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【ボクシング】ティム・ヅ―が圧巻の暫定王座獲得。元王者ハリソンを9回に仕留める

☆3月12日/オーストラリア・ニューサウスウェールズ州シドニー/クドス・バンク・アリーナ
WBO世界スーパーウェルター級暫定王座決定戦12回戦
○ティム・ヅー(オーストラリア)1位
●トニー・ハリソン(アメリカ)3位
TKO9回2分43秒

 地元のヒーローの圧巻の戴冠劇に、大観衆も、そして尋常でない量の紙吹雪も乱舞した。最初からフィニッシュまで文句のつけようのない勝利だった。

 開始ゴングが鳴るやいなや、まるで忍者のようにするりするりとハリソンとの間合いを詰めていった。無理なく無駄なく動作なく忍び寄る。ただし両グローブをややワイドに構え、手は出さない。ハリソンに得意の左ジャブを出させ、このタイミングをしっかりと把握するための所作だった。

 ハリソンは、その意図を分かりながら速いジャブを角度やタイミングを変えながら出していく。しかし、ヅーはこれを右グローブで叩き、あるいはキャッチし、また両グローブで挟む。そういう腕の動作を取りながら、上体ももちろん微妙に動かす。しかも反応が速い。神経過敏なものでなく、ごく自然なもの。そうしてかわしながら、チリチリとプレスをかけていき、ハリソンのジャブに左フックをリターンした。

 この左フックがキーになっていたと感じた。速い。しかも切れ味が鋭い。そして角度がある。これをハリソンのジャブにも右にも合わせていく。これだけでもハリソンにとってはかなりのストレスで、右を出しづらくなっていたのだが、さらにこの後、ヅーが出していくジャブ、アッパーカットに、ハリソンは混乱を極めたことだろう。

 長距離の戦いが皆無だったこの試合の中で、中距離、近距離といずれの間合いで放たれるヅーの左は、打ち出すタイミング、出だしの角度、スピードがどのブローも同じなのだ。それゆえ、なおいっそう右を出しづらくなったハリソンは、体とブローの圧に押されて、常にロープを背負わされることになった。

 ヅーは左のコンビネーションに加え、威力よりも速さを重視したワンツーもスムーズに放つ。ハリソンのジャブへのリターンで常に上回っていき、距離が縮まれば、頭を下げるハリソンに右を強く打ち下ろす。また、速いジャブを顔面に飛ばしたかと思えば、この左をストレートに近い打ち方でボディーに刺す。ヅーはこうして中間距離での戦いを制した。ハリソンはプレスを受けつつ、自らも近距離での戦いに活路を見い出さざるをえなくなった。

 ここでヅーが用意していたのが左ボディーブローだった。右ストレートからのもの、右アッパーからのもの。突き刺すような打ち方ではなく、“弾く”感じ。しっかりと打ちこむのではなくこれもスピードをメインにしたものだ。それでもタイミングが取れているのだから、効果は絶大。ハリソンは、いよいよリング中央で最後の賭けに出るしかなくなった。

 ハリソンの心の内を見透かすように。いや、ヅーはこのときを待っていたのだろう。右には左フック、ジャブへは右のリターンと上塗りしたヅーは、ついに右強打を爆発させた。1発目はハリソンが頭を下げたため、後頭部を打つ形となった(おそらくこれも効いた)が、2発目はテンプルを捉える。大きくロープに後退したハリソンに、右アッパーを4発5発とこれでもかというくらい突き上げる。そうしてすでに半ばグロッギー状態となったハリソンに、左フックから右。背中を向けながらしゃがみ込んだハリソンは、カウント8で立ち上がったが、ダンレックス・タブダサン・レフェリーは左右へ動くことを支持。足のふらつきを認めて両腕を交差したのだった。

 偉大なる父コスタヤ(コンスタンチン)に顔は瓜二つ。間合いの詰め方や攻め方も似ている、と言いたいところだが、足運びといい、ジャブとフックでの惑わせ方といい、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)を思わせた。

 4団体王者ジャーメル・チャーロ(アメリカ)の左拳負傷により、当初、1月に予定されていた挑戦は実らなかったが、この日、スタジオのゲストとして登場したチャーロに向かい、「準備はできてるか? 次はおまえだ」と呼びかけたヅー。この試合の出来栄えによって、チャーロ対ヅーの注目度は、世界中で俄然高まったはずだ。

《SHOTIME BOXINGライブ視聴 》

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