見出し画像

【ボクシング】延々と続く超接近戦。森武蔵がラストで追いつき、渡邉卓也と引き分け

☆3月29日(水)/東京・後楽園ホール
OPBF東洋太平洋スーパーフェザー級王座決定戦12回戦
△森  武蔵(志成)3位
△渡邉 卓也(DANGAN AOKI)6位
引き分け(114対114、114対114、114対114)

 8ラウンド終了時のオープンスコアリングではジャッジ三者とも77対75で渡邉リード。ここからの森のギアの上げ方が、残り3つのラウンドをリードしたと評価された。ポイントを奪うではなく、倒しに行っていたように見えた森。残り4ラウンド中3つを与えなければ勝ちと計算しただろう渡邉。その心理面が影響したように思う。

 序盤3ラウンドこそ、中間距離での戦いが繰り広げられた。サウスポーの森、オーソドックスの渡邉は、ともに前の手で駆け引きし、基本的には森が先に仕掛けていくというパターン。身長で7cm差(渡邉177cm、森170cm)という体格だけを考えれば、森が入っていかなければ──ということになる。
 だが、それこそが渡邉の仕掛けた罠だったように思う。いや、それ以前に“真正面の戦い”に渡邉がはめ込んだという気がしてならない。
 元来が基本的に前後動の戦いをする渡邉と、中間距離で細かく立ち位置を変えながら展開していく森というスタイルの相違がある。しかし、森は立ち上がりからほぼポジションを変えずに前の手の戦いを演じ、それで上回ってみせていた。「このライン上で上回れる」。そう考えたのかもしれない。そして4ラウンドからは、真っ向勝負の肉弾戦が開始されたのだった。

 スーパーフェザー級にクラスを上げてきた森と、元よりここで戦って来、しかもフィジカルの強さに自信のある渡邉。森としては、その戦いで渡邉を凌駕してしまえば、という想いもあったのかもしれない。そして、この正面での戦いで得た自信が後押ししたのだろう。けれども、接近戦こそが渡邉の領域。左右アッパーカット、特に左はことごとく森の顔面を跳ね上げた。真正面での戦いながら、この至近距離で微妙にポジションをずらし、空間を作ってアッパーを突き上げる巧さ。そしてクリンチ際に、ボディーブローをねじ込む上手さも渡邉に一日の長があった。

 森も必死にボディーブローを返していく。渡邉にアゴを跳ね上げられると、よりムキになってこの戦いに没頭したように見えた。「フィジカルでも負けない」という強い思いも感じられた。前進、押し込むというギアを入れてしまった森は、バックに入れられない。タフネスに自信があるということが基本線にある、非常に危険な戦いだった。

 ラスト4ラウンドの森の連打は凄まじかった。だが、細かいステップを捨てて戦い、スタミナを使っていなかったから実現できたのかもしれない。が、森武蔵の特長を生かす戦いがこれまでにできていれば、そのリズムに乗って、もっと明白な勝負をできたとも言える。

 試合全体を通せば、想定どおりの戦いをできていたのは渡邉だ。ほぼひと回り若い森をこの戦いに引きつけて呼び込んで、巻き込む。これが52戦目となるベテランらしい“仕掛け”だった。

 と、ここまで考えて書いてきて、ふと2ラウンドのシーンが思い浮かんだ。渡邉の頭が偶然にかち上げる形となり、森の顔面にぶつかった場面だ。その一撃で森の右目周りが若干腫れた。その際、森の目に何らかの異常が生じ、敢えて接近戦を演じなければならなかったのだとしたら……。

 真相はわからないが、「肉を斬らせて骨を断つ」戦いを、かつての黒星以降避けたがっていた森のこの日の戦いぶりは、それほど不自然に感じた。

《ABEMAライブ配信視聴》

ここから先は

0字

観戦した国内外の試合開催に合わせ、選手、関係者、ファンに向けて月に10回程度更新。

この記事が参加している募集

#スポーツ観戦記

13,501件

ボクシングの取材活動に使わせていただきます。ご協力、よろしくお願いいたします。