みチャレンジ〜ウィーラースクールと田舎あそび”や、“家族で田舎暮らし体験”、“サイクル女子会”など、美山町の環境を最大限活かした様々なコンテンツが複合的に組み合わさっている。

ただサイクリングだけではなく、「自転車に乗るという機会を通じて、家族や仲間と美山で楽しく過ごして欲しい」という、主催者(町民)の願いがイベント全体の隅々まで行き渡っているのである。

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そしてイベントの経営手法にも、他と大きくな違いがある。
例えば、このイベントは公的な支援つまり「補助金を受けない」という基本方針がある。
実は、ぼくが関わるほぼ全ての取り組みに言えることなのだが、「まずは自分たちの力でなんとかしてみる」という考え方がベースにあるからだ。

なにを行うにしても資金調達に関して、できる限り公的資金(補助金)を申請しないこと、加えてイベント専門業者を使わず、可能な限り、自分たちの能力で出来る範囲でほとんどのものを作ってしまう、という方針を明確にしている。それはなにより、このイベントを納得いく形で継続したいという思いがあるからである。

こうした資金計画により、開催コスト圧縮のための工夫や手法の開発、イベント開催ノウハウの蓄積、さらには余所にはない住民と参加者の濃密な関係性の構築が可能になっている。
そして現在まで、公的資金やスポンサー収入無しでも安定した運営を続けることが出来ているのだ。
つまり、参加者の数が予算の上限になるため、社会情勢など外的要因の如何にかかわらず、イベントの内容を実情に合わせるなどの臨機応変な対応が可能なため、無理なく内容を調整し実行することが出来るのだ。

人気が高いロングライドチャレンジの安定した参加費(全体収入の90%以上!)を収入の柱にし、その周囲の複数のプログラムを同時開催する。
メインとなるコンテンツと他のコンテンツを上手く配置し関連づけることで、運営資金のイベント全体への流動的な活用が可能になり、それによって本来、単体では実現が難しかったコンテンツが実現可能になる。すると全体として厚みのあるプログラム設計となり、結果、イベント全体で参加者のエントリーへのモチベーションを高める事につながり、さらに安定した集客が期待できていると、ぼくは分析している。
加えて、この全体の予算の中から、ゲストによる地元の子どもたち向けのスイミングやバレーボール教室などの特別プログラムも開催し、開催地である地元への理解を促進することも重要なポイントにしている。
これには、こうした大イベントが地域で開催されるということで、単に参加者だけでなく地域にどのよう価値が還元され、地域貢献になっているのか、ということを明確する目的がある。
これが結果、住民のイベントへの支持と協力を促し、イベントの価値を地域に浸透させていく。

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このように、独自の様々な創意工夫を懲らした京都美山サイクルグリーンツアーでは、実は毎年、単年度赤字を出していないのだ。(初回のみ少し赤字決算だったが、翌年には単年度黒字化した)
自己資金のみの運営であるにも関わらず、である。
これはこのようなイベントを作る上では、当たり前の考え方だと思うのだが、補助金投入が当たり前になっている多くのイベントは、もしかしたら忘れつつある感覚なのではなかろうか。

ちなみに、あくまで参考だが、ぼくがこれまで調べた情報では、1,000人〜1,500人規模の大会の予算は、全国平均、大体1,500万〜2,000万円というのが相場のようだ。
ところがぼくらのサイクルグリーンツアーは、総予算が約700万〜800万弱である。さらに付け加えると、通常この総予算は、ほぼサイクリング部分に投入されているのが普通だが、うちでは、この総予算からロングライドのみではなく他のプログラムの開催経費も含むのだから、実際のところ他のイベントより、コストパフォーマンスがあきらかに高いことが簡単に想像できるだろう。
ここから明確になるのは、イベント成否を決めるのは、行政の支援体制の確保やスポンサーの動向ではなく、「参加者がこのイベントを望むか否か」ということになる。つまり参加者から一定の支持を受けることができれば、その開催に必要な収入は確保され、その参加人数によってイベントの規模や仕組みを調整することで、イベントの健全経営が可能になるということになる。

