非営利組織の経営の本質④:マーケティングって何?
2024年01月25日のリリースで、公益財団法人日本マーケティング協会が、34年振りにマーケティングの定義を見直した、とありました。
リリース本文はこちら
とりあえず引用してみましょう。
では、34年前はどうだったのか、というと、こちらも記載がありましたので引用しておきましょう。
この変更の背景と言いますか、思想的な影響を与えているのは、やはり生けるマーケティングのグル、フィリップ・コトラーさんではないかと思います。
コトラーさんは昔からずっとマーケティングの研究をされている方で、自分もその著作でずいぶん勉強させていただきました。恩蔵直人先生はその翻訳に長年、携わっていらっしゃいますので、その影響を受けているのは間違いないでしょう。
そのコトラーさん、2010年に『マーケティング3.0』という著書を出されて以来、4.0 、5.0、6.0と著作を重ねられていますが、もうこうなると海外ドラマの人気シリーズのシーズンnと変わりませんので、いかに、3.0が衝撃をもって迎えられたかがよくわかります。
その『マーケティング3.0』では、これまでのマーケティングを1.0、2.0という段階を追って説明してくれています。
めちゃめちゃ簡単にまとめると、
マーケティング1.0「製品志向」(1900~1960年代)
マーケティング2.0「顧客志向」(1970〜1980年代)
マーケティング3.0「人間志向」(1990〜2000年代)
ということのようです。
一応、書籍に載っている図を置いておきます。気になる人は是非、本を買ってみてください。
ちなみにその後、4.0では「自己実現」をキーワードにSNSなどについて扱い、5.0でAI、6.0でVR的な話になってくるようですが、ちょっとテクノロジー=手段の話に寄っていくので、この記事では省略します。
マーケティング1.0の製品志向、つまりはプロダクトアウトの時代は、良いものを作れば売れる時代。モノが無かった時代ですねー。
マーケティング2.0は製品が機能を満たしているだけではダメで、顧客の感じる価値を提供しないと、という時代。日本のあちこちで、まだこのレベルのマーケティングを感じることがあります。
次のマーケティング3.0では、顧客を消費者として見ないのです。コトラーが挙げている有名な例は、1983 年にアメリカン・エキスプレスが行った「自由の女神の修復キャンペーン」です。
このキャンペーンでは、アメリカン・エキスプレスはクレジットカードを 1 回利用するごとに 1 セント、同カードを新規発行するごとに 1 ドルを寄付するとし、最終的に170 万ドルの寄付を行い、カード利用率も前年比 28%増、新規カード発行も前年比増加を果たし、キャンペーンとしての成功を収めた、という話。
ちょっと解説をしておきますと、自由の女神はフランスで作られ、アメリカの建国100周年記念でプレゼントされたもの。
その自由の女神ネタでいえば、実は、その建設の時から同じようなキャンペーンがあったことは、なぜか語られていませんが、こういうことがあったようです。
ということで、どうも自由の女神と寄付とキャンペーン(マーケティング)というのはセットのようですね。
他にもこの本では、コカ・コーラがペプシに市場を取られそうになったので、味をペプシに似せてリニューアルしようとしたら、消費者から俺たちのコカ・コーラの味を勝手に変えるな、とクレームが殺到、仕方がないので、前のレシピのものをクラシック、と表記して再版したという話も出てきます。この話、私は大好きです。ご興味ある方は、Wikipediaで詳しく載っていましたので、御参考までに。
さて、話を戻しますが、一企業や組織が生産したり提供したりしているサービスが「俺たちの○○」になるってことは、それ自身、マーケティングの成功なわけです。
そしてそのためには、寄付者や消費者を対峙する相手として見るのではなく、仲間や同士として見る必要があります。これが、マーケティング3.0の「人間志向」という言葉で表現されています。
そのように、マーケティングを広い意味で捉えたとき、2024年の日本マーケティング協会のマーケティングの定義の補足に、「注 1)主体は企業のみならず、個人や非営利組織等がなり得る。」と書かれている意味が理解できてきます。
英語の定義のポイントのところを見てみましょう。
Marketing is processes, strategies, and activities
まず、マーケティングはプロセスであり戦略であり活動である、と。
aimed at
その目的は、
co-creating value with customers and society
顧客や社会と一緒に価値を生み出していくことにある。
日本語は1文になっていますが、英語は2文になっています。1文目がまさに定義で、2文目はその成果・結果を表しています。
Its overarching objective
その包括的な目標は、
to advance a more prosperous and sustainable societal paradigm
より豊かで持続可能な社会的パラダイムを促進することである。
マーケティングという言葉を聴いたとき、それがどんなものかを想像するのは、その人が前提としている知識の中で、マーケティングがどんなものかという概念が、いつの時代のものかに依拠しています。
どうでしょうか。今でもソーシャルセクターや医療や教育、あるいはガバメントセクターの方に、マーケティングの考え方が重要だ、と言っても、うちは関係ない、と言う方も多いような印象です。
しかし、少なくとも2024年時点でのマーケティングの定義では、ここから外れて営利であれ非営利であれ、うまくいくようには思えません。
非営利組織にもマーケティングが必要だ、と考える考え方の背景には、こういう思想的な変化があることを、抑えておきたいものです。
現場からは以上です。
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