見出し画像

【ボクシング】体内リズムの重要性感じた兒玉麗司vs.高橋拓磨/粘り見せた田口健太を振り切った山内寛太/3戦目でようやく大枠が見えてきた鈴木稔弘

☆3月29日(水)/東京・後楽園ホール
スーパーライト級8回戦
○兒玉 麗司(三迫)
●高橋 拓磨(志成)
TKO8回36秒

 長身をやや前屈みにして立つ兒玉。背筋を真っ直ぐに伸ばして立つ高橋。左ジャブの差し合い、それをかわして右を狙い、右を打たせて左フックを合わせるなど、立ち上がりから緊迫感ある戦いが始まった。

 左ジャブを小気味よく出す兒玉は、それで得たリズムを全身に流し、距離を取ったり上体を動かしたりしての防御技術もある。が、高橋はガード、ブロッキング、パリング主体。極力小さな動きで兒玉のパンチを食い止めて、その間隙に硬いパンチを突き通すというやり方だ。

 ハンドスピードは兒玉が優る。だが、決め打つ高橋のそれは同時打ちになっても上回りそうな勢いだ。けれども、リズムに乗る兒玉は、ワンツー、左フックに加え、アッパーカットも流れるように打つ。高橋もアッパーを打つのだが、どうしても攻撃がブツ切れに感じる。ボクシングの作り上げ方の違いもあるが、ここに「体内リズム」の有無を思わされた。それは攻撃面だけでなく、当然防御面にも影響する。攻撃と防御にリズムがある兒玉に対し、高橋はストレート系を強く打とうというスタイルのために、どうしても棒立ちの瞬間が増える。つまり、「動かない的」だ。兒玉が高橋を捉えるシーンが増えていったのは自明の理だった。

 それでも4ラウンドに高橋は兒玉を打ち合いに巻き込みかけた。兒玉のほうに、心のゆとりが薄れているように感じた。これまでのイメージでは、ここから精神的に目減りしていく姿がよぎったが、この日の兒玉はそうはならなかった。接戦を抜け出すポイントとなったのは続く5ラウンド終了間際の兒玉の左フックだった。

 強力なジャブを打ち始めた兒玉は6ラウンド、連打の中で高橋の右目上をカットさせた。出血が気になる高橋は集中力を欠き始め、後ろ向きな様相を呈してくる。それを決定づけたのは兒玉の左ボディーブロー。ダメージを被った高橋は、露骨にこのブローを嫌がった。

 兒玉はボディーを攻めると見せかけての顔面への左アッパーも有効に使った。もう、ボディーも顔面も効いてしまった高橋は、コーナーやロープを背負う場面も増えていった。

 最終8ラウンド、起死回生を狙った高橋の右アッパーに、兒玉は左ボディーブローを合わせ、左右でボディーを攻める。後退した高橋に、力任せの右ストレートを2発。ここで飯田徹也レフェリーが試合を止めた。

 7勝7KO無敗、東洋大学の大先輩を破った兒玉にとって、この試合は大きなターニングポイントとなるに違いない。
 一方、初黒星の高橋。ストレートを強く打つためのフォームにもかかわらず、右ストレートを顔面に強く打ち抜くシーンは皆無に思えた。チョッピングライトやアッパーは打っていたが、拳に何らかのトラブルがあったのでは? とも思わされた。

☆3月29日(水)/東京・後楽園ホール
フライ級8回戦
○山内 寛太(DANGAN越谷)
●田口 健太(セレス)
TKO5回2分33秒

 強くシャープなワンツーを打ち、それでガードを閉めさせて左ボディーブローをグサグサと突き刺す。2ラウンドまでは山内がやりたい放題の様相だったが、粘り強い田口は3ラウンドから右クロス、左ジャブで抵抗する。ガードをがっちりと固め、いつ手を出すのか山内には計りかねる。そういうツボを突いた、田口の渋い生き残り策なのだ。

 打っても打っても退くことをしない田口に、山内は辟易とした表情も浮かべる。そうしているうちに、カツンカツンとジャブを合わされ、右クロスを狙い打たれる。だが、ヘッドスリップで威力を逃がしながら、パワーパンチを集めた山内は、田口の右目上をカットさせた。
 山内の強烈な右ストレートにも決して怯まずに、リズムを作り直した田口は必死に迫ったものの、傷とダメージを考慮した田中浩二レフェリーが割って入った。

 身体能力の優れた山内は、いずれランカーとなり上位に進出するだろう。敗れた田口は、7月で37歳の定年を迎える負け越し(7勝1KO11敗1分)ボクサー。お世辞にも器用な選手とは言えないが、個人的には毎試合、抵抗の仕方に惹き込まれてきた。キラキラと輝くボクシングではないが、これもまたプロボクサーのボクシングなのだ。

☆3月29日(水)/東京・後楽園ホール
スーパーフェザー級8回戦
○鈴木 稔弘(志成)
●キティチャット・ウングスリポングス(タイ)WBOアジアパシフィック8位
TKO5回1分9秒

 過去2戦は、実力差のある相手を猛然と捻り潰してしまった鈴木だが、ようやく彼のボクシングを垣間見られた気がする。ブロック&最小限のボディーワークでキチィチャットの攻撃を寸断し、右アッパーを見せておいての左ボディーブローをズドンと叩き込む。

 だが、キティチャットはそれで沈むようなヤワな選手ではなく、パッとサイドへと大きく動き、鈴木の空振りも誘発させてみせた。

 前の手のストレートボディーの応酬も見せた中、鈴木のパフォーマンスでひと際目を惹いたのが、右ストレートボディーだ。力感なく、ふとした間隙に打つ、コンビネーションの中に混ぜるそれは、相手を迷わせるアクセントとなる。そこでフッと気を引きつけられるところに、左腕の連打が飛んでくる。この右ボディーといい、派手さはないが、細かい足運びでポジションを変えていくやり方は、ジムの大先輩・井岡一翔の影響大と感じた。

 そして、右アッパーを敢えて眼前に空振りさせて打つ左ボディーブローと、ガードの高い相手を打ち崩す、上から打ち下ろすような左フック(これはゲンナジー・ゴロフキンを参考にしたのだろう)。一発の威力もさることながら、伏線を張って崩していくボクシング、その組み立ての妙を感じた。

 わずか3戦。完成度の高さはかなりのものだが、防御動作からリズムを作っていく手法も身に着けてほしい。極力小さな動きでかわして打つというボクシングにこだわるあまり、リズムが停滞するシーンもあった。今後、上に登りつめていくと、必ずこれは必要となるものだから。

《ABEMAライブ配信視聴》

ここから先は

0字

観戦した国内外の試合開催に合わせ、選手、関係者、ファンに向けて月に10回程度更新。

この記事が参加している募集

ボクシングの取材活動に使わせていただきます。ご協力、よろしくお願いいたします。