そもそも受け皿となる町のことを考慮せず、テンプレートを無理矢理押し込んだような、町の実態とはかけ離れた規模でのイベント運営は、経営的な側面からも開催や、その安定した継続が困難になる危険性が大きいことなどを示唆しているのでは無いか。
全国で、人気はあるがイベントが終了してしまった例の大部分は、(決してそれだけではないが)イベント経営の基本的な考え方が、補助金、スポンサー収入、業者依存になっているからではないかとも思える。

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さて、この京都美山サイクルグリーンツアーのもうひとつの大きな特色は、そのメインコンテンツである「ロングライドチャレンジ」の仕組みにある。

まずは、コース内で食事をする補給所(以下、エイドステーション)について説明したい。
全国に数多あるサイクリングイベントは、概ねコースが決まっているるやり方が大勢をしめる、つまり、距離に応じたコースが設定され、参加者は脚力や体力に応じたコースを選び、その金額に応じたサービスを受ける仕組みが主流だ。
例えば、脚に自信のあるサイクリストには、100キロを越える、走りごたえのある長距離を走るコースが用意され、体力に自信のないサイクリストには無理の無い中距離のコース、初心者や子どもを含むファミリーには、比較的挑戦しやすい30キロ程度のコースという感じで、あらかじめ楽しみ方に会わせたコースが設定されていることが主流となっている。そして、それぞれのコースの途中、およそ20キロメートル毎に、エイドステーションが用意され、地元の産物、グルメなどが振る舞われるスタイルだ。

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これに対しわれわれのツアーは、決まったコースがないため、エイドステーションの考え方が他とは大きく異なる。

例えば、距離とコースが決まっている場合、その距離に応じた形でエイドステーションの数が変わるのが一般的だ。
つまり、長い距離の部に申し込んだ人は、多くのエイドでそれぞれの食を楽しめるが、30キロメートル程度の短い距離なら、エイドステーションは1カ所しかないと言う風に、距離と参加費によってサービスが異なる。エイドステーション側も、参加者が訪れる大体の時間や来る人数が決まっているので、その時間帯だけ食を提供すれば良いため、比較的管理がしやすいシステムになってる。

しかし美山の場合は、決まったコースがないため、同じような管理方法が採れない。つまり、参加者はスタートした瞬間に自由に各方面に散らばるため、誰がどこへ行くかわからない。
そのため各エイドステーションでは参加者全員に対して、いつでも受け入れる準備をしなければならないことになる。
当然、何人来るかわからないため、様々なメニューを十分な数量だけ用意することにもなる。これは食事を提供する側からしたら、かなりの手間と工夫を要求されることだが、反対に参加するサイクリストには、様々な恩恵がもたらされる。
簡単に言うと、美山のロングライドはすべての参加者に平等さが担保される。
例えば、脚力に自信のある大人や体力に自信のない女性や高齢者であっても、また、子どもでも、走る距離も行きたい場所もすべて自由。つまり、走る距離に左右されず制限時間いっぱい使って、すべてのエイドステーションを回ることが可能になる。参加者すべてに平等に「美山の食」を楽しむ機会を作ることになる。
つまり、参加するカテゴリーによって金額や楽しむ内容が主催者の思惑で変わるということがないのだ。

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そして、なにより特筆すべきは、美山のエイドステーションの質と量だ。
コースとなる町内全域には、5カ所のエイドステーションが配置され、朝一番のスタートから、午後の門限の時間近くまで、すべての参加者に大量の食事が提供される。
このエイドステーションは、地域の人々によって運営されている。大会事務局からのオーダーは「1,000人以上の参加者を楽しませてあげてください」という一点のみ。あとは、予算の使い方も内容も、すべてそのエイドステーション毎の地域の人のアイデアや腕に任される。
この自由さが各々のエイドステーションの独自性を発揮し、圧倒的なサービス精神と食事の質の高さによって参加者の支持を得ているのだ。

