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非営利組織の経営の本質④:マーケティングって何?

2024年01月25日のリリースで、公益財団法人日本マーケティング協会が、34年振りにマーケティングの定義を見直した、とありました。

リリース本文はこちら

とりあえず引用してみましょう。

■マーケティングの定義(2024年制定)

(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである。
注 1)主体は企業のみならず、個人や非営利組織等がなり得る。
注 2)関係性の醸成には、新たな価値創造のプロセスも含まれている。
注 3) 構想にはイニシアティブがイメージされており、戦略・仕組み・活動を含んでいる。

<英訳>
Marketing is processes, strategies, and activities aimed at co-creating value with customers and society while fostering relationships with stakeholders through the extensive dissemination of this value. Its overarching objective is to advance a more prosperous and sustainable societal paradigm.

Note 1: The subjects of this definition encompass corporations, individuals, non-profit organizations, and other stakeholders.
Note 2: The term 'fostering relationships' implies the process of generating new value.

公益財団法人日本マーケティング協会

では、34年前はどうだったのか、というと、こちらも記載がありましたので引用しておきましょう。

■1990年に制定されたマーケティングの定義

マーケティングとは、企業および他の組織1)がグローバルな視野2)に立ち、顧客3)との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動4)である。
1)教育・医療・行政などの機関、団体などを含む。
2)国内外の社会、文化、自然環境の重視。
3)一般消費者、取引先、関係する機関・個人、および地域住民を含む。
4)組織の内外に向けて統合・調整されたリサーチ・製品・価格・プロモーション・流通、および顧客・環境関係などに係わる諸活動をいう。

公益財団法人日本マーケティング協会

この変更の背景と言いますか、思想的な影響を与えているのは、やはり生けるマーケティングのグル、フィリップ・コトラーさんではないかと思います。

コトラーさんは昔からずっとマーケティングの研究をされている方で、自分もその著作でずいぶん勉強させていただきました。恩蔵直人先生はその翻訳に長年、携わっていらっしゃいますので、その影響を受けているのは間違いないでしょう。

そのコトラーさん、2010年に『マーケティング3.0』という著書を出されて以来、4.0 、5.0、6.0と著作を重ねられていますが、もうこうなると海外ドラマの人気シリーズのシーズンnと変わりませんので、いかに、3.0が衝撃をもって迎えられたかがよくわかります。

その『マーケティング3.0』では、これまでのマーケティングを1.0、2.0という段階を追って説明してくれています。

めちゃめちゃ簡単にまとめると、

マーケティング1.0「製品志向」(1900~1960年代)
マーケティング2.0「顧客志向」(1970〜1980年代)
マーケティング3.0「人間志向」(1990〜2000年代)

ということのようです。

一応、書籍に載っている図を置いておきます。気になる人は是非、本を買ってみてください。

『コトラーのマーケティング3.0』P.19より

ちなみにその後、4.0では「自己実現」をキーワードにSNSなどについて扱い、5.0でAI、6.0でVR的な話になってくるようですが、ちょっとテクノロジー=手段の話に寄っていくので、この記事では省略します。

マーケティング1.0の製品志向、つまりはプロダクトアウトの時代は、良いものを作れば売れる時代。モノが無かった時代ですねー。

マーケティング2.0は製品が機能を満たしているだけではダメで、顧客の感じる価値を提供しないと、という時代。日本のあちこちで、まだこのレベルのマーケティングを感じることがあります。

次のマーケティング3.0では、顧客を消費者として見ないのです。コトラーが挙げている有名な例は、1983 年にアメリカン・エキスプレスが行った「自由の女神の修復キャンペーン」です。

このキャンペーンでは、アメリカン・エキスプレスはクレジットカードを 1 回利用するごとに 1 セント、同カードを新規発行するごとに 1 ドルを寄付するとし、最終的に170 万ドルの寄付を行い、カード利用率も前年比 28%増、新規カード発行も前年比増加を果たし、キャンペーンとしての成功を収めた、という話。

ちょっと解説をしておきますと、自由の女神はフランスで作られ、アメリカの建国100周年記念でプレゼントされたもの。

その自由の女神ネタでいえば、実は、その建設の時から同じようなキャンペーンがあったことは、なぜか語られていませんが、こういうことがあったようです。

アメリカ側は,女神を据える台座のみを負担すればよかったのですが,1883年の時点で,半分ほどの基金しか集まっていませんでした。これに着目した「ワールド」紙の社主を務めていたジョセフ・ピューリッツアは,新聞の売上部数の増加を狙い,台座基金の呼びかけのキャンペーンを張ったのです。

「フランスが友好の証として女神を贈ってくれるのに,アメリカはその台座さえも用意できないのか」

ワールド紙は,連日,基金の集まり具合を記事にしました。後半からは,一般大衆の草の根の募金にもキャンペーン対象を広げ,これが功を奏し,5ヶ月後に,目標の金額に到達することができたのでした。なお,ジャーナリストに贈られる最も権威ある「ピューリッツァ賞」は,もちろん彼の名を冠して作られたものです。

自由の女神の歴史
http://timecapsuletravel.web.fc2.com/Newyork/StatueofLiberty.htm

ということで、どうも自由の女神と寄付とキャンペーン(マーケティング)というのはセットのようですね。

他にもこの本では、コカ・コーラがペプシに市場を取られそうになったので、味をペプシに似せてリニューアルしようとしたら、消費者から俺たちのコカ・コーラの味を勝手に変えるな、とクレームが殺到、仕方がないので、前のレシピのものをクラシック、と表記して再版したという話も出てきます。この話、私は大好きです。ご興味ある方は、Wikipediaで詳しく載っていましたので、御参考までに。

カンザス計画

さて、話を戻しますが、一企業や組織が生産したり提供したりしているサービスが「俺たちの○○」になるってことは、それ自身、マーケティングの成功なわけです。

そしてそのためには、寄付者や消費者を対峙する相手として見るのではなく、仲間や同士として見る必要があります。これが、マーケティング3.0の「人間志向」という言葉で表現されています。

そのように、マーケティングを広い意味で捉えたとき、2024年の日本マーケティング協会のマーケティングの定義の補足に、「注 1)主体は企業のみならず、個人や非営利組織等がなり得る。」と書かれている意味が理解できてきます。

英語の定義のポイントのところを見てみましょう。

Marketing is processes, strategies, and activities

まず、マーケティングはプロセスであり戦略であり活動である、と。

aimed at

その目的は、

co-creating value with customers and society

顧客や社会と一緒に価値を生み出していくことにある。

日本語は1文になっていますが、英語は2文になっています。1文目がまさに定義で、2文目はその成果・結果を表しています。

Its overarching objective

その包括的な目標は、

to advance a more prosperous and sustainable societal paradigm

より豊かで持続可能な社会的パラダイムを促進することである。

マーケティングという言葉を聴いたとき、それがどんなものかを想像するのは、その人が前提としている知識の中で、マーケティングがどんなものかという概念が、いつの時代のものかに依拠しています。

どうでしょうか。今でもソーシャルセクターや医療や教育、あるいはガバメントセクターの方に、マーケティングの考え方が重要だ、と言っても、うちは関係ない、と言う方も多いような印象です。

しかし、少なくとも2024年時点でのマーケティングの定義では、ここから外れて営利であれ非営利であれ、うまくいくようには思えません。

非営利組織にもマーケティングが必要だ、と考える考え方の背景には、こういう思想的な変化があることを、抑えておきたいものです。

現場からは以上です。

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