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パワー全開の木村吉光。ダウン喫するもオールラウンダー発揮の鈴木稔弘。スーパーフェザー級コンビ2試合評【ボクシング】


☆8月24日/東京・後楽園ホール
スーパーフェザー級8回戦
○木村 吉光(27歳=志成)OPBF4位、WBOアジアパシフィック8位
●ジャスティン・テソロ(25歳=フィリピン)フィリピン7位TKO5回2分36秒
※使用グローブ8オンス(木村=REYES黒、テソロ=REYES青)

 前WBOアジアパシフィック王者の木村が、持ち前のパワーでテソロをねじ伏せた。
 長身で距離の長いテソロに対し、木村はクイックなフェイントをかけながら右ストレートを下、上と打ちこんでいくが、この右に対し、テソロは左フックを合わせてくる。体を先に入れ、遅れて打ちこむ右を初回に痛打した木村だが、2ラウンドにはガードするグローブの上に左フックを通されてよろめき、左左右と追撃されて、ロープ際でバランスを崩し、右のグローブをキャンバスに着いてしまった。
 これはダウンと取られてもおかしくないものだったが、レフェリーも、目の前に座るインスペクターらもこのシーンをスルー。スリップダウンとみなしたなら、その宣告をはっきりとすべきだった。

 テソロはそれまで打っていた左から右のワンツーから、右から左フックのパターンへと切り替える。が、木村にとって救われたのは、テソロはシンプルな攻撃のみで多彩なパンチを操らない選手だったことだ。フェイントをかけながら正面突破を狙う木村が右を直撃されるシーンもあったが、局面を切り開いたのは、右ボディーストレートだった。
 5ラウンド、右ストレートでボディーを刺し、ニュートラルコーナーにテソロを追い詰めた木村は、左ボディーブローをダブルで叩き込んで1度目。さらに同じブローで2度目。猛然と連打して最後は右ストレートをボディーに突き刺して3度目のダウンを奪うと、中村勝彦レフェリーが試合を止めた。

 同じ野木丈司トレーナーが指導する比嘉大吾のスタイルに近づいた感のある木村。上体の小さな動きによるフェイントが速すぎて、それがフェイントになっていない場面もあった。クイックにこだわりすぎている印象が強いので、“タメ”を作るともっとフェイントも生きると感じた。

スーパーフェザー級8回戦
○鈴木 稔弘(26歳=志成)
●ヴァージル・ビトール(26歳=フィリピン)WBOアジアパシフィック1位
判定2-1(76対75、76対75、75対76)
※使用グローブ8オンス(鈴木=ウイニング赤、ビトール=ウイニング青)

 3勝3KO無敗の大器・鈴木が冒険マッチで薄氷の勝利。初のダウンも喫する厳しい戦いだったが、だからこそ価値ある白星となった。

 とにもかくにもビトールが強かった。ブロッキングでもリズムを取ることのできる鈴木のそのブロックを突き破る豪快な左右。それを5発、6発と繰り返せる。しかも放つパンチが全部強打。普通、これだけ打ち込めばかなりのスタミナを使うものだが、最後までそれが落ちなかったことは驚異的だ。もちろんトレーニングの賜物でもあるのだろうが、生まれ持った体の強さ、柔軟性、そしてパワーがあると感じた。そして迫力ある攻撃ばかりに目が行きがちだが、距離を取って、展開を変えようとする巧みさ、鈴木の多彩な攻撃にしっかりと柔らかいボディーワークで対応してくる技術もあった。

 ガードを割られて鼻血を流した鈴木だが、彼もまたオールラウンドにボクシングを繰り広げられる巧者だ。右アッパーからの左ボディーブローを主軸とし、打っては離れサイドへ動く、ビトールのサイドをスルリと取って、そこからコンパクトな攻撃につなげるなど、わずか4戦目の選手とは思えない展開力を発揮した。接近戦での頭の位置、体のずらし方も落ち着きがあって見事だった。
 ビトールの強打の連打に煽られるシーンもあったが、5ラウンドの最後にダウンを奪われるまでは、しっかりと主導権を握り続けていた。

 そのダウンシーンは、残り5秒くらいの一瞬だった。左ボディーでダメージを与えていた鈴木が気を抜いたわけではなかろうが、ビトールのトリックに引っかかった形だ。
 ふっと両ガードを下げたビトールに、“間”を作られた。と同時に右ストレートから、ストレートに近い軌道ながら左を捻り込むパンチで尻もちを着かされたのだ。

 6ラウンドはセコンドの指示もあったのだろう。無理に攻撃を仕掛けず、ビトールに攻めさせておき、7、8ラウンドと左ボディー主体にふたたび攻撃を強めてみせた。慌て打ちしかけても、それを自制する能力も長けていた。ビトールも迫力を落とさずに打ち返し、試合中に両者ともレベルを高め合っているような印象を受けた。

 ひとつ気になったのは、序盤、美しくタイムリーな右ストレートを打っていた鈴木が、それをいつしか消したこと。まともな右を打たなくなり、出してもちょんちょんと打ったり、左ボディーブローへの繋ぎの右アッパーのみ。拳を痛めたのか、それともビトールの左フックでヒジを痛めたのか、左フックを合わされるのを警戒して出さなかったのか。
 いずれにしても、ビトールほどの強豪をほぼ左1本で制したことは、あらためてこの選手の能力の高さを思い知らされるものとなった。

 木村、鈴木、そしてこの日解説を務めたOPBF王者・森武蔵。志成ジムのスーパーフェザー級トリオの争いも楽しみだ。

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