食事と言う名の作業(微鬱)

僕は生まれてから、食事と言う食事をした事がない。
正確には固形物を口にした事がないのだ。
離乳食の時期ですら、ペーストにしなくては口にしなかったと親が言っていた事もある。
無理に食べさせようとしても口を開かないか、吐き出していたらしい。
固形物の一切を拒絶していたと。

飲料やスムージー、ペーストにした物、具の無いスープ。
僕の食事はそれだけだ。

僕は食事が嫌いだった。
食事と言う動作が面倒で仕方がない。
口に運び、咀嚼し、飲み込む。
たった此れだけの動作が嫌いだ。

もし、人間の身体が水だけで生きられるなら。
食事をしなくても平気なら。
きっと僕は水だけで生きていくだろう。

食事と言う食事をしない僕は勿論、見た目が不健康そのものだ。
一応、野菜などをスムージーやペーストにしているので、栄養は取っているのだけれど。
兎に角、食事が嫌いで仕方無い僕は、固形物を見るだけでも吐き気がする。
スムージーやペーストを作る時でさえ、固形物を見ると不快だ。

こんな生活を続けていれば、何れは倒れる。
現に何度も倒れている。
栄養はしっかり採っているのに、可笑しな話だ。

また、目の前が霞む。
そろそろ身体が倒れるのだろう。
ああ、面倒だ……。

そう思いながら、意識が途絶えた。

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黒と白の幕に覆われた会場。
祭壇には彼の遺影とその遺体の入った棺。

先日倒れた彼は。
一週間目を覚まさないまま、その生涯を閉じた。

固形物を好まなかっただけなのに。
栄養はスムージーやペースト、飲料で採っていた筈なのに。

彼は食事をしないと言っていたけれど。
俺から見れば彼にとってスムージーやペーストを口にする事が食事だった。

栄養を採っていたとしても。
それが固形物では無い限り、必要な分の栄養等採れないのだろう。
それを長年続けていれば、身体にもガタがくるのだろう。

彼は食事を嫌う余り、1日2回しかペースト等を口にはしなかった。
そのスムージーやペーストだって。
トータルで見ればカロリーも摂取量も必要最低限以下だ。

何故、彼がそこまで食事を嫌っていたのか。
俺にも、彼にも分からない。

ただ、彼の一度だけ漏らした言葉が真実なのだろう。

(食事は所詮、生きる為の作業でしかない)

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