一頁物語の小瓶「氷少女」
がりがり。ごりごり。
硬い音を立てながら、氷をひたすら咀嚼する。
もう、何個目か分からない。
私は氷を噛み砕いては飲み込んで。
また氷を口に放り込んで、噛み砕いては飲み込んで。
それを幾度となく繰り返している。
昔から、何故か私は氷が好きだった。
食事よりもお菓子よりも、私は氷を好んだ。
氷なら何でも良かった。
冷凍庫には、水で作った氷の他に、果汁ジュースで作られた氷が大量に詰め込まれている。
その他に、氷菓用キャンディー(俗称:チューペット)も大量に詰め込まれている。
専ら、私の朝食と夕食は氷だけ。
昼食は流石に会社で氷を食べる訳にはいかないので、適当な軽食を口にしている。
氷を咀嚼する度に、がりがり、ごりごりと音が響く。
その音が、私には最高に心地良い。
色々な物を咀嚼しても、氷を咀嚼した時の音に勝る物は未だに無い。
氷の食べ過ぎで口の中が霜焼けの様にひりひりする事もあるけれど、それすら心地良かったりする。
数ある氷の中で、唯一滅多に口にしない氷がある。
塩水で作った氷は、滅多に口にしない。
その滅多に口にしない氷を、私は今、咀嚼している。
この氷を咀嚼するのは決まって、失恋した時だ。
本当に好きだった。
好きで仕方無くて、彼の為に努力もした。
でも、結局努力は報われなかった。
彼は、私よりも何倍も可愛い女の子を選んで、私をあっさり捨てた。
まるで、飽きた玩具を捨てるかの様に。
涙を流しながら氷を咀嚼する私は、きっと傍目から見れば滑稽なのだろう。
でも、私はこの氷を咀嚼する事でしか、自分の心を癒せない。
心の癒し方を知らない。
行き場を失くした感情ごと、塩水の氷を私は咀嚼する。
私はきっと、この氷を咀嚼すると同時に、行き場を失くした感情も咀嚼して、消化したいのだ。
だから。
この感情が消えるまで。
この氷を感情と共に咀嚼し続ける。
氷少女
(塩水の味は涙の味、涙ごと咀嚼してしまおう)
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