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【ボクシング】フィリピン・セブのダブルタイトルマッチ+1試合、批評&感想


マグラモを読み切っていたアラネタの心の準備


1月26日/フィリピン・セブシティ・ヌースターリゾート&カジノ
☆IBFライトフライ級挑戦者決定戦12回戦
○クリスチャン・アラネタ(28歳、フィリピン=48.9kg)3位
●アルビン・マグラモ(27歳、フィリピン=48.9kg)8位
TKO1回1分50秒

 アップライトに構えて迎え打つアラネタと、ぐいぐいと攻め込んでいくマグラモ。対照的なサウスポー同士の一戦は、ともに鋭利な切れ味と迫力を持ちつつも、アラネタが1枚上手ぶりを発揮した。

 勢いよく左オーバーハンドを振って突っ込むマグラモの、低い位置にある顔面に左アッパーをミート。これで一瞬グラつきを見せたマグラモに、間髪入れず右から左アッパーを追撃して倒す。

 ここは立ち上がったマグラモ。「マグラモは、自分(アラネタ)が躍起になってさらに仕掛けると予想して、それを跳ね返そうと力むはず」──。アラネタは、マグラモのそんな心理も動きも完全に読み取っていたのだろう。左ストレートから右フック。まるで写し鏡のようにマグラモのコンビネーションをアラネタは完全コピーしていた。が、2発目の右フックは、予測が利いているからこそ、より鋭く内側から射抜かれて一瞬早く標的を捕らえた。

 完璧なカウンターを喰ったマグラモは、ふたたびキャンバスに沈む。立ち上がろうとしたものの、足元が定まらずレフェリーストップとなった。

 本来はジャブから丁寧にボクシングを作っていくアラネタは、マグラモが開始から仕掛けてくるだろうとすでに心の準備をしていたのだろう。勝負は開始ゴングが打ち鳴らされた時点で、ほぼカタがついていたのかもしれない。

アラネタ=26戦24勝19KO2敗
マグラモ=20戦17勝11KO2敗1分

栗原の悲壮な覚悟の中に見えた左フック勝負


☆OPBF東洋太平洋&IBFパンパシフィック・バンタム級王座決定戦12回戦
○栗原 慶太(31歳、一力=53.5kg)OPBF5位
●フローイラン・サルダール(34歳、フィリピン=53.5kg)OPBFチャンピオン
KO8回1分13秒

 開始と同時に右のフルスイングで迫った栗原。もう、この一撃に全てが表れていた。
 スタミナ配分もポイント計算も一切ない。パンチの打ち方もバランスも何もかも度外視。ただただひたすらに、目の前にいるサルダールという男をぶん殴って倒したい、ただそれだけ。
 覚悟と決意。それさえ感じ取っていさえすればよい。こちらもメモを取ることをすぐにやめた。

 被弾数は栗原のほうが多かったかもしれない。カウンターの的確性もサルダールが上回っていた。だが4ラウンド、栗原が左フックからの右でヒザを着かせると、サルダールの心は徐々に薄れていった。スタミナも切れ、後退の一途を辿るサルダールは、ほんの時折、急激に攻めてくることもしたが、栗原の押し込みが優った。最後は連打の中に差し込んだ左ボディフック。気持ちも完全に折れたサルダールは、キャンバスにしゃがみながら10カウントを聞いた。

 ボクシングというよりも“拳闘”と表現したいこの試合を技術的にどうこう言うことはさし控えたい。が、唯一言えるのは、右ストレートに抜群の威力を誇る栗原がサルダール攻略に用意していたのは左フックだったということ。気持ちだけをぶつけに行っていたように見えて、左フックだけは初回から絶妙な軌道とタイミングで弧を描いていた。サルダールに右を打つことを躊躇させるにたるものでもあった。

 豪快な右を見せての左フック、左フックを意識させての右。ハチャメチャなぶん殴り合いに見せて、そこだけはしっかりと練られ、実践できていたように思う。

栗原=27戦18勝16KO8敗1分
サルダール=43戦34勝24KO8敗1分
 

ファイタースタイルの理想を描く関根


☆スーパーライト級8回戦
○関根幸太朗(26歳、ワタナベ=63.5kg)日本2位
●アル・トヨゴン(25歳、フィリピン=63.5kg)
TKO6回2分37秒

 控室にマウスピースを忘れたのだろうか。リングに上がってから試合開始まで、長く時間がかかったが、そんなケアレスミスもご愛嬌とばかりに、関根はテクニカルなボクシングをまたしても繰り広げた。

 両腕を掲げただけのガードにとどまらない。関根はこれが傑出している。相手にぐいぐいと迫っていくファイタースタイルだが、相手の攻撃を読み取って、そのパンチを受け流す腕の使い方をする。
 グローブで弾くパリング、二の腕で流したり、ヒジをほんのわずか動かして威力を逃がし、その反動でリターンブローを放ったり、肩で顔面をカバーしながら反撃体勢を取っていたり。古い話、しかも個人的好みで恐縮だが、かつてのセーン・ソープルンチット(タイ=WBA世界フライ級チャンピオン)やジェームズ・トニー(アメリカ=IBF世界ミドル、スーパーミドル、クルーザー級チャンピオン)を想起させる。

 中・長距離ではタイムリーな左ジャブを差し込んでいき、至近距離では防御技術を駆使してリズムを作り、ショートブローで痛めつけていく。ファイタースタイルの理想的な姿だ。

 もう1点、特筆すべきことは、体を密着させた状態での顔と重心の位置だ。顔は相手の攻撃を押さえる位置に常に持っていき、前に出ている肩にウェイトが乗るように体幹をセットしている。だから決して貰わずに、体もブレず、ほんのわずかの力の入れ様で相手を簡単に押すことができる。まるでレスリング選手のような体の使い方だ。

 拓殖大学で同期、ジムの同門でもある重岡優大(WBC世界ミニマム級チャンピオン)とはボクシングの細かい技術について今でもよく話し合っているというが、さぞや有意義な時間となっていることだろう。

 相手との距離が開いている時間帯、腕のリズムは取れていたものの、体のリズムが止まり気味だったのは、敵地ということでの力みによるものか。そこだけは唯一、絶好調時の関根とは異なる点だった。

 トヨゴンの左目上を切り裂いてのTKO勝ち。負傷判定に持ち込まれるかとも思ったが、フィリピンのレフェリー、ジャッジはこの試合以外でも実に公平だった。

関根=9戦8勝7KO1分
トヨゴン=25戦14勝9KO9敗2分

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