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【ボクシング】試合を作り続けることの大切さ。英洸貴が無敗ホープ渡邊海を2-1で破る

☆3月19日・石川県・内灘町総合体育館
日本ユース・フェザー級タイトルマッチ8回戦
○英  洸貴(カシミ)チャンピオン、日本15位
●渡邊  海(ライオンズ)日本10位
判定2‐1(76対75、74対78、76対75)

「攻め続けた英の勝ち」。「挑戦者なんだから渡邊はもっと攻めなければ」──。古から言われ続けるこの物言いは、“もっともそう”であって、実に大雑把だと思う。英は前に出続けたから勝ったのではなく、渡邊も引きのボクシングだから負けたのでもない。常にイニシアチブを取り、展開を作り続けたのは英。そこが大きなポイントであり、分かれ道だったのだと思う。

 開始ゴングと同時に一気に攻め入った英に、渡邊はしっかりと左ジャブを合わせた。この準備はできていた。まるでラフファイターのように攻め込んでいく英に、渡邊は決して気圧されることなく右スイングには左フックを合わせた。さらには左フックから右アッパーカット、左ボディーアッパーから左フックとコンビネーションも繰り出していく。立ち遅れることなく迎え打ち、早々からタイミングを間違えていなかった。

 だが、2ラウンドに入ると英は一転して得意の左ジャブからの攻撃に変える。ジャブというよりストレートに近い打ち方でボディーを刺す。刺しながら距離を詰める。かと思えば、顔面へジャブを打つ。渡邊は英のストレートボディーに右を打ち下ろしかけたが、英はそれを悟ると、上体と足運びでフェイントを入れながら入る。そして、右のオーバーハンドを放つ。渡邊はこれをスウェーバックしてかわし、左フックから右アッパーを返すが、上体を煽られてのそれはどうしても威力を欠いてしまう。

 強引に攻める、丁寧に攻める。こうして英が仕掛けた“色違い”の2ラウンド。渡邊はいずれも一見対応してみせたものの、英がかたどったリズムに、完全に引き込まれ、飲み込まれていると見た。初回にカウンターのタイミングを計り済みという意識が強く働いていたのかもしれない。けれども、対する英もそれを織り込み済みで、そこをいかに外していくかの工夫をしていたのだ。

 カウンターを合わせる。その1点のみに執心してしまった渡邊は、自然、英の仕掛けを待つ形となる。それを分かっている英は、左ストレートボディーと顔面への左ジャブを織り交ぜながら、渡邊のリターンを引きずり出してそれをかわして右を打つなど、渡邊の心と動きをコントロールしていた。それを象徴するのが4ラウンドの右だ。テンポ良く攻めていた英が、スッと“間”を作る。渡邊も一瞬、動きを止めてしまう。そこへ英のいきなりの右だ。これを受けた渡邊は、ドタバタと後退した。追撃は巧みなステップワークでかわしたものの、英のペース、リズムであることを象徴する“間”の作り方、それを切り裂いた一撃だった。

 主導権を握り続けた英に、カウンターを狙いながらも迷いを生じさせていた渡邊は、より動きを止めてカウンターをハードヒットしようという考えに陥っていた。けれども、6ラウンド後半からふたたび上下動するポンピングを使いながら、渡邊はリズムを取り出し始める。未知のラウンドに入りながら、ラウンド中に立て直しを図れる。そこは渡邊の非凡なところ。英主導でなく、あくまでも自分のリズムで攻防を展開する。7ラウンドは、その流れに乗ってカウンターも、自ら仕掛けることもできており、それが、英の左をかわしての右ストレートでダウンを奪うことに繋がったのだった。

 この大きなアクションがラウンド終了間際だった──英にとってラッキー、渡邊にとっては不運、そう捉える者も多いだろう。しかし、これがボクシングの奥深いところ。そこまでの流れ、ペースが大きく作用しているからこそなのだ。

 最終回、ようやく渡邊は自分モードを出し始めた。しかし、英も心身ともに準備できていた。ともにクリーンヒットを与えない。私はこの回を10対10として、トータル76対76のドローとした。

 ラウンド毎の戦い方、ラウンド内の配分、そして8ラウンドトータル。その運び方は、英に一日の長があった。そして、ボクシングの作り方も。
 カウンターのタイミング、一撃の威力、キレなど、瞬間的な動作、センスでは渡邊が上だった。しかし、それらに固執しすぎず、もっと輝かせる手立てがあるはずだ。

 相手の強さをしっかりと認め、それをどう崩していくか。試合前の準備、試合中の準備と、英のたくましさ、強さを感じさせられた。そしてこの日の英のファイトプランは、渡邊にとって学ぶ点が多かったはずで、それをどう生かしていくか、それ次第での渡邊の飛躍が楽しみだ。

《YouTube『北陸朝日放送公式チャンネル』ライブ配信視聴》

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