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ドラッカーと利益の話をしよう

「非営利組織」の「営利」ということを考えている中、ドラッカーの『すでに起こった未来』の中に「利益の幻想」という章があることに気づきました。

初出は「ウォールストリート・ジャーナル」紙という新聞に掲載されたものらしく、1975年のことらしい。この文章、なんとなく言っていることはわかるけど、よくわからない、ということで、困っていたら、『ドラッカーと会計の話をしよう』という小説があることを知りました。著者は林あつむさんで公認会計士の方らしいです。

小説は読むのが大変だな、と思ったら漫画版があるということなので、手にとったらすぐに読めてしまった。面白かったです。

ただ、わかりやすくて面白いんだけれども、これは経理とか会計の知識があるとか、実務でお店などをやっているとかじゃないとわからないこともあるなぁ、と思って、その辺のことがわからない人でも、何を言っているかがわかるように解説してみたいと思いました。

ストーリーは解説しないので、気になる方は原本をご覧ください。この文章では、この本(漫画版)に出てくる、ドラッカーの言葉を中心に紹介していきます。

最初に出てくるのがこの言葉群。

例えば、事業の目標として利益を強調することは、事業の存続を危うくするところまでマネジメントを誤らせる。今日の利益のために明日を犠牲にする。(『現代の経営 [上]』)

投資家のウォーレン・バフェットは、会社の内容を知りたいときには、証券アナリストには聞かないといっていた。彼らは利益を問題にする。利益が問題なのではない。バフェットは銀行のローン・アナリストに聞くという。キャッシュフローを問題にするからである。(『ネクスト・ソサエティ』)

一般の人の無知を訴える企業人自身が、同じ無知という罪を犯している。彼ら自身、利益や利益率について初歩的なことを知らない。(中略)利益に関する最も基本的な事実は、「そのようなものは存在しない」ということだからである。存在するのは、コストだけなのである。(『すでに起こった未来』)

ここで「キャッシュフロー」「利益率」とかいう言葉でうげっとなった方、心配は不要です。だってドラッカーは、「利益は存在しない」って言っているんですから、「利益率」とかいうファンタジーについても知らなくてOK。「キャッシュフロー」についても、会計上の利益と比較するために出てきた言葉なので、これも無視しておけ。

ここで言いたいことは、これだけ。

存在するのは、コストだけなのである。

以上。

そっからの引用は企業の決算の粉飾とか事業年度とか、会計大好きな人しかあまり重要でない話なので省略しますが、次の引用はこちら。

収益性の測定値は、その有する諸資源の利益創出の能力を示すものでなければならない。(中略)それはある一定期間の利益を測るものであってもならない。永続的事業体としての企業の収益性に焦点を当てなければならない。(『未来企業』)

難しいw
これも「~ではない」というところは否定しているだけなので無視したとして、残った部分をくっつけると、

収益性の測定値は、その有する諸資源の利益創出の能力を示す
永続的事業体としての企業の収益性に焦点

となります。かみ砕いて関西風に言うと、こんな感じ。

実際、その企業(事業)、今後も儲かりまっか?

どうでもいいですが、ドラッカーの本のタイトルって日本語版だとかなり帰られていて、それで引用部分のニュアンスが変わってしまう気がします。この『未来企業』の原題は、Management for Future 、つまりは、未来のための経営、ということで、いわゆる企業の決算が過去の成績表だとすると、それは別に未来の企業の存続のためにあるわけじゃないよね、事業を継続させたい、生き延びたいと思うのなら、そんなものに捉われても仕方なくね?という意図だとわかります。

で、物語はこっから主人公の具体的な話になるんですが、ドラッカーのすごいところって、抽象的な話をしたかと思うと、めちゃ具体的な現場の話もできるところです。

社会現象においては、一方の極の10%からせいぜい20%というごく少数のトップの事象が成果の90%を占め、残りの大多数の事象は成果の10%を占めるにすぎない。(中略)製品ラインの中の数百品目のうちごく少数の品目によって、売上げの大半が占められる。(『創造する経営者』)

いろいろなことをやったり、いろいろなものを扱っていても、儲けの9割に貢献しているのはそのうちの1割じゃない?という話。

その上で、ドラッカーは、製品を11種類に分類している、という話が出てきます。

①今日の主力製品
②明日の主力製品
③生産的特殊製品
④開発製品
⑤失敗製品
⑥昨日の主力製品
⑦手直し用製品
⑧仮の特殊製品
⑨非生産的特殊製品
⑩独善的製品
⑪シンデレラ製品あるいは睡眠製品

(『創造する経営者』)

いや、多いてw 続いて次の引用。

製品の性格の変化、特に衰退に向かっての変化を把握しなければならない。明日の主力製品への変化、さらには、昨日の主力製品への変化をいかに知るか。「開発製品の独善的製品への変化をいかに知るか」が問題である。(『創造する経営者』)

独善的製品、というのがわかりにくいので、こちらは元の本から説明を引用しておきます。

これは当然成功すべきであったにもかかわらず、まだ成功していない製品である。しかもすでにあまりに多額の投資をしてきたために、マネジメントが現実を直視できなくなっている製品である。明日には成功すると信じている。しかし、その期日は決して来ない。そして、期待に応えてくれなければくれないほど、さらに資源を注ぎ込むことになる。(『創造する経営者』)

なんか、これ、コーチングとかの資格ビジネスの儲けの構造も思い浮かんでしまいますねー。資格を取って、ブランディングについて学んで、マーケティングについて学んで、セールスについて学んで、、、、あれ?いつ儲かるようになるんだっけ?という奴。ギャンブルの構造にも似てますね。(この辺の沼からの脱出方法については、別途、記事化する予定です。)