この、「あまりにも自由で、時間制限と食料が絶え間なくサーブされるエイドステーション」という概念も、国内のロングライドとして大変ユニークな試みであり、参加者から、単なるエイドステーションではなく、まるで町内に散らばったビュッフェだと称される所以だ。ゲストから「食べ走り」とも呼ばれる。

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もうひとつ、このタイプのサイクリングでは重要なポイントがある。
それは「安全管理」である。
こうした大規模サイクリングイベントでは、毎年、全国どこかの大会で事故が起こっており、こうした事故を少なくすること、または未然に防ぐことは主催者の重要な課題の一つになっている。
この安全管理のために、多くの費用がつぎ込まれているイベントがほとんどで、その費用が全体の予算を大きく圧迫しているのも事実だ。
ある1,500人レベルのイベントの総予算のうち約半分がその安全管理に投入されているという情報もある。

「如何に安全に大会を終えられるか」はわれわれ主催側の心からの願いである。そして京都美山サイクルグリーンツアーには、他の一般的なかたちのイベントよりも、安全管理が難しいという大きな弱点があった。
つまりコースが決まっていないために、参加者がどこで何をしているかを把握しづらいのだ。
ところが、われわれのロングライドでは近年、事故どころか、怪我をするような目だったトラブルも発生していない。夏場の開催のため、熱中症も心配しているが、その事例も発生していない。
これは安全管理を担当するサイクリストのグループの存在と、なにより参加者の安全に対する意識が高いことが重要な役目を果たしていると感じる。

美山に感謝の気持ちを持つサイクリストが自発的に集まった40人以上のグループの存在。彼らがこの一風変わったイベントの安全管理の手法を、熱意を持って独自に開発し改善を続けてきた歴史。
参加者に「自らの安全は自らが守る」という意識を持たせるための運営上の手法。
参加者自身のこの大会を運営する美山町そのものへのリスペクトなど。
本来「安全管理」とは、どういうものなのか、を、主催者、ボランティアスタッフ、参加者がそれぞれの視点、立場から考え、実行に移すことで、大会の安全な運営が成り立っているように実感する。

1,000人から1,500人以上の規模になると、どうしても巨大な予算が必要になってしまうという一般常識を覆し、低予算なのに高品質を保ち継続している京都美山サイクルグリーンツアーは、イベントの質を決めるのは、予算でもなく、複雑なプロフェッショナル化されたオペレーションでもないということを、身をもって表現している。

このイベントは簡単にいうと、まさに「共創(Co-creation)」のたまものなのだ。

主催者は、参加者が何を望むのかを予測するだけでなく、地域にとって何が望ましいかを常に考える。
すべてのスタッフは、このイベントの持つ目的とその可能性をしっかり認識し、自ら自由なアイデアを発想し実現する。
参加者も外部から来たスタッフは、この自然豊かな環境でサイクリングや自然体験を堪能できることを「町」に感謝し、それぞれの立場で、役割を表現する。

まさに、共創の意識によって成立するイベントなのである。
共創に必要な要素として挙げられる、
・双方向の関係
・オープンな関係
・連携の関係
が、このイベントに関わる人すべてに要求されている。
客と商品を提供する立場に二分されていない、
共に成果を共有し、その成果を煮詰め価値を高めていくことで、結果、その成果の価値を高めていくサイクルを作り上げ維持、拡大してゆく。
まさに共創こそが、このイベントの根幹にあるように思う。

京都美山サイクルグリーンツアーは、立場こそ違えど、関わる皆がそれぞれの立場を主体的に全うすることで成立する、日本で一番最高に面白いイベントではないだろうか。

ぼくがウィーラースクールで自転車教育を行う中で、感じてきた、主体的に関わることで学びが進むこと、そして自分も関わることの大切さである共創の感覚の必要性が、こうしたイベントをつくる感覚にしっかり息づいているのだ。



子ども向け自転車教室 ウィーラースクールジャパン代表 悩めるイカした50代のおっさんです。