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【ボクシング】ジャックが最終回TKOで3階級制覇に成功。“いぶし銀”マカブも輝く

☆2月26日(日本時間27日)/サウジアラビア/ディルイーヤ・アリーナ
WBC世界クルーザー級タイトルマッチ12回戦
○バドゥ・ジャック(スウェーデン)3位
●イルンガ・マカブ(コンゴ)チャンピオン
TKO12回54秒

 ラスト3ラウンドは一気に派手さを増したものの、それまでの9ラウンドは実に玄人好みの、渋い攻防が繰り広げられた。しかし、そこまでの道程があったからこそのクライマックスだった。

 コロナ禍の影響もあってなのだろう。試合枯れの続いたサウスポーの王者マカブは、2020年こそ2試合したものの、2021年はゼロ。今回も昨年1月以来1年ぶりの試合で、初めの2ラウンズは体をほぐすような動きを交えながら立ち上がった。ガードを緩め、インサイドダッキングを繰り返しながら、ほとんどウェイトの乗らない打ち方ながら、左右ブローを上下左右に散りばめていく。

 対するジャックは、右ストレートを上下、特にボディへはシャープに強く刺していく。しかし、マカブの手数が止まらずに、それをフットワークやアームブロックで止めるのに忙しくなり、ついつい自然と打ち出す手が止まってしまった。

 マカブはステップやフットワークをほとんど使わない。あるのはゆるりゆらりと動く上体の動き。決して速く動かすわけでなく、むしろ敢えてスローに動いているように見えるのだが、この動きに目を奪われると、それよりもテンポの速い左ストレート、オーバーハンドに戸惑わされてしまう。決してハンドスピードが速いわけではないのだが、いわゆる“目の錯覚”を起こさせる。力感もほとんどなし。手を出すことでリズムを得、いっそう回転を上げていく。

 4ラウンド、プレスを強めたマカブが右フックを放つと、これをかわしたジャックが右ショートアッパーを合わせる。空振りでバランスを崩したことも災いしてマカブはキャンバスに倒れこみ、でんぐり返しするダウン。だが、ジャックもダメージがないと受け取ったのだろう。決して慌てることなく、丁寧にボックスを続けた。

 落ち着きを取り戻したマカブの連打はぐんぐんと回転を上げていく。ジャックもやや辟易とした表情を浮かべるのだが、インターバルで心を入れ替えたのだろう。続く7ラウンドはワンツーを立て続けに強打。さらにジャブから右ストレートボディ。それまでのように、フットワークやポジション変換でなく、動きを止めて体を着けて戦ったり、8ラウンドにはサウスポーにスイッチしたりと、戦法を変えてみせる。

 9ラウンド終了間際に決めた右フックを皮切りに、ジャックは10ラウンドに入ると右ストレートボディでもダメージを与え、マカブの前進をいなすことなく左肩で受け止めて押し込むようになっていった。マカブのダメージと疲労を感じての切り替えだったのだろう。序盤から中盤にかけての戦いは、この瞬間を待ってのおそらく“布石”だった。

 11ラウンド、ふたたび上下に跳ねるフットワークでリズムをつかんだジャックは、左、右ストレートと見せておき、右のオーバーハンド。これがマカブの耳下を痛烈に捉えると、チャンピオンは弾け飛ぶようにダウン。完全にKOチャンスをつかんだジャックは、しぶとく手数で迫るマカブを肩で押しとどめ、左右へのステップも織り交ぜてコントロール。最終12ラウンド、必死に食い下がるマカブに手を出させ、ダッキングからの右オーバーハンド。大きく後退したマカブをロープに詰めて連打し、マーク・ライソン・レフェリーのストップへと持ち込んだ。

 スーパーミドル、ライトヘビーに続き、2度目のアタックで3階級制覇を遂げたジャックの戦術の妙もさることながら、敗れはしたもののマカブのスタイルも実に味わいがあった。地味で決して格好いいものではないが、インサイドダックがフェイントになっていて、そこから何を出してくるのかわからない。向かい合った者にしかわからないやりづらさ。ジャックが見入ってしまった理由も頷ける。

 日本にも、不格好で不器用な選手はたくさんいるが、マカブの戦い方はとても参考になるはず。この日のジャックのような正統派スタイルに誰もが目を奪われるのだろうが、みんながみんなそういうボクシングをできるわけではない。「これが自分の生きる道」。それを見つけた選手は鈍くても輝く。

《ESPN+視聴》

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