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【ボクシング】2・16アメリカ・プラントシティの4試合を批評&考察


“もうひとりの”カルデナスも世界ランカー対決に快勝

☆2月16日(日本時間17日)/アメリカ・フロリダ州プラントシティ/ホワイトサンズ・イベンツセンター
WBCフェカルボックス・スーパーバンタム級王座決定戦10回戦
○ラモン・カルデナス(28歳、アメリカ=55.3㎏)WBC21位
●イスラエル・ピカソ(25歳、メキシコ=55.1㎏)WBC16位

※使用グローブ=EVERLAST赤(カルデナス)、RIVAL白(ピカソ)
TKO6回終了

 WBAランクではピカソが4位、カルデナス6位というれっきとした上位ランカー対決。両コーナーにはナチョ・ベリスタイン(メキシコ)、ジョエル・ディアス(アメリカ)という名参謀が控える点でも注目のこの試合。だが、いざフタを開けてみると、カルデナスが一方的に試合を進めていく展開になった。

 開始ゴングが鳴ると、カルデナスは距離をとって右方向へのサークリングを始めていく。長身のピカソは長いリーチを存分に生かすビッグパンチで迫っていくが、カルデナスはそれを平然とかわしていく。そして距離が近づくとピカソの強打をブロッキングで止め、右アッパーをステップバックでかわして右の打ち下ろしをヒット。ピカソのパンチの出どころやタイミングを、早くもこのラウンドで把握した印象だった。

 2ラウンドに入ると、カルデナスは一転してハイガード状態でじりじりと距離を縮め、ピカソを下がらせる。そうしてピカソにパンチを出させ、意図的に同時打ちを狙う。これもピカソの攻撃のタイミングを計り、すでに読み取っていることを表すシーンだった。

 カルデナスはロングにしろショートにしろ、決して無茶な打ち方をしない。いずれもコンパクトに切れ味を意識したブローを放つ。しかも、無理な距離の詰め方をせず、じわじわと迫る。それが、ピカソに不気味さを感じさせるのだろう。ピカソの動きは徐々にドタバタと乱れていき、表情も次第に曇っていった。
 3ラウンドに入ると、ピカソの足取りはいっそう怪しさを増す。ダメージというよりも、精神的圧迫感による消耗なのだろう。セコンドのディアス・トレーナーはそんなピカソの様子をしっかりと認識し、セコンドに戻ったカルデナスに相手の様子を伝え、それを踏まえた指示を与えていた。

 振りが大きく、見た目が派手なピカソのパンチは、カルデナスの鉄壁のガードを決して割ることができなかった。ピカソが最も圧迫を受けたのはこの防御の壁の厚さだったのだろう。そして、折々にタイムリーに放たれる左フック、右ストレートのシャープさと硬質感が、ピカソを追い詰めていった。

 5ラウンドにカルデナスの左アッパーがローブローとなり、長い中断。再開後、今度は頭がぶつかって、ふたたび中断。ただでさえカルデナスに支配されて混乱した状況の中、2度にわたるアクシデントが追い打ちをかける……。ピカソの集中力は、いよいよ風前の灯火となった。

 4ラウンドにインサイドから突き上げられた右アッパー、そして5ラウンドに入っての左フックトリプル。このクリーンヒットを打たれたことで、ピカソはすっかり窮地に立たされたようだ。逆転を狙って猛然とフルスイング連打で襲いかかるが、カルデナスはこれもことごとくボディワークでかわす。そうして迎えた6ラウンド。ピカソは一転して逃げのフットワークを使う。このラウンド、カルデナスの右カウンターがヒットすると、ピカソは口の中から出血。これ以前のアッパーカットが口火を切ってのダメージとみるが、いずれにしてもアゴの骨折等が考えられた。ダウンだけは辛くも回避したものの、インターバルに入り、コーナーインスペクターの要請に従ってチェックしたデニス・グリフィン・ドクターがストップをかけ(アメリカではドクターにもストップ権限がある)、試合がここで終わった。

 WBCの地域王座を獲得し、ランクアップ濃厚のカルデナスは、全身を使って喜びを表現した。配信実況では「ナオヤ・イノウエ」の名前がしきりに連呼されていたが、それはまだ先の話。同日、メキシコ・オアハカのリングで同じくWBCの地域王座(コンチネンタル・アメリカス)を獲得した同性のアルトゥロとの対決となったらおもしろい。

カルデナス=25戦24勝(13KO)1敗
ピカソ=36戦30勝(20KO)6敗

勝ちを拾ったモレノには、今後のために大切なモノも拾ってほしい

ウェルター級8回戦
○エミリアノ・モレノ(18歳、アメリカ=66.4㎏)
●アクセル・メレンデス(29歳、プエルトリコ/アメリカ=66.1㎏)
※使用グローブ=RIVAL黒・橙(モレノ)、RIVAL白(メレンデス)
判定3-0(78対74、77対75、77対75)

 若さゆえの青さと勢い。モレノの両面が表れた試合だった。そして、その青さを上手く突いているように見えたメレンデスがジャッジに評価されなかった点がどうにも心苦しい。モレノの勝利が告げられると、会場内からは多くのブーイングが聞かれた。

 長身のモレノは余裕を持った表情で、距離を取りながらカウンター戦法を取ったが、メレンデスはそこにどんどんつけこんでペースを握った。モレノはゆとりを持ちすぎて“待ち”の態勢が過ぎたのだ。
 メレンデスは入る→出るを繰り返してリズムに乗った。体を寄せていく過程のボディワークも巧みだった。

