「コンテキスト」という英単語のコンテキスト

結論

言葉を様々な角度から知ると、その意味をより深く理解できるなぁ、と思った話をします。

はじめに

僕たちの開発チームには、大学で美術教育を学んだエンジニアがいる。彼とは週次で1on1をするのだが、仕事の話から広がってゲームや音楽、美術の話が弾むことがよくある。少し前によく話したのが、表題の「コンテキスト」だ。今日はこの言葉について、日々考えていることを整理してみたい。

英単語としての"context"

英単語の"context"を直訳すると「文脈」「状況」「環境」になる。うーん、分かるようで分からない訳だ。

プログラマーにとってのcontext

プログラミングの世界では、contextという単語がよく使われる。たとえば…

  • 変数名として使われる。特にフレームワークが提供する部品として、コードの実行のために必要な事前情報を集約するために、よく出てくる。

  • DDDの「境界付けられたコンテキスト」。

  • 作業の切り替え時に脳みそが疲れることを指す「コンテキストスイッチ」。

自分が新卒エンジニアだった頃、触っていたJavaフレームワークで「FooBarContext」というクラスや、それを代入した「context」という変数を見ては、よく分からないな…と思っていた。正確には、字面は分かるが手に馴染まないなと感じていた。

現代美術におけるコンテキスト

※現代美術の文脈で最新の解釈とは異なる可能性があります。

冒頭で紹介した美術教育を学んだチームメンバー曰く、現代美術にも「コンテキスト」という言葉があるらしい。美術の世界には歴史があり、現代のアーティストはその歴史に新たな1ページを刻むために日々奮闘している。だから彼らは、自分の作品がどんな歴史をどう解釈したのか、説明する必要があるのだ(よりポップな説明は、オモコロのとても良い記事があるので、ぜひ読んでみてほしい)。

たとえば同じ「真っ白な絵の具で塗ったカンバス」を制作するにしても、芸術史や社会の何を踏まえてどんな表現をするのか、その背景次第で評価は全く変わるということだ。

訳によって失われた深みを取り戻す方法

こうしてプログラミング以外の観点で「コンテキスト」という単語を考えると、逆にコードベースで出てきた時の意味が少し深く理解できる。「あぁ、なんか歴史とか事情とかそういうものを抽象化した概念をまとめて変数にしたものなのね」と飲み込むことができる。

ITの世界には、英語から輸入された横文字の専門用語が山ほどある。「コンテキスト」もそうだし「ドメイン」もそう。「プログラム」「デザイン」でさえ、もとは英単語だ。
これらの言葉は、IT業界で使われるために訳されたおかげで独自の意味を獲得している。一方で、英語のネイティブスピーカーが意図した深みは失われてしまっている。ネイティブスピーカーが理解する「context」と、日本人がカタカナとして認識している「コンテキスト」は全く別物だろう。

失われた言葉の深みを取り戻すためには、様々な用法を知ることだ。まずはこの文章を通じて、僕と「コンテキスト」という言葉のコンテキストを共有できたら嬉しい。


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