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棚の本:ラーメンカレー

ラーメンカレーは、滝口悠生(ゆうしょう)さんの連作短編集です。

くまとら便り

春は小説を読みたいと思い、棚のテーマを「小説を読む」にしました。
小説を読むことは、一人だけの純粋な楽しみだと思います。
なるべくストーリーは明かさず、楽しみを損なうことなく、棚の小説をいくつか紹介できたらと思っていますが、はたして。


そういう訳で、少し個人的なことを。
滝口悠生さんで、本書以前に唯一読でいたのは「死んでいない者」です。
文藝春秋を買って読んだということの他には、夜の川べりにヒカリの珠がゆらめくイメージが浮かぶのですが、実際にそんなシーンがあったかどうか、自信は全くありません。
読んだものは、私を通って一体どこへ行くのでしょうか。
「血肉」にならない束の間の楽しみを、娯楽というのでしょうか。

「ラーメンカレー」は、家のソファーでリラックスしながら読んでいました。
途中、何度か小さな、変な笑いが出ました。
意図的と思われる新鮮な文体(窓目くんの手記2「ラーメンカレー」)と、窓目くんの珍妙さのせいです。
機械が自動生成した見覚えある文体と、窓目くんのあしらわれ方のせいともいえます。何にしろ変な笑いです。自分の部屋でよかったと思います。※

文体に、過敏なところがあります。
文体を想像した結果、一冊も読めていない国内作家がいます。もう読んでみたい気持ちもあり、英語版が翻訳されないかとも思います。
小説で使われる方言は、本当に自然か分からなくても好きです。
語尾 に「さ」が付くことについていえば、文章で出てきても気にならないような気もしますが、「さ」の分量や、体調にも左右される気がします。
外国文学の翻訳を読むのは、遠くの物語を読みたいという理由だけでは説明しきれず、知覚過敏の人が冷たい飲み物を避け、常温の物を飲むように、訳者の手で置き換えられた日本語を読んでいる節があります。

新型コロナが流行し、外国へ旅に出られなくなりました。
それまで出来ていたことが、突然に、訳の分からない経緯で出来なくなるのだなと思うのと同時に、あの国、あの場所に行っておいて良かったなとも思った時期でした。
海外の旅には出会いやトラブルがつきものですが、無事生きて帰って何年か経つと、思い出になります。
危ない運転手、親切な人、そうでない人、怪しい路地、体調不良、現地の医師、ケンカ、水漏れ、紛失、盗難その他もろもろ、忘れないです。
旅は、予想もしない出会いやトラブルによって、娯楽から血肉になるのでしょう。

また外国へ行けるようになりました。
「ラーメンカレー」は、時宜にかなった読み物で、読めば遠くの外国へ行きたい気持ちになります。
読後はおそらく、ラーメンよりもカレーが食べたくなります。


ー 束の間の楽しみこそが、人を人たらしめている。




※外では一人でフヘ、とは笑いたくない方です。誤解のないよう申し上げておくと、窓目くんはたいへん愛すべき人です。




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