「強いチーム」とは? 2022J1第17節 サンフレッチェ広島vsセレッソ大阪

試合前の情報

サンフレッチェ広島

7位 6勝6分3敗 19得点13失点 勝点24

 リーグ戦2連勝で代表ウィーク入り。中断中に(多分)コロナで離脱していた選手も戻り、ルヴァンカップでは札幌を下してベスト8進出を決めました。離脱者はいますが現在の主力では0人、4月以降はやりたいことが明確に見える良い試合をずっと続けていることもあり、ほぼ万全の状態で17節に臨みます。

セレッソ大阪

5位 7勝5分4敗 23得点16失点 勝点26

 こちらは前節まで3連勝、サンフレと同じくルヴァンでもベスト8に駒を進めました。今季のセレッソは川崎戦(1‐4で勝利)と浦和戦(2‐0で勝利)しか見ていませんが、どちらも我慢しながらできるだけ高い位置で相手に圧力をかけ、保持時もボールを大事にしながらアグレッシブな攻撃を見せ、難敵を撃破する好ゲームを披露してくれました。丸橋祐介と山中亮輔という左SBの2人が離脱中、ともに絶対的な核とは言えずとも同ポジションから2人の離脱者を出していることの意味は小さくありません。また、中断期間中に乾貴士の退団が発表されました。

 昨季は1勝1敗、2試合ともアウェイチームが勝利。エディオンスタジアムでの試合は完敗。当時3‐4‐2‐1のサンフレ、守備強度も意識も立ち位置も良いものとは言えないドイスボランチの脇を、絞った両SH(乾と坂元達裕)に使われ、2トップでピン止めされた3CBもなかなか前に出られず自由にボールを受けられ劣勢を強いられました。

 今季の川崎戦を見ても、小菊昭雄監督率いるセレッソは相手を入念に研究し対策の手を打った上で試合に臨む傾向があるように感じます。また、乾や坂元のほか瀬古歩夢など、チームに不可欠だと思われた選手が退団しても上位につけられる強さがあるのは、個々のレベルの高さだけでなくチームに戦術的な原則が浸透しているからだと思います。選手が変わってもその時々の相手に応じて必要な策を授け、チーム一体となってサッカーをして勝利を掴む。昨季前半戦の惨状からここまでチームをポジティブに変えた小菊監督の評価は、個人的には非常に高いです。

 サンフレが1試合少ない状態で2ポイント差。サンフレが勝てば順位が入れ替わる上位対決です。また、混戦模様でありながら戦力的にはやはり抜けている上位3チームについていくためにも、より混沌とした下位グループに吸収されないためにも、その中間に位置する両チームにとって大きな意味を持つ試合と言えましょう。戦術の浸透度や調子も加味して、好ゲームが期待できる試合前の状況です。

メンバー

サンフレッチェ広島

GK大迫 DF塩谷、荒木、佐々木 MF野津田、藤井、東、森島、満田 FWサントス、ベンカリファ

 いつも通りの3‐3‐2‐2。左のWBには柏ではなく東をチョイス。試合経験や試合勘を不安視する選手ではありませんが、右利きでドリブルが得意な柏と左利きでキックの質が最も大きな持ち味の東とではキャラクターが全く違います。

セレッソ大阪

GKジンヒョン DF松田、ヨニッチ、鳥海、西尾 MF毎熊、奥埜、原川、為田 FW清武、メンデス

 清武がトップ下の4‐2‐3‐1に近い形。台所事情が非常に苦しい左SBには、右利きでCBが本職の西尾をチョイス。最近はずっとですが、右SBが本職の毎熊を一列前で使っていることも注目ポイントです。

セレッソの準備と対策が見えた前半

 前半、セレッソがボール保持で前進を試み、ハイプレスを志向するサンフレがそれに対峙するという状況が長く続きます。このビルドアップにおいて、セレッソはサンフレ対策ともとれる工夫を施してきました。

 ドイスボランチの一角、原川がアンカーポジションを取り、相棒の奥埜と清武がIHのようなやや高い位置を基本ポジションとする4‐3‐3に近い形での前進を試みました。4‐2‐3‐1であれば綺麗に人をマンツーで当てられるサンフレでしたが、噛み合わないシステムに。守備時は満田がそのまま奥埜を見て野津田と横並びになることで嚙み合わせました。

