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Blackmagic Creator's Close Up #8 - 真鍋大度 【vol.2 創作活動】 (2/3)



本連載は、映像業界の最先端で活躍するクリエイターの歩んできたストーリーや思考にフォーカスしインタビューする企画です。

今回は特別編として、5月下旬に2日間開催された『Blackmagic Night』にてグラミー賞受賞アーティストKnxwledge(ナレッジ)さんと初共演をされた真鍋大度さんに、当日の様子や制作に関すること、学生時代について伺いました。

プロフィール

真鍋大度(まなべ だいと)

1976年東京生まれ。メディアアーティスト、プログラマー、コンポーザー、DJ、VJ、Rhizomatiks(ライゾマティクス)主宰。テクノロジーとアートを融合させた作品を多数制作。坂本龍一、Bjork、Arca、Grimes、Nosaj Thing、Squarepusher、Machinedrum、サカナクション、Perfume、ELEVENPLAYを始めとしたあらゆるアーティストとの共同制作など、幅広いコラボレーション作品でも知られる。革新的なプロジェクトを手がけ、国内外で多数の賞を受賞。

創作活動について

― 創作活動のインスピレーションはどこから受けますか?

「主に2つの方向性があると感じています。

1つ目は、機材や技術から直接的に得られるインスピレーションです。例えば、URSA Mini Pro 12Kカメラの登場時には(※)、その高性能なズーム機能に注目し、'これまで実現不可能だったレベルのズームが可能になった。この特性を活かした新しい映像表現を探ってみよう'と考えました。新しい機材の可能性を最大限に引き出すことが、私の創作プロセスの重要な出発点になっています。

2つ目は、より抽象的で長期的な関心事からのインスピレーションです。'機械と人間の関係'や'生命と機械の境界'といったテーマは、常に私の思考の中心にあります。これらのアイデアは時に即座に形になることもありますが、10年から15年かけて徐々に具体化されることもあります。

興味深いのは、この2つのアプローチが相互に影響し合うことです。新技術が長年温めてきた抽象的なコンセプトを具現化する手段を提供したり、逆に長期的な関心事が新技術の革新的な応用方法を示唆したりします。

結果として、即時的・具体的なインスピレーションと、長期的・抽象的なインスピレーションの両面が、私の創作活動に多様性と深みをもたらしています。この2つの視点を常に保つことで、技術の進化と芸術表現の深化を両立させられると考えています。」

※ ELEVENPLAY x Rhizomatiks "S . P . A . C . E ."  
(Blackmagic URSA Mini Pro 12Kで撮影された映像作品)

― 作品を発表する際に必ずしていることはありますか?

「必ず行うのは作品の言語化ですね。制作中はひらめきや衝動で進めることが多いんですが、発表段階では改めて作品の本質を説明する必要があります。タイトルも含めて、言語化の作業は基本的に完成後か制作の後半に行います。これは観る人に作品の意図や背景を伝えるだけでなく、自分自身が作品を客観的に捉え直す重要な機会にもなっていますが楽しい作業ではありません。」

― 作品を完成させる点で大事にしている事はなんですか?

「ギリギリまで粘ること、そして作品完成のハードルを可能な限り上げることを大切にしています。そのためには、関係者にその状況を理解してもらうことも必要です。同時に、バックアッププランも持っておきます。

例えば、最近の大阪梅北のVS. で開催中の私の個展では内覧会前日に完成状態を決めました。ギリギリまで粘りましたが、限界が見えたので一気に引き算の作業に移行して仕上げる作業に移行しました。これはアウトプットに関するソフトウェアでの仕上げだからこそ可能なアプローチで、システムやハードウェアは早い段階で安定させています。」

― コラボレーションとなると変わってきますか?

「自分の役割によってアプローチが変わります。ディレクターの時は全体を俯瞰して指示を出しますが、そうでない場合は職人に徹することもあります。エンターテインメントの現場では、主役の魅力を引き出すことが重要で、ファンの目線も大切です。だから、自分もファンである人とコラボすることが多いですね。

一方で、全て自分で作る場合は純度は高くなりますが、コラボレーションで生まれる創発的なアイデアは少なくなります。

最近のBlackmagic Nightのようなパフォーマンスは特殊で、我々は主役でありながら製品のポテンシャルも引き出す必要がありました。そして完全なジャムセッションだったので、その場の感性と瞬発力が重要でした。

このように、コラボレーションの形態や目的に応じて、柔軟にアプローチを変えていくことが大切だと考えています。」


ライブパフォーマンスについて

― パフォーマンスにおいて、コントロールできることはどのくらい重要ですか?

「コントロールできる部分とできない部分、両方が必要だと考えています。100%コントロールされたパフォーマンスは、他者のためのエンジニアリングでは必須ですが、自身のライブではつまらなくなってしまうので避けています。

例えばDJの場合、事前に全てを決めればミスはありませんが、観客とのインタラクションや自身のテンションも低下します。その場の雰囲気で進行する方が、より楽しくパフォーマンスできます。

ただし、他者のパフォーマンスや映像が絡む場合、ある程度の事前決定は避けられません。DJやジャズバンドでの経験も活かし、決定事項とアドリブのバランスを取ることを心がけています。」

― コントロールできないリスクも必要ということでしょうか?

「はい、その通りです。パフォーマンスにはある程度のリスクが必要で、それが緊張感とリアリティを生み出します。例えば、全てを自動化するのではなく、敢えて手動で調整する部分を残しています。これは会場の雰囲気や観客の反応に対応するためでもありますが、同時に緊張感とリアリティを生み出す手段でもあります。

他のDJも言及していますが、失敗しそうで失敗しない、ギリギリの状況を作り出すことが重要です。完璧に進行すると不確定要素が少なすぎて、パフォーマンスの強度が落ちてしまう傾向があります。

以前は事前準備を重視し過ぎて、完成度は高いもののパフォーマンスとしては物足りないことがありました。そこから、適度なリスクテイクの重要性を学びました。

これはミュージシャンやパフォーマーが本能的に理解していることで、彼らと仕事をすると、意図的に不確定要素を取り入れチャレンジしているのが感じられます。このコントロールとリスクのバランスを取ることが、ライブパフォーマンスの醍醐味であり、常に挑戦し続けるべき課題だと考えています。」

次の記事ではBlackmagic Night当日の秘話について詳しく紹介していきます。