「おネエことば」論 単行本 – 2013/12/20
「Aさんて、会議でときどきオ●マっぽい話し方になるよね」と誰かが言い出しました。言われてみればそんな気もするなぁ…。普段の会話ではまったくそんな雰囲気ないけど、なんでだろう? 気になったので、Aさんが参加している会議の場面をいくつかふり返ってみました。すると、どうやら議論が白熱したときのAさんの様子が、その記憶とつながっていることに気づきました。
Aさんは、言うべきことをわりとハッキリ言うタイプで、論点が曖昧なまま会議が進んでいこうとしたり、安易な結論に流されそうになったりすると、しっかり意見を差し込んでくれて頼もしい印象があります。Aさんによる介入のおかげで議論が活性化することもあり、また、よりよい方向に展開することもしばしばです。もちろん白熱し過ぎるときもあるのですが…。
「ちょっと、このままだと嫌な予感するのよねぇ」
「ホントにその判断でいいのかしら?」
「はっきり言うわよ、いい?」
あ、そうか、そんなときにAさんの放つフレーズが“おネエ”になっていることに思い当たりました。文字だと伝わりづらいですが、ビジュアル的には完全に男性であるAさん(中身も男性です)。彼が身を乗り出して、悩ましい声で話に割って入ってくるイメージ。内容的には厳しい指摘だったり反対意見だっだりすので、ストレートに投げ込んだらピリッとかなり緊張するようなシーンです。それがなぜか、会議参加者に「まぁ、確かに一理あるよなぁ」と思わせる“何か”があるわけです。
昔で言えばおすぎとピーコだし、最近で言えばマツコ・デラックスさんでしょうか? 確かに、言っていることはかなりキツい内容にもかかわらず、なんとなく角が立たずに受け止めることができてしまいます。他のタレントがそのまま言ったら問題になりそうなことも言ってのけられる力が、話し方に備わっているようです。
今回取り上げた書籍は、タイトルの通り“おネエことば”がテーマです。著者は、オーストラリアの言語学者で、日本語やジェンダー研究がご専門。いつの間にか広くメディアで耳にするようになった“おネエことば”が、いったいいつから浸透してきたのか、その影響力はいかなるものか、そして、そもそも“おネエことば”とな何なのかなどについて論じています。日本語は、著者の母語である英語に比べると、男女で使う言葉にかなり差がある言語です。われわれ日本語話者には気づきづらい視点から研究されていること自体が興味深かったです。
話すという行為自体でジェンダーや階層を表現せざるを得ないという日本語の特性は、普段あまり意識されることはないと思います。一方で、日本の伝統的な企業では、「何を言うか」より、「誰が言うか」が重視されるカルチャーがまだ根強いとも言われています。「ヒラ社員の分際で」とか「上司に向かってその口のきき方はなんだ?」などとはさすがに最近は耳にしませんが、聞かなくなったからと言って意識から完全に消滅したわけでもないでしょう。また、これを性差にに当てはめれば、「男らに何がわかるの?」とか「女たちに言われたくない」といった感情も、口にこそ出しづらくなりましたが、正直まだ意識の裏側に残っているのではないでしょうか。
そこで、「じゃぁ、男でも女でも、どっちでもなかったらどう?」
いわば境界を越えたところからの一声は、積年のしがらみを一気に断ち切って、新しいパワーを与えてくれるのかもしれません。私自身、この本をキッカケに、ときどき試してみて、その効果を実感し始めていることを告白しておきましょう。そんなことしたら、本物の“おネエ”の方々に叱られちゃうかしら?!
(おわり)
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