 その上で、セレッソの前線3人はかなり流動的に動きます。序盤こそWBの東が高い位置を取る裏をアタックしようと幅を取っていた毎熊ですが、為田とともに中央寄りの位置取りでメンデスともポジションチェンジを多用、入れ替わりを続けサンフレのCB陣に誰が誰を見るという的を絞らせません。

 サンフレがハイプレスで相手を圧倒できた東京、川崎、FマリノスといったチームはそれぞれWGが幅を取り、CFの選手も深い位置でボールを受けるのが得意でした。それゆえに3トップを3CBがマンツーで監視し、プレスがかかれば前に出て潰しきることで仕事をさせないというタスクを遂行できました。

 しかし、前線から頻繁に選手が降りたり横で入れ替わったりしながらビルドアップを行う、清水や柏、浦和といった相手にはプレスがはまる回数が少なく、苦戦を強いられました。持ち場を離れ入れ替わる相手選手を誰が見るのかがはっきりしにくいチームには、3CBが最も得意とする背負った相手への強い守備を発揮することができず、潰せずに比較的容易な形での前進を許してきました。

 それに加え、セレッソは奥埜が頻繁に裏をアタック。ついているのは攻撃に持ち味を持つ満田で、相手にボールが渡らずとも奥埜が裏に走り満田がカバーするというシーンだけで十分にヒヤヒヤさせられました。

 ポジションを変えながら裏を狙い、3CBが前に出にくくなる状況を作った上で、セレッソは下から繋ぎます。2CBを2トップで見るサンフレはGKのジンヒョンにはほぼノープレッシャー。彼を起点にアバウトなボールはできるだけ蹴らずに繋ぎ続け、セレッソは前進の好機を待ちます。

 セレッソのターゲットは2つ。1つは清武です。卓越したボールタッチスキルを持つ清武の監視役は野津田でしたが、中央で入れ替わり続けるセレッソの選手たちを気にしてか、DFの前の真ん中のスペースを空ける勇気を持てず降りた清武への圧力は弱くなってしまいます。そこにジンヒョンなどからボールがつけられ、フリーに近い状態で最も怖い選手にボールを持たれると、サンフレは後退を余儀なくされます。

 2つ目のターゲットは当然裏。人数自体は同数で、裏のケアに秀でているわけではないサンフレのDFライン、それに加えてカバーを満田にもやらせるわけですから当然狙います。DFラインからだけでなく突出したキック制度を持つ清武や原川を起点に、裏を取るシーンは散見されました。サンフレは前で守備をする意識が強いため、中途半端なポジションで縦パスを受けることでCBを釣り出すことができ、塩谷も荒木も迷いながら前に出たところにワンタッチでの展開が絡んでメンデスの決定機も生まれました。

 その他にも本数は多くありませんでしたが、ポストが上手いメンデスに縦パスを入れて展開する形でもセレッソは前進しました。メンデスのポストプレーには2019に苦戦させられた印象が強いのですが、この日も荒木などを相手にしても良い仕事をしていました。

 一方守備ではセレッソは4‐4‐2のミドルブロック。サンフレは相手が2トップということもあり、3バックの幅を広げて前進を試みますが、佐々木と塩谷の運び出しを警戒している感のあるセレッソ2トップとSHの守備でなかなか仕事ができません。相手がコンパクトなブロックで守備を行う場合には、野津田のビルドアップにおける貢献度は物足りなく感じます。相手の間、2トップのプレスラインを切ることができる位置に立てていないため、効果的にボールを受けられずアンカーを使った前進はあまり見られませんでした。また、左WBに入った東の位置が常に低く、相手のSHに監視されていることでボールが入ってもプレスラインを切ることができず、あまり意味がなかったです。左足で外側にボールを置くことしかできないため、左足を振ってクロスを上げるか横や後ろにパスを出すかの選択肢しか持てず、クロスとミドルシュートで一定の存在感を放ったものの、保持時の貢献度はチームで最も物足りなかったと言わざるを得ません。

 藤井の裏もSB起用された西尾の警戒と能力であまり効果的に使えず、下がって受ける満田とやや高い位置で相手の中盤プレスラインを切って前に運べる立ち位置を常にとる森島という、いつもの2人のスキルで誤魔化すくらいしか前進の方法はなかったです。FWに直接ボールが入るシーンは少なくなく、特に鳥海はサントス相手に相当手を焼いていたためカウンターでファイナルサードまで持っていくこともしばしばありましたが、決定機を作るまでには至らず。どちらかと言えばセレッソが、サンフレの対策として準備したものを発揮して満足いく展開で進んだ前半でした。