まあ、ここで言いたいのは、

製品の性格の変化を把握しろ

って話です。もっと言うと、

儲からなくなってきたら気づいてね

ということですね。この「製品」の日本語訳の元はおそらく product かと思いますので、別にサービスでも同じ意味です。戦後の日本企業は特に大手メーカーを中心に、軒並み、このトラップにひっかかっているのですが、これもまた別の話。

続きです。では、儲かる企業・事業にするためには、何に気をつければいいのか。最重要ポイントです。

およそ企業の内部には、プロフィットセンターはない。内部にあるのはコストセンターである。技術、販売。生産、経理のいずれも、活動があってコストを発生させることだけは確実である。しかし成果に貢献するかはわからない(『創造する経営者』)

これも前提知識がない方は、否定語表現は全く無視していいのですが、要するに、

企業の内部には、コストを発生させるものしかない

と言っています。もう少しこの話は続きます。

プロフィットは外からしかやってこない。顧客が注文をくれ、支払いの小切手が不渡りにならなかったとき、ようやくプロフィットセンターをもてたといえる。それまではコストセンターを手にしているにすぎない(『創造する経営者』)

これも難しいw
簡単かつシンプルに言えば、

プロフィット(儲け)は外からしかやってこない

ドラッカーは多分、直接的には言っていないと思うのですが、この本の中では、利益と儲けという言葉で、これは違うものなのだ、という話の展開で進めています。

この話、わかっているようで、なかなかわかっていないという話で、ついつい勘違いしてしまいそうな話。

例えば、会社の例で、営業部の人が「俺たちは稼いでいる」とか、製造部門の人たちが「俺たちが価値を生み出しているんだ」とか言ってマウント取る、なんて話がよく聞かれますが、これって無意味だよね、とドラッカーさんは言っています。

皆さんが単に働いているだけでは、あなた方は単なるコスト。お客さんが商品なりサービスなり製品なりを購入してくれたときに初めて、儲けが生まれてくるわけです。

そしてコストの中にも、10%からもたらされるのに対し、コストの90%は業績を生まない90%から発生する。業績とコストとは関係がない。(中略)第二に、資源と活動のほとんど貢献にほとんど貢献しない90%の作業に使われる(『創造する経営者』)

これ、すごいことを、さらっと言っています。

経理の帳簿や経営者の頭の中では、利益やコストは循環してるが、現実は違う。確かに、利益はコストを賄う。しかし、利益を生み出す活動に意識的に力を入れないならば、コストは何も生まない活動、更には多忙な活動、単に多忙な活動に向かっていく(『創造する経営者』)

ここいらで一度、まとめると、こういうことです。

・製品についても、活動についても、10%のインプットから90%のアウトプットが生まれる。
・言い方を変えれば、90%の活動は10%しか生んでいない。
・だから、意識して利益を生み出す活動に絞っていかないと、コストばかり生み出す活動にフォーカスしてしまいがちである。

よく、何かビジネスがうまくいっていないときに、手を広げようとしたり、活動を増やしたりという方向で物事を考えようとするケースがありますが、これは発想が間違っているわけです。

企業でも個人でも同じですが、自分が出来ることを増やす、というのは、コストを増やすという結果しか生みません。なぜなら、「企業の内部には、コストを発生させるものしかない」からです。

増やすよりは減らす。もっと正確に言えば、絞る。

利益を生み出す活動とは何か、ということを見極め、活動をそこにフォーカスする。

ともすると、この発想は事業縮小の方向のようにも見えますが、そうではない。というのが、先に挙げた製品の性格の変化を把握しろという話。

儲からなくなってきたものは、もう、どうやったって儲からないんだから、そこに注力するのを辞める。

極端なことを言えば「今日の主力製品」は「昨日の主力製品」になってしまうのです。なので、今日のうちに「明日の主力製品」を発見し、育てておく。

そのために必要なものが製品の開発ですし、そのための研究や実験なのです。で、前に出てきた話ですが、その「開発製品」が「独善的製品」にならないように気を付ける。

で、この後、物語は良くないコストカットの話になるのですが、そこはメインではないので省略します。この言葉だけ、引用しておきましょうか。

目標の達成に関しては、目先すなわちニ、三年先と、その先の将来すなわち五年以上先との間のバランスを考える必要がある。このバランスは管理可能な支出についての予算によって実現される。近い将来と遠い将来のバランスに影響を及ぼす意思決定は、すべて管理可能な支出についての決定によって行かなければならない(『創造する経営者』)

これを見て思ったのは、経営とかマネジメントというのは、今の目の前の仕事について、あるいは過去の業績や成績がどうのこうの、ということに目を向けることではない、ということです。

常に現在の顧客の声を聴きながら、未来の姿を常に見続けて、作業を増やすのではなく、何が利益を生み出す活動につながるのかを考えて、やらないことはやらない。

こういうことが大事なんだなーと思ったのでした。

そして、それを妨げているのが数字上の「利益」という概念である、と。

最初の言葉に戻ります。

例えば、事業の目標として利益を強調することは、事業の存続を危うくするところまでマネジメントを誤らせる。今日の利益のために明日を犠牲にする。(『現代の経営 [上]』)

要するに、注目しなければならないのは、

今日の利益よりも明日の儲け

そういえば、SNSで、韓国の半導体メーカーが巨額の赤字になったことを受け、ただ、研究開発費は日本企業と違って売上変動せずに計画通りに投資し続ける、という専門家のコメントがあがっていました。

現在の会計上の利益に変動させて明日への投資額を決めている日本のメーカーには、ちょっと勝てる未来が想像できないですね。

現場からは以上です。

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