 あっという間にペースを握られたモレノは、強引に腕を振り回し、強打を決めての打開を狙ったが、空振りが多い。焦り打ちで的を絞れていないこともさることながら、メレンデスの防御が上手く、すかされたのだ。折り返しの5ラウンドあたりからようやく勢いでメレンデスを押し始めたが、流れを変えることはできても、ペースを奪い返すまでは至らなかったと見えた。

 経験が浅く、10代らしさ全開だったモレノは、小さな隙にぬるりと侵入してくるメレンデスの技から学ぶべきである。無敗をキープしたことを喜んでいるだけでは、この先はない。ジャッジの温情によって勝たせてもらった試合だ。
 勝ち負けを抜きにして、その試合をどう振り返るか。結果が全てとはいうものの、何を得るかがいちばん大切なことだと思う。

モレノ=10戦9勝(5KO)1無効試合
メレンデス=8戦7勝(4KO)1敗

勝利全KO対決はアポチが制す

クルーザー級10回戦
○エフェトボー・アポチ(36歳、ナイジェリア/アメリカ=90.5㎏)
●ルーカス・ペレイラ(29歳、ブラジル=89.8㎏)
※使用グローブ=RIVAL黒(アポチ)、RIVAL青(ペレイラ)
TKO5回2分33秒

 テンポ感が小気味よい連打を放つペレイラに対し、ハイガードでプレッシャーをかけながら、ウィービングで迫るアポチ。ありがちな重量級の気怠さは全くなく、心地よい攻防を繰り広げる両者だが、やはりディフェンス力の差が勝敗を分けたように思う。アポチにアフリカ人特有の下半身の拙さがなかった(足がしっかりと太く鍛えられていた)ことも大きいだろう。

 3ラウンドに入り、前に出始めたペレイラだったが、アポチは右アッパーから左フックでダメージを与える。4ラウンドにはペレイラが強烈な左フックをカウンタ―するが、アポチは何事もなかったようにやり過ごし、続く5ラウンドに小さくツーステップを踏んでタイミングを変えて左ボディフック。意表を突かれたペレイラは思わずしゃがんでしまうと、アポチが一気にスパークした。
 体を密着させてねじ込む左フックが良い。いや、ペレイラの接近戦での対処も甘かった。ボディの効いた選手は、顔面への意識が薄まるという定番の試合となり、アポチは左フックをカウンターして連打。アリシア・コリンズ・レフェリーが両者の間に割って入った。

アポチ=14戦12勝(12KO)2敗
ペレイラ=8戦7勝(7KO)1敗

なぜだか敗れたアレグザンダー。その味ある技にメロメロ

スーパーミドル級8回戦
○ジョーション・ジェームズ(25歳、アメリカ=73.2㎏)
●ボーン・アレグザンダー(38歳、アメリカ=73.4㎏)

※使用グローブ=RIVAL黒・白(ジェームズ)、RIVAL白(アレグザンダー)
判定3-0(78対73、78対73、78対73)

 身長、リーチともに上回るジェームズが、ゆったりとジャブ、右ストレートを打っていく。向かい合うアレグザンダーは、左腕を完全に寝かせてボディをカバーし、右グローブと二の腕でアゴ全体を隠す。ジェームズからすれば、打つ場所がないように感じられるだろうし、彼はガードの上を叩きたくないタイプなのかもしれない。ラウンドが進んでも一向に強打を打たず、軽打を繰り返した。

 黒人選手伝統のクラシカル・スタイルを取るジェームズは、両腕を据え置いているわけではもちろんない。上下左右と小刻みに動かす上体の動きに合わせ、ジェームズの軽打を止めていく。特にグローブをちょんと動かして弾く技術は冴えていた。パリングほど大きく動かさないこの技は、近年はあまり見かけないもの。「腕を上げていれば安心」とばかり、ガードを掲げているだけで動きを止めてしまっている、固めてしまっている選手ばかりの現代にあって、とても貴重な選手、技術だと目を瞠った。また、前の手をだらりと下げている選手は数多く存在するが、その大半が「フリッカージャブを活かすため」という時代にあって、アレグザンダーは基本的にボディをカバーし、その位置から瞬間的にショートのフックを打つ。ジェームズはかなり面食らっていた。

 両腕でアゴとボディをカバーしながらいつの間にかじわりと距離を縮めているアレグザンダーは、タイミング良い的確な右アッパーと左フックをジェームズのボディに差していた。手数は圧倒的に多いものの、そのほとんどをアレグザンダーに防がれているジェームズの攻撃よりも、アレグザンダーのボディブローと奇をてらった顔面への左フック、右ショートを評価した。ダメージを与えたり、バランスを崩させたりというシーンは、アレグザンダーがどんどん作っていった。

 ジェームズが、軽いながらもタイミングをずらしてジャブをヒットさせられるようになったのは、ようやく6ラウンドになってからだ。だが、アレグザンダーはしっかりと反応できており、浅く貰う程度。ダメージは皆無。それでもジェームズは強く打ちこんでいかない。試合前から拳を痛めていたとしか考えられなかった。

 最終ラウンド、ジェームズが、伸ばした右腕でアレグザンダーを押すと、クリストファー・ヤング・レフェリーが即座に減点1をコール。この失点はジェームズにとってあまりに痛いと思っていたら、まさかの“ほぼフルマーク状態”で、椅子から滑り落ちそうになった。

ジェームズ=11戦9勝(5KO)2分
アレグザンダー=28戦18勝(11KO)9敗1分

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