ゆったりとした、劇的な後半

 ファーストプレーでやや油断を見せたセレッソでしたが、後半も試合を優位に進めます。低い位置でリスクのあるプレーを選択した藤井の隙から決定機を迎えるなど、前半にはあまりなかった得点の匂いもしてきます。

 9分、ついにセレッソが先制。藤井と同じくエリアと状況を見通せずに軽率なミスで東がボールを相手に渡し、左サイドのクロスをメンデスが合わせます。

 東がエリアを考えてプレーできないことも、荒木が動き回る相手を捕まえきれないことも、大迫が自分の触れないクロスに対し適切なポジションで構えられないことも、ずっと継続する弱点です。そこを逃さず簡単ではないシュートをメンデスがきっちり頭で決めた、素晴らしいゴールでした。

 主導権を握られそのまま先制を許したものの、今季のサンフレには追いすがる力強さがあります。直後、ペナ角付近でフリーになった森島のクロスを東が頭で折り返し、中央でベンカリファが詰めボールをゴールに押し込みます。

 最高のタイミングで同点!と思いきやオフサイド。この日初めて森島が良い位置でフリーになり、東も高さという武器を活かした良い展開だっただけに、見る側にとってもこの取り消しは小さくなかったです。

 ここから試合はここまでとは違う展開を見せます。セレッソは時間を使いながら、試合を殺す方向へとシフトします。ジンヒョンがアウトオブプレーでたっぷりと時間を取り、前半あれだけ拘った下からのつなぎにも執着しません。サンフレの稚拙なビルドアップには積極的に前に出て阻害する意思を見せ、実際にそれは上手くいっていましたが、2点目というよりは0‐1で試合をクローズする方向へと持っていきたい感じでした。実際にゆったりとした試合へとシフトされていきましたが、この動きは試合の内容のみならず、試合の結果自体を左右することになります。

 サンフレはかなり焦れていました。藤井は何本もクロスを上げましたが抜き切ったのはおそらく0回、相手を押し込む時間はさほど多くなかったです。メンデスが加藤に代わってからはセレッソの前の起点と守備スイッチがなくなり、ヴィエイラも投入して押し込みました。満田がハーフスペースの裏を取るほか、藤井や東の大外からのクロス、森島の中央へのボール、セットプレーなど色んなパターンでゴールに迫りましたが、得点の匂いは正直あまりしませんでした。

 31分に進藤を入れセレッソは5バック化、WBにWBをぶつけ本格的に試合を締めにかかりました。がその直後、野津田がスーパーミドルで攻守を見せていたジンヒョンの壁を破り、同点とします。

 とんでもないシュートだったので、正直事故です。が、スピードがある藤井は2人かけて監視、5‐4‐1にして左SHに配置したのは清武なので、野津田が左足を振った斜め45度のゴールまで25m当たりの場所が空いたのは必然とも言えます。前半に野津田がバイタルで気持ちよく左足を振れるシーンはありませんでした。

 ホームで当然逆転を狙うサンフレと、一度引いて選手も代えており前に出ようがなく同じ戦い方を続けるセレッソ。40分には2次攻撃から不運な場所にボールが落ちてヨニッチがヴィエイラを倒してしまいPK。これをヴィエイラがきっちり決めてサンフレが逆転に成功します。

 押し込んだ時に、佐々木と塩谷が前に絡めるとサンフレの攻撃は迫力が出ます。PK獲得のシーンも、クリアされかけたボールを塩谷がヘディングで浮かせてボールを前に戻したところから、エリア内にボールが流れました。これも、藤井の圧力もあってWBの前のスペースにセレッソがプレスをかけられないことから生まれたと言えます。

 その後は後半のセレッソへの仕返しのように、サンフレがずる賢く時間を使ってVARで生まれた長いアディショナルタイムを耐え、鮮やかな逆転勝ち。1試合少ない状況で5位まで上ってきました。

早すぎたセレッソの変化、「強いチーム」

 事前のプランに0‐1で引いてやろうというのがあったのか、5バックをどれだけ練習していたのか、メンデスの交代理由は何なのか、見えない部分はありますが、0‐1からやり方を変えた、誤解を恐れずに言えば受け身になったことは結果的にサンフレの逆転勝ちを助けました。

