ジェンダークリニックへ

ある日、どうしても堪えられなくなって、半ば駆け込み寺のような感じで泣きながら電話した。

診察は原則予約制だったため、当日すぐに診てもらうことはできず、その日は一週間後の予約だけ入れて、その後会社にお休みの連絡をして、一日中どこかの喫茶店でぼーっとして過ごした。

ちょうど春先だったので、きっと五月病か何かで、一瞬の気の迷いで電話してしまっただけで、予約の日までの一週間の間に我に返って結局クリニックへは行かないんじゃないかって思っていたけれど、全然そんなことはなかった。

予約の日が近づくにつれて、やっと楽になれるという淡い期待とともに、気持ちが少し安定していった。クリニックに行くことで、ずっと抱え込んでいた辛さから開放されるための第一歩を自分の意思で踏み出そうとしていることに確信を持っているようだった。

当日、少し緊張していたと思う。

看護師さんに名前を呼ばれて、診察室に入る。かなり年配の先生だったので、失礼ながら「大丈夫かな?」と思ったのが第一印象だった。

「お掛けください」と言われ、机を挟んで向かい合って座る。いわゆる精神科・心療内科の類を受診するのは初めてだったので、診察室に大きなソファーが置いてあったり、お医者さんと向かい合って座るのに、最初は何となく居心地の悪さを感じた。(私の知っている病院で机を挟んで向かい合って座るようなところはこれまで無かったので)

先生の第一声は「・・で、どこまでやりたいの?」だった。正直面食らった。

予約入れてからの一週間のあいだに、少し冷静になれて、結局自分はどうしたいのか?・・について考える時間を持てたので、その問いに対しての回答は持ち合わせていたものの、いざ面と向かって聞かれると、少し言い出すまでに時間がかかった。

でも、とにかく先に進みたいと思って意を決して来たので、思い切って話し始めた。

まず、自分は性同一性障害ではないかと思っていて、診断を受けてそれをハッキリさせたいこと。今まで個人輸入でホルモン摂取していたけれど、正規に医療行為としてホルモン療法をおこないたいこと。体をより女性に近づけたいこと。ゆくゆくは女性として社会生活を送りたいこと。

その後は、先生の方から、家庭環境や職業のこと、性同一性障害だと思い至るまでのこれまでの経緯などを、少しヒアリングされて答えた。

初診は大体10分くらいで終わった。

次は自分史を書いてきてと言われた。一ヶ月後の予約を取ってその日は帰った。

事前に下調べをして、診断のプロセスは大体は頭に入っていたので、自分史のことも構成とか内容については押さえてあったけれど、いざ書き始めると、最初は案外うまく書けなかった。

自分のことに随分長いこと無関心に生きてきたんだなーと思い知った。たまには立ち止まって人生を振り返ることも大事かも。

一ヶ月後に自分史を持っていって、先生に見てもらうと、そもそも短いからもっとちゃんと書かないと・・とダメ出しされた。テンプレを渡されて、A4で3枚くらいと言われた。(初診の時に渡して欲しかった)

二回目の診察も大体10分くらいだった。

また一ヶ月後、A4で3枚分のを持っていった。先生は少しそれを見て、やや不満げに見えたけれど、とりあえずOKはもらえたようだった。内容について少し掘り下げてヒアリングされて、その日は終わった。

四回目に血液検査と泌尿器科の検査を受けた。

血液検査はいわゆる男性ホルモン・女性ホルモンのそれぞれの量と染色体異常の有無を検査する。お支払いは一万円くらいだった。

泌尿器科の検査はそのジェンダークリニックではできないので、近所の泌尿器科を紹介され、紹介状をくれた。

当日の診察後にその足で泌尿器科のクリニックに向かいそのまま受診した。左の睾丸が萎縮していて、ホルモン摂取の影響かどうかは分からないけれど、とりあえず泌尿器としては男性ですっ!・・と言われた。検査結果を封筒に入れて渡してくれて、次回のジェンダークリニックの時に持っていくように言われた。(泌尿器科の先生がすごく優しくてちょっと惚れそうになってしまった)

五回目の診察時に、血液検査の結果の説明を受けつつ、泌尿器科の結果も合わせて、体の方は疑いなく男性だということが証明された。

当初下調べした通り、ここまでは「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」に沿って診断が進められているようだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?