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【ボクシング】2・24イギリス・リヴァプールのフライ級王座統一戦批評&考察


☆2月24日(日本時間25日)/イギリス・マージーサイド州リヴァプール/オリンピア
欧州(EBU)・英連邦(CBC)・英国(BBBofC)フライ級王座統一戦12回戦
○ジェイ・ハリス(33歳、イギリス)英国チャンピオン
●コナー・バトラー(26歳、イギリス)欧州&英連邦チャンピオン

※使用グローブ=empire白・赤(ハリス)、empire白(バトラー)
判定3-0(116対112、116対112、116対113)

 東京五輪にも出場し、井上尚弥(大橋)対ポール・バトラー(イギリス)の前座にも登場したピーター・マグレイルの弟ジョーをはじめ、出身や拠点がリヴァプールの選手を赤コーナーにずらりと並べる形式は、日本の地方興行同様。そして、かつてのわが国のように、青コーナーに実力差のある選手を用意するのが、プロモーションにかぎらず現在の英国式である。その戦績は2勝28敗だの2勝29敗と別の意味で目を奪われるもの。昨年は他の興行で1勝55敗なんて選手にも出会った(同日の別会場では3勝109敗なんて選手もいた)が、当該選手は予想に反し防御がしっかりしていて驚かされた(いや、そうでなければそんなに戦い続けられないか)。にしても、出田裕一(三迫)の12連敗なんてかわいいもんだと思えるような戦績である。

 しかし、この日の“引き立て役”の実力は惨憺たるものだった。といっても、これはあくまでも私の見立てで、赤コーナー側が強かった、という観方もある。それを否定するつもりは毛頭ないので、ぜひその目で判じてほしい。

 というわけで、すっかり集中力を失いながら突入してしまったメインイベント。これが、それまでの悲惨な気持ちを一気に吹き飛ばすような好試合。この試合を映えさせるための前座だったと言えなくもないが、いや、この試合単体で見ても、素晴らしい試合だった。

 かつてトップホープと目されたハリスが、すっかり渋い選手になった。勢いとセンスを感じさせるバトラーを、巧みな技で絡め取っていく。特に印象的だったのは、クリンチ際、グローブでバトラーの顔をこすり上げる嫌がらせだ。きっとワザとだろうけれど、それをさも偶然のようにさりげなく見せる。ペースもリズムもハリスに持っていかれ、焦りを見せ始めていたバトラーをさらにイライラさせたことだろう。

 しかし、決してハリスは渋いばかりではなかった。いちばん目を瞠ったのは体力だ。カウンターを決めるような瞬間的な切り取りはバトラーがセンスを感じさせたが、バトラーがちょっと気を抜いた瞬間に高速連打を常に見舞うのだ。これがフルラウンドにわたって行われたのだから、そのスタミナは尋常じゃない。が、もちろんノンストップで打ちまったわけではない。バトラーが攻めてこないとみるやアングルや距離を変えて、気づかれないように休憩するしたたかさも。

 ボディブローを防ぐ技術の拙いバトラーの腹を徹底的に攻め、スタミナを奪い取っていく。そして、バトラーが距離をとって休もうとすれば、にじり寄っていき、決して休ませない。

 左フックでボディを叩き、左アッパーを突き上げて、右を打ち下ろす。この打ち下ろしの右が再三バトラーを捕らえ、こちらもダメージを与えていた。中盤から終盤に入るあたり、そのままハリスがストップしてしまうのではないかとも思えたが、そこはバトラーも好選手。カウンターで迎え打ち、ハリスに詰めを許さなかった。

 7歳しか違わないが、ベテランが若者に“何か”を教えたような試合だった。若い選手が先輩を乗り越えていく姿もたまらないが、勝敗を抜きに、キャリアのある選手がボクシングの深さを伝える試合が好みである。
 この試合を見ていて、3月2日、後楽園ホールで戦う堀川謙一(43歳=三迫)と高見亨介(21歳=帝拳)に思いを馳せた。先輩後輩どころか親子のような戦いである。

ハリス=24戦21勝(11KO)3敗
バトラー=13戦11勝(1KO)1敗1分

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