 先制からはおよそ40分、メンデスのoutからは25分、5バック化してからは20分ほど、試合は残っていました。先制するまでのセレッソの出来からしても、いずれのタイミングもやり方を変え引くには早すぎるように思えます。

 サンフレは逆に、アグレッシブさを常に捨てないチームになりました。その姿勢のみならず、森島や満田、藤井、この日は上手くチャンスに絡めませんでしたが怖さだけならリーグ屈指のサントス、何よりびっくりミドルを叩きこんでくれた野津田。最終局面で何かを起こせる選手も十分にそろえています。5バックで噛み合わせて思い切り引いてしまえば藤井もそこまで怖くはないことには同意しますが、それを20分続けて耐え忍ぶことは果たして現実的だったでしょうか。

 繰り返しますが、特に前半のセレッソの出来は良かったです。相手を研究・対策し、同じ価値観を共有してみんなでボールを前に運び守備をする。方向ではなく圧力重視のハイプレスに加え、後ろで誰を捕まえるかはっきりできずに隙を見せるサンフレに比べて、戦術的に「強い」のはセレッソかもしれません。

 しかし勝ったのはサンフレです。焦りは見えましたがイラつくことなく、試合を殺し時間を潰す相手を徐々に押し込んで攻撃し続け、2回もゴールをこじ開ける。アグレッシブさを決して捨てないことも含め、3ポイントを取るためにより「強い」チームはサンフレッチェでした。

 これは相対的に、です。サンフレが「強い」かどうか、正直私はまだ疑問です。運が良いように、上手くいきすぎているようにも感じます。しかしこの日のセレッソにその意味での「強さ」も、それを求める姿勢も感じ取ることはできませんでした。

 引くことが悪いのでもプラン変更が悪いのでもなく、チームの哲学と長く深く取り組んできたことと相反するプランに突貫で挑んだように思えるのが残念である、という個人的な感想です。応援するチームが0‐1で負けているという最悪な展開で自分自身が焦りまくっていたことを差し引いても、後半の最後の30分ほどは前半に比べ率直に面白くないゲームになりました。サッカーにifはないですが、言わせてもらえるのであればベンカリファの得点が認められ、すぐに1‐1となった世界線の試合が見たかったです。そうなってどちらが勝ったかわかるわけないですが、より見ごたえのある90分になったことは間違いないでしょう。

サンフレ側の反省

 まずは何より組織的な守備。満田にあれだけ守備的なタスクを担わせるのが合理的なのか、リスクを考え積極的とは言えない野津田の守備は適切か、3CBが前に出られる状況はいかにして作られるのか、が主な論点でしょう。今節の他の試合では、オールコートマンツーで相手を捕まえる札幌に対し、川崎はこの日のセレッソと同じように前線の立ち位置を固定させず、清武ロールを家長が担い札幌のプレスをある程度攻略しました。これらのやり方を他チームが踏襲する可能性は低くありません。ボランチの位置に入る選手の特性や立ち位置、前線のプレスの強度や方向付けを含め、3バックがより人を捕まえられる組織整備は急務でしょう。

 あとは、この試合でも交代選手が1人しか入らなかったという現実です。柏はコンディションが整わなかったと見るのが自然ですが、他に投入してほしい選手が特にいなかったのは事実ですし、PKを決めたヴィエイラも唯一無二の特性を持つとはいえ流れを1人で変えることを期待できる選手ではありません。この日の崩しも手詰まり一歩手前というところまで追い詰められましたし、追いかける展開でどう試合を変えていくかは課題でしょう。

MOM 野津田岳人

 ビルドアップでは苦労しましたし、守備も積極的にはいけない状況を作られ仕事量はさほど多くありませんでしたが、中央を何とか空けないように喋って我慢してやってくれました。そして何と言ってもスーパーミドルです。得点の匂いなんてしない場所から試合を振り出しに戻したことの意味はとてつもなく大きいです。

まとめ

 どちらかと言えば反省点が目に付く、良いとは言えない内容でサンフレは上位対決を制しました。正直、凄すぎます。勝てるチームになったなと思います。1試合少ない状態で首位と7ポイント差の5位、十二分に優勝を狙える位置につけてシーズンを折り返します。延期分のガンバ戦が組み込まれることもありここから過密日程が続きますが、ここ何試合かのリーグ戦では存在感を見せられていない選手たちの頑張りに期待しつつ、暑い夏を勝利の喜びとともに迎えましょう!


 



 

 

 

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