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【ボクシング】ベルムデスがバジェ返上の2冠取り戻す。エンリケスは敵地で涙呑む

☆3月10日(日本時間11日)/アルゼンチン・ブエノスアイレス/エスタディオ・ルナパーク
IBF&WBO女子世界ライトフライ級王座決定戦10回戦
○エヴェリン・ベルムデス(アルゼンチン)IBF2位、WBO2位
●タニア・エンリケス(メキシコ)IBF1位、WBO1位
判定3-0(96対94、97対93、97対93)

 勝利を告げられた地元のヒロインが、飛び跳ねて喜びを露わにしたものの、大歓声が包み込んだわけではなかった。その雰囲気が、この試合をはっきりと物語っていた。ベルムデスの大苦戦どころではなく、戦術、戦略、そしてクリーンヒット数とどれをとっても私の目にはエンリケスの完勝にしか見えなかった。ジャッジの採点とは正反対の97対93だった。

 身長はベルムデスが165cm、エンリケスが168cmと発表されているものの、上体を立てて構えるサウスポーのエンリケスがやたらと大きく見える。しかも、懐を深く使い、距離を長く取り、そしてそう見せる。
 右へ右へとじりじりと移動していくベルムデスは、右を放ちながら思い切って飛び込む姿勢を見せるのだが、エンリケスはこれを距離で外し、ヘッドスリップで左右にかわしながら左アッパーをボディにカウンター。そうかと思えば左ストレートを上下に突き刺して、返しの右フック、右アッパーでベルムデスを脅かした。

 右強打を当てたいという意識の強いベルムデスは力みが目立ち、打ち終わりのバランスがどうしても乱れる。するとエンリケスはそこをまた見事に突く。左構えながら奥の手をリード的に使い上下に次々とヒットさせ、返しの右フックからさらに左とつなげていく。特に左アッパーとストレートのボディカウンターが見事。力感というよりも、焦りから乱れ打ちをするベルムデス(といってもヒットはほとんどなし)の間隙を突くそれは、着実にダメージを与え、ベルムデスの腰が引け、右ブローを伸びなくさせてもいたのだった。

 互いに引いたり出たりと駆け引きを仕掛けるものの、リズムもペースも悪く、困惑しながらそれをしているベルムデスに対し、エンリケスは確固たる信念を持って、心にゆとりを持ちながら演じていた。そしてどんな場面になっても決してバランスを乱さない。それは体だけでなく心もである。

 焦りながらも気迫を出して右を繰り出していくベルムデスが、右の単打をヒットして前に出る場面もあったが、エンリケスは決して取り乱さずにロープ際で動く。そしてボディカウンターとアッパーで迎撃する。

 最終10ラウンドがクライマックスだった。ボディーブローが完全に効いたベルムデスが棒立ちとなると、エンリケスは左ストレートから右フックを追撃してダウン寸前に追い込んだ。ベルムデスは必死にしのぎ、倒れることだけは拒否。終了ゴングに辛くも逃れる形となった。

 昨年11月の前戦で、ヨカスタ・バジェ(コスタリカ)に2冠を奪われたベルムデスは、バジェの返上にともなって行われた今カードで2本のベルトを取り戻した。バジェ戦のスコアは気の毒な面もあった(私はベルムデスの勝利を支持)が、この試合は幸運だったと思う。

 対するエンリケスは21戦目での初黒星(20勝9KO1敗)となったが、素晴らしいボクシングを繰り広げた。最終回の攻撃をもっと早い段階で仕掛けていれば、はっきりとした形で決着できたかもしれない。そこが悔やまれるだろう。

《TyC Sportsライブ配信視聴》

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