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五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後 (集英社文庫) 文庫 – 2017/11/17

戦前~戦中の話で、日本の傀儡として満州国が建国されたことは十分に知られていますが、その満州国に、ある特殊な教育機関が設置されていたという史実はどれだけ語られてきたでしょうか。私はまったく無知でした。多様性とか、組織開発とか、もう少し広げれば企業文化融合(PMI的な)といった常日頃の関心テーマに、ひょんなことから「五族協和」というキーワードが引っかかって手に取った本書ですが、内容は驚くべきもので、あんな時代によく実現させたものだと、その斬新性に一気に引き込まれました。

日本、朝鮮、中国、モンゴル、ロシアの各国から若きエリートたちが集められ、共に切磋琢磨しながら国家運営について学んだという話です。言語も、宗教も、民族も、文化背景も異なる若者たちが、寝食を共にしながら毎日毎晩、理想を語り合いながら学びました。そのような環境で数年間過ごした若い知性にはどんな変化がもたらされたのか、想像するだけでワクワクしませんか?

D&I関連ワードが頻繁に飛び交う昨今ですが、すでに100年近くも前に、思想的にはまるで対極にありそうな当時の日本が主導してこうした挑戦をしていたことに興奮を覚えました。もちろん背景には善良で純粋な志ばかりでなかったことは言うまでもありません。結局は侵略戦争中の日本による強引な政策だったに過ぎないということもできるでしょう。しかし、それが悲惨な失敗であったとしも、今こうして史実が掘り起こされ、現代の私たちが追想することで、思いのほか学べることは多いのではないかと感じました。

戦争が終わり、それぞれ祖国へと戻っていった彼らですが、こんどは母国で帝国主義に加担した者というレッテルを貼られて弾圧を受けることになります。一方で、一度は離れ離れになった彼らが、国境を越えて友情を育み続けたという記録もあるようです。そこに、単に懐古的な感慨ではなく、未来に向けて差し込む光ようなものを感じることができました。

(おわり)


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