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「情報・知識・知恵」


Covid-19のパンデミックは、大規模な疫病対策という課題とは別に、現代の私たちにもう一つの大きな課題を意識させています。
それは情報と知識、そして知恵の違いは何か、という点です。

インターネットにより、私達は膨大な情報にアクセス出来ます。何か分からなければ、Google検索で瞬時に調べられますし、YouTubeをはじめ膨大なコンテンツを通じて、あらゆる分野について極めて専門的な内容まで知ることが可能です。Covid-19については、政府機関による発表、専門家の見解、診断・治療・感染情報から、様々な基礎研究・実験果、予防・診断・治療に関する学術論文、治験データ、ワクチンに関する研究・効能評価・副反応情報etcと、世界中のどんな情報でも入手することが出来ます。

そう、あらゆる情報は入手可能です。
問題は、はたしてそれは正しい情報なのかどうか。
単なる噂、誤解、嘘の情報、間違った情報、偏った情報、客観的なデータではなく主観的な意見等、ありとあらゆる情報が等しく溢れているため、その情報をどの様に評価するかは、読み手自身の判断に委ねられています。

Covid-19のパンデミックは、人類にとって初めての体験であり、

専門家にとっても未知の領域で研究途上にあるため、その病理学的な解析、予防・治療方法、疫病対策、ワクチンに関する情報は錯綜し続けています。科学的な研究分析に最終的(確定的)な結論は出ていない状態にあり、専門家や政府機関ですら確実な見解を出せず再三訂正・修正を迫られていることから、何が確実な正解なのかが未だに不明(不確実)な状態です。このため、ネット上に多数飛び交う主観に基づく主張や偏見、意図的な嘘の情報と、客観的なデータや学術的に検証を経た解析結果の双方がない混ぜとなって流布されているため、情報の受け手側ではどれが正確な情報かが分かりづらく、世界中の各地で混乱が生じています。
これは単にCovid-19の問題だけでなく、未知で正解のない危機を前にした時、社会はどの様な事態に直面するのかを、私たちは今、実際に目の前にある危機として体験している訳です。

次の問題は、得られた情報は一体何を意味しているのか、という点です。
情報を知ることと内容を理解することは別です。文字・文章・数字という記号としての情報から、それが伝えようとする意味・内容の本質を理解するためには、読み手がその分野・対象に関する基本的な前提条件・基礎情報・要素間の関係・構造についての情報を有し、理解する能力が求められます。従い、単に検索により情報を得ることと、その内容を理解することは同一ではありません。

例えば、最新の第四世代戦闘機であるF-35。誰でもネットから膨大な情報を得ることが可能です。しかしながら、それら情報の多くは断片的であり、かつ玉石混交で、しっかりと体系化された知識として解説されたものは極めて稀です。これと似た状況は、Covid-19のケースでも多く見られます。
F-35とはどのような戦闘機で、どのような意味(価値)があるかを理解しようとすれば、航空技術・軍事(兵器)技術の基礎知識とその最先端技術・今後の方向性、現代の軍事における戦闘機の役割、どの様な環境・状況・脅威が前提とされ、どの様な能力・対抗力・運用能力が求められるのか、さらにはマクロ的な現在の国際関係情勢の視点からの分析も含めた情報を集約・統合することが求められます。ある戦闘機の本当の意味を理解するためには、得やすい断片的な情報だけでなく、膨大な関連情報の組み立てと、各要素の意味を理解した上での俯瞰的な視点を持つことが必要です。

この様に、様々な情報を体系化して繋ぎ合わせ、それぞれの意味と関係性、全体像を把握した上で理解されたものが知識です。
残念ながら、いくらキーワードだけで検索して情報を集め、それら全てを丸暗記しても、それだけでは知識とはなりません。知識は非常に複雑な情報の構造体です。知識を詳述しようとすれば、関係する情報を丁寧に集約・整理し、その全体像の構造を体系化して記述する必要があるため、その情報量は膨大なものとなります。様々な分野における傑出した解説書・理論書の多くが非常に分厚く、また膨大な引用リストを有している理由はここにあります。

しかしながら、知識は決して万能ではありません。
数多くの書物から得た知識は、現実の世界に対峙する際に優れた参考となりますが、魔法の杖や呪文にはなり得ません。不確実性に満ちた現実世界には、完璧に同一の状況・環境というものは存在せず、また、一刻も留まることなく変化し続けています。さらに、知識の中では省略・要約されている無数の要素・前提条件が現実の世界では存在し、それが相互に変化・影響し合うため、必ずしも知識通りには現実世界は動きません。

そして、知識は固定化された情報で構築され、また一方向の情報であるため(読み手や状況により知識そのものは変化しません)、その知識を利用した際、現実世界でどの様な変化や反応が生じるかのフィードバックを、知識そのものから得ることが出来ません。

知識と現実の乖離を埋めるためには、実際に現実に対峙してその知識を活用し、そのフィードバックを直接体験することが必要です。現実の経験を通して自らの感性を深め、知識の理解の幅を広げてゆくことで、知識は生きた知恵として身についてゆきます。
知識と経験が掛け合わされて得られるもの。それが知恵です。

ITにより膨大な情報が得られる現代、その情報から意味を読み解き全体像を理解する知識と、それを現実に活かしてゆく知恵の重要性は、増すことこそあれ、失われることは決してありません。AI技術がいかに発達し、ITがいかに全情報を可視化しようとも、この世界を理解し、新たな課題を探究して解決し、より良い未来を創造してゆくには、知識と知恵は決して欠かせないものです。

知識と知恵。それはいずれも能動的な意識と思考、そして行動と体験から得られます。
自ら考え行動し、新たな体験から学ぶ力。それは未知の世界に積極的に挑む精神、Entreprenerushipの基礎となる重要な力です。
無限とも思える情報に囲まれ、未知なる事象に溢れたIT化された現代、現実と向き合い未来を創造するために最も大切な要諦はここにあると信じています。

著者の紹介:山下哲也(BizWorld Japanアドバイザー)
NEC・Motorolaにて携帯電話のシステム開発・国際標準化に従事、NTTドコモではスマートフォン戦略担当として新規事業開発・スマートフォン導入にあたるなど、20年以上モバイルIT分野を歩み、2012年に独立、Accelelator等のスタートアップ支援事業の開発・運営、Entrepreneurship学習プログラム開発を行う山下計画株式会社を設立。2016年より開始されたAccelerator 「500KOBE」の企画・運営、岡山大にて2019年に開講されたEntrepreneurship育成プログラム「SiEED」を設計・運営し、現在兵庫県・神戸市・UNOPS S3i共催の起業支援プログラム「SDGs CHALLENGE」の統括コーディネーターを務める。
2007年 マサチューセッツ工科大学 Sloan FellowsにてMBAを取得。
Twitter : @tetsu_yamashita
Facebook : https://www.facebook.com/tetsuya.yamashita.90

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