見出し画像

【ボクシング】3・2『WHO'S NEXT DYNAMIC GLOVE on U-NEXT』批評&考察


☆3月2日/東京・後楽園ホール

強打を決めるための伏線張りの大切さ

ライトフライ級10回戦
○高見 亨介(21歳、帝拳=48.8kg)IBF15位
●堀川 謙一(43歳、三迫=48.8kg)OPBF10位、日本8位

※使用グローブ=WINNING赤(高見)、WINNING青(堀川)
TKO6回2分50秒

 芯に響かせるような強打。高見の最大の武器は、どのブローでも効かせることのできるパンチ力だが、それを決めるための“伏線張り”が実に見事だった。

 上を意識させるためにガードを叩き、右を外から打ち込んで意識を吸い寄せて左ボディブロー。右ストレートを意識させて右アッパーを上下。ワンツーの連打で強烈にプレッシャーをかけておき、堀川の反撃を見透かしては左フックのカウンター。歴戦の雄・堀川に常に先手を仕掛け、それに対応させてはさらに先を行く。大ベテランを完全にコントロールしてしまった。

 早々にダメージを与えられた堀川だが、そのままジリ貧にならないところが彼のなせる業。相手が気づかぬうちに、まるで忍びのごとくそろりスルリと間合いを詰めていくのが特長だが、高見は堀川の気配を察知して、その間合いをほんの少しずつ切っていく。堀川がプレスを強めている構図でも、高見はうまくはぐらかし、カウンターを常に狙っていた。4ラウンドの左フックは鮮やか。堀川に左フックを打たせるよう誘い、それに合わせた“狙いすまし”だった。

 5ラウンド。入ると同時にスッと突き出す右ショートをヒットしたのは“堀川マジック”の一端だが、高見は右カウンターで大きく上書きしてしまう。そして6ラウンド。ふたたび堀川のガードを強く叩きつつ、左ボディを決め、右ストレートと右アッパーのミックスで翻弄し、猛烈な連打から左フックをテンプルにヒット。倒れ込む堀川を見てレフェリーが止めると同時にタオルが舞った。

 堀川の高いガード力を見越し、敢えてガードを強く叩く。堀川はガード上を叩かせてリズムを取ることのできる選手だが、高見もまたガードを叩いてリズムに乗れる。さらに、堀川に強打の意識を植えつけて、その意識を手玉に取って、空いた箇所を襲う。
 攻撃力ばかりが目立つが、堀川の奇をてらった左フックを難なくステップバックでかわすなど、高見のディフェンス意識はかなり高い。それは、強打に任せた雑な攻めを一切見せない攻め方にも如実に表れている。

高見=6戦6勝(5KO)
堀川=62戦41勝(14KO)20敗1分

あの手この手のボディ攻めが出色

スーパーバンタム級8回戦
○村田  昴(27歳、帝拳=55.3kg)WBA13位
●アレックス・サンティシマ・ジュニア(23歳、フィリピン=55.1kg)OPBFバンタム級13位、フィリピン11位

※使用グローブ=WINNING赤(村田)、WINNING青(サンティシマ)
KO7回1分45秒

 村田昴の立ち姿に変化を覚えた。より半身になり、左腰の骨盤を意識した重心の置き方をしているように感じた。左ストレート、アッパーカットに元々威力を秘めているが、その威力をさらに強くさせることを意識したフォームだと推察する。
 半身を強めたことで奥行きが、より深まった。前の手(右)を通過した相手のブローを奥の手(左)でパリングする。いわば二段構えのディフェンスだ。

 右の多彩さが、いっそう際立っていた。リズムを取り、相手を幻惑し、止めることも痛めつけることもできる。サンティシマは左フックをかぶせたり、同時に踏み込んで右をヌッと突き刺してきたりと村田の右封じの工夫を凝らしたが、村田の右の引き出しはそれを大きく上回っていた。

 ストレート、アッパー、フック。左ボディブローの多彩さもまたサンティシマを苦しめた。2ラウンドに速いジャブ2発からアッパーを突き刺すと、続く3ラウンドには1・1→2と最初のジャブから半テンポ置いてのワンツー。このストレートボディが効いた。
 こうして自ら仕掛ける攻撃に加え、サンティシマの攻撃に合わせるカウンター、さらには近距離からの離れ際に差し込む左右ボディフックがいっそう効果を生む。攻撃力に危険なタイミングを持つサンティシマは、徐々に心のゆとりを削られていき、一撃狙いにならざるをえなかった。

 5ラウンド、さらにボディブローを有効にするために左アッパーを突き上げ始めた村田は、6ラウンド、一気に試合を決めにいく。連打に次ぐ連打。が、サンティシマは倒れない。右フック1発を村田にヒットさせて抵抗した。村田にも打ち疲れの色が見えた。

 ふたたび距離を取り、呼吸を整えた7ラウンド、村田は左アッパーから右ボディフック。これを意識させておき、左フックをボディへ。意識外からの攻撃を喰ったサンティシマはキャンバスに落ち、テンカウントを数え上げられた。

