笑って「悲しみの色を塗りつぶす」こと

自粛モードになって、人と会うことが減り、そして「笑う」ことが減った。「笑う」ことが減ったなと気づいたのは、うちの姉がスマホのアプリでわたしを動画で撮影したことがきっかけ。見せられた動画には、口元だけ少し歪めた能面のような人間がいた。そのとき、「あ、わたし笑えてない」と思った。

どうやら表情が硬いらしい、ということも最近知った。コロナが開けたらカラオケで歌いたい曲があり、それの練習をしようと、自宅アパートでひっそりと歌っていたら、どうやら高い声が出ない。どうしたら高い声が出るのか? と思いYOUTUBEで探したところ、発声方法を紹介してくれるトレーナーの先生の動画にたどり着いた。すると、「リップロール」という吐く息で唇をぶるぶる震わせる方法をしながら、音を出すと高音が出やすくなるらしいとのこと。

ところが、「リップロール」ができない。さらに調べると、どうやら唇を震わせるのに吐く息の量が足りていないという問題と、顔の筋肉が緊張している問題などがあるのだそう。ふーん、と思い、動画の先生がやっている通り、とりあえず顔を両手で抑え、顔の筋肉を緩ませ(?)ながら「リップロール」をしてみた。そしたら、できたのだ。ということは、やはり表情筋が硬いということではないか? 

そこからわたしは、「高音を出すこと」から脱線し、どうしたら「表情筋を鍛え」「いつも笑顔になる」ことができるのだろう? と暇にまかせてリサーチをかけていった。そして、ある瞬間ひらめく。「恋する女子はきれいになる」という説があるが、あれは、好きな人(あるいはかっこいい人)を見ると自然に笑顔になるから、表情筋が鍛えられ、小顔になり顔の造作が整うからなのではないか? かなりの飛躍だが、わたしなりに「あるかも」と思った仮説だった。

それでリサーチをかけても、それらしい情報は見つからず、代わりに「イケメンを見ると、女性は野菜をとりたくなるらしい」という研究結果がヒットした。風が吹けば桶屋が儲かるみたいな話だけど、「イケメンを見る→野菜が食べたくなる→野菜をとった結果腸内環境が整う→肌がきれいになる→女性はきれいになる」という考察があるらしいとのこと。そのことにまた注意が逸れてしまいそうになったが、そこで留め、また「笑顔」「笑う」でリサーチをかけていった。

すると、連想で「よく笑う人の過去」みたいな文がヒットした。よく笑う人の過去? 気になりさらに探ると、どうやらなかには、「ふだんよく笑う人」を深読みし、過去に悲しい体験をしたからよく笑うのではないか? と感じている人がいるらしい。これには、ちょっと考えさせられた。

わたし自身、よく笑う人を深読みしたことはあまりない。たぶん、その人たちの笑顔はわたしにとって自然体だったからだろう。もちろん、その人たちだって、悲しい経験やつらい経験を経てきたわけで、笑いながら心の底には別の感情を抱えていることだってある。ネットの情報によると、「愛想笑い」は見抜きやすいらしいのだが、子どもの頃から笑ってやり過ごしてきた、訓練されてきた人の「嘘の笑い」を見抜くことなんて、そんなに簡単なものなのだろうか。

自分自身を振り返ってみても、よく「しんどい」体験を笑って話してしまうということがある。その理由は、つらいトーンで話すと、相手も人間だから感情が伝わったり不快にさせたり、どう声をかけてあげたらいいのか悩ませてしまうことになるのが嫌だから。だから、深く考えたら「しんどい」状況だけど、どこか笑いどころを用意して、話してしまう。結果、「大丈夫そう」と思われてしまうこともあるのが、厄介なのだけど。

それと、友だちのいた時代(笑)に、よくLINEのメッセージのやりとりで語尾に「笑」をつけずにはいられなかったことも思い出す。あれは、とりあえず「笑」をつけとけば、深刻に捉えられないだろう、そもそも語尾に「笑」をつけるようなテキトーなキャラだし、と思い、無駄に「笑」を連発していた。

よく笑う人の心理をリサーチして興味深かったもののひとつが、「距離をとりたいから」というもの。笑う、というのは、深刻に相手と向き合うのを避ける方法のひとつでもあるな、と思った。たとえば、友だち以上恋人未満の相手に「俺のことどう思っているの?」と真顔で聞かれて、このちょうど良い距離を失いたくないから笑って答えをはぐらかす、ということも考えられる(たとえが良くない

わたしも、人と会わない現在は笑うことは少なくなったが、人と相対しているときは、なんでもないときに笑ってしまうことが多かった。笑うことで、逃げていたのかもしれない。本音を知りたがる人たちから。本音で語りたがる人たちから。

「つらいときでも笑顔でいられる」は強さなのかもしれない。「深刻なときに笑顔でごまかす」のは弱さなのかもしれない。どちらでも、その人の笑顔の奥を、ほんとうに知ることはなかなか難しいと思う。

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