 ワンパンチの強さを意識しながらも、それを決めるための伏線づくりを忘れない。リズムに乗って、テンポの上げ下げを施して、相手を翻弄する。全体的なスピードは速いが、“速ければいいってもんじゃない”ことをよく理解していると感じた。

 
村田=6戦6勝(6KO)
サンティシマ=9戦8勝(2KO)1敗

不安要素を先に捨てていく判断力

ライト級8回戦
○丸田陽七太(26歳、森岡=60.9kg)OPBF5位、WBO・AP12位、日本7位
●プームリットデーット・チョンラトンダムロンクン(22歳、タイ=61.9kg)OPBF12位、WBO・AP2位

※使用グローブ=WINNING青(丸田)、WINNING赤(プームリットデーット)
判定3-0(79対73、79対73、79対73)

 前日計量で700gの体重超過(※JBCが当日に課したウェイトはクリア)をしたプームリットデーットは、予想以上の難敵だった。丸田の長い距離に戸惑いを見せず、見づらいフリッカージャブに臆することなく右のリターンを合わせ、スピード負けもしない。そしていちばんは、丸田の速いテンポ、リズムに立ち遅れするどころかしっかりと噛み合わせてきたことだ。
 好奇心旺盛な丸田は、2ラウンドに自ら接近戦を挑み、プームリットデーットの反応を窺った。言い方を変えれば、戦力データの収集を図った。ガッチリとガードを固めてシャットアウトしたものの、攻撃力の強さは十分に読み取ったことだろう。
 中・長距離では出どころ3種類(腰の位置、胸の位置、顔の横)のジャブを有効に使った。腰の高さから放つフリッカーは、リターンの危険性を感じて封印し、2箇所からのジャブを、フェイントを入れ、タイミングを変えて打つことに徹した。スリーパンチ以上の速いコンビネーションは一見有効に見えるものの、その間隙にプームリットデーットが一撃を狙う意図を感じ取ると、ツーパンチに抑えた。相手に先押さえされて立ち行かなくなる前に自ら排除して、新たな方策を立てる。これが丸田の強みだと感じた。

 5ラウンド以降は、上下に跳ねる動きをより加え、そのリズムとのズレから繰り出すパンチを効果的に使ってプームリットデーットとの嚙み合わせを外した。プームリットデーットは、?マークが浮かんだような表情から、明らかにやりづらそうな顔を浮かべるようになっていった。

 ワンツー、あるいはいきなりの右ストレートは、普段よりコネクトしづらく見えたが、本人もそれを感じ取ったのか、やはり自重していたように思う。

 丸田のボクシングは、リズムに乗っているからこそ、速いテンポの攻防で推移し加速していくが、ここにスローテンポも織り交ぜられれば、プームリットデーットのようなタイプを蹂躙することができるように感じた。

丸田=17戦14勝(10KO)2敗1分
プームリットデーット=17戦15勝(13KO)2敗

とんでもない可能性を秘めた選手

フェザー級8回戦
○金子 虎旦(25歳、帝拳=56.9kg)WBO・AP13位
●ジュンリル・カスティノ(25歳、フィリピン=56.7kg)フィリピン・スーパーバンタム級1位

※使用グローブ=WINNING赤(金子)、WINNING青(カスティノ)
KO4回1分59秒

 ものの見事な左ボディカウンターでテンカウントを聞かせた金子の快勝だが、そこまでの過程は例によってきわめてスリリング。スピードとあふれるセンスで全勝をキープしているが、いまのうちに危険な芽を摘むパターンを確立させておきたい。

 初回からスピードを生かしたいきなりの左ボディブローを連発した金子。これはとても勇気の要る攻撃だった。距離を詰める際に合わされたように、カスティノの左フックは一番の脅威で、ボディブローに合わされると大事故になる恐れもあったからだ。
 金子は左フック封じとして右ガードの徹底を選択した。右ストレートが極端に少なかったのはおそらくそのためだ。しかし、カスティノからすれば、「左フックで金子の右を封じた」ことになる。つまり、カスティノ側は「左だけ注意すればよい」ことになる。
 対して金子は左フックを警戒するあまり、リターンの右をまともに貰うシーンもあった。その右に味をしめたカスティノに、右を打たせてこれを左へのステップでかわし、左ボディカウンターを決めたのは見事だったが、ギリギリの勝負となった感は否めない。

 この日でいえば、右クロスで脅かして、相手の武器(左フック)を削ぎ、封じ込める。そんな駆け引きをできれば、速くて多彩なジャブやアングルを細かく変えていけるステップワークをもっと有効活用でき、さらには右ストレートや左ボディブローももっと楽に効果的に使えたはずだ。なにより、危険なパンチを貰う機会もグッと減るはず。そもそも相手がそれを出せなくなってしまうからだ。

 カウンターの素晴らしさは誰もが認めるが、相手のカウンターも生かしてしまうような危険を冒す必要はない。自分のカウンターだけ生きる布石作りができれば、本当にとんでもない選手になる。

金子=5戦5勝(4KO)
カスティノ=19戦14勝(4KO)5敗

相手が強いからこそ試合中に進化できる

スーパーバンタム級8回戦
○福井 勝也(27歳、帝拳=55.2kg)WBO・AP1位、日本10位
●オー・サンフン(23歳、韓国=55.0kg)韓国バンタム級チャンピオン

※使用グローブ=WINNING赤(福井)、WINNING青(オー)
判定3-0(80対72、80対72、80対72)

 左ジャブを機能させ、早々と右クロス、左フックのカウンターをずばずばとヒットさせていった福井だが、対するオーの反応や対応力もなかなかのもの。倒れかけたシーンが何度もあったが、決して崩れないメンタルの強さもあって、採点はフルマークながら、好勝負となった。

 福井は、放つパンチのほぼすべてがカウンタータイミングで、その洗練度はかなり秀でているが、オーも相打ちを狙ったり、触発されたような右クロスを狙うセンスだったりと、決して怯まない。そんなオーの高い能力が、福井を試合中に向上させたと感じる。あれだけカウンターを当てながら、落ちていかない相手に対し、集中力を欠いてもおかしくなかったが、それをキープできたことも大きい。すっかり癖づいているアゴの締めも、自身を守る大きな要素となっていた。

 試合を決めにいった6ラウンドの猛連打をしのがれて、続く7ラウンドには、フットワークを使って息を整えるために充てた。けれども、後ろ向きにならず、しっかりと呼び込んでリターンブローを当てていたのも素晴らしい。
 しかし最終8ラウンドは、自身の出方に迷いが見られ、オーにそこを突かれて右の相打ちで上回られ、危険な右アッパーも突き上げられた。この回だけはオーがポイントを奪ったと思う。

 それにしても、オーのボクシングも見事だった。下肢を利かせたブローは迫力があった。かつての勢いを失っている韓国ボクシング界だが、いわゆるコリアン・ファイターでなく、オーのように巧さも持った選手が確実に存在する。まだ若いオーの今後にも期待したい。

福井=7戦7勝(5KO)
オー=12戦8勝(6KO)3敗1分

敗者からも学べることはある

55.0kg契約8回戦
○内構 拳斗(24歳、横浜光=54.9kg)
●カルーン・ジャルピアンラード(38歳、タイ=54.6kg)

※使用グローブ=WINNING青(内構)、WINNING赤(カルーン)
判定3-0(78対74、80対72、80対72)

 1ラウンドから8ラウンドまで、ほぼフルパワーで攻撃しまくった内構の完勝だが、この内容を本人や陣営がどう捉えるかで、彼の今後が大きく左右されると思う。
 力強く、硬く重そうなパンチを続けて繰り出せる。特に左ボディブローはサイド、中心と打ち分けることもできる。元世界ランカーのカルーン(ペッチバンボーン)がダメージを感じさせる場面もあった。が、あれだけ圧倒しながらもダウンやストップに持ち込めなかった。それを「カルーンがタフだった」で終わらせてしまうなら、あまりにもったいない。

「打ち負かした相手から学ぶ」。なんともおかしなことかもしれないが、カルーンの戦い方は実に参考になると思う。力感なく打ち出される彼のジャブ、内構の連打の隙間にスルリと滑り込んでくるタイムリーな右ショートや左フックのカウンターは、タイミングを完全につかんでいるものだった。さすがに往時の強さはなく、内構がトラブルに陥ることはなかったが、内構が「自分はなぜ貰ってしまったか」を考えることは非常に意義があるはずだ。
 スタートから“相手を潰す”ことに没頭してしまった内構に生じた隙ももちろんだが、カルーンがそのタイミングをいかにしてつかみ取ったか、カルーン・サイドに立って考えることに、さらに意味がある。

 フルパワーをあれだけ継続させられるのは立派だが、リズムもパワーも単調に陥っていた。すべてのパンチをヒットさせようと躍起になっていた印象も強い。連打のパターンも一定で、来るとバレているからこそ相手は耐えられる。“潰すモード”からひと呼吸置いた“遊び”も必要だったかと思う。その点に関してはカルーンが上回っていた。内構に打たれながら(打たせながら)彼をじっと観察し、内構の両腕を敢えて打ち(これを「捨てパンチ」と表現することがあるが、決して“捨て”ではなく“布石”だ)、隙を創出しようともしていた。それをできるのはキャリアももちろんのことだが、性格の影響も大きい。そして内構はきっと、こうと思ったら邁進してしまう生真面目な性格の持ち主なのだろう。

 元々がブロッキング主体で、攻撃と防御がくっきりと分かれる傾向にあった。だが、肩でアゴを隠しながらヘッドスリップしたり、ウィービングを繰り返してカルーンの左右フックをかわしたりといったテクニックが身についていた。次のステップは、そこから間を置かずに攻撃へと転じる動きだろう。

内構=5戦4勝(1KO)1敗
カルーン=68戦53勝(27KO)15敗

《U-NEXT視聴》

#スポーツ観戦記

この記事が参加している募集

スポーツ観戦記

ボクシングの取材活動に使わせていただきます。ご協力、よろしくお願いいたします。