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#1『おすすめ映画~どんでん返しな1作』

映画業界を研究している”研究者の中澤”です。
この記事は映画『プレステージ』のネタバレを含みますので、ご覧になる場合は作品を鑑賞してからにして下さい。
また、記事の中で、登場人物の説明等もしていないので、とても見辛いかと
思います。ごめんなさい。
しかし、既存の『プレステージ』の解説・考察記事や動画では恐らく語られていない内容となっておりますので、ご覧頂いた方には楽しんで頂ける筈です。


はじめに

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この映画を鑑賞した人の代表的な感想が

『途中まで面白かったけど、最後はなんでもありのとんでもない結末だったよね』

ではないでしょうか。

そしてプレステージに関する様々な解説をみても、前述した感想の域を脱しておらず、クリストファーノーラン監督が見せたかった意図とは全く違う結果となってしまったのではないかと思っています。

良く考えてみて下さい。

複製装置が本物だとしたら身も蓋も無い話だと思いませんか?
終盤までとてもしっかりマジシャン同志の戦いを描いておいて
そんな結末にすると思いますか?

はじめに話しますが、明らかにクローン装置は存在しないですし、それを裏付けるシーンもしっかりと描かれています。

私が他の人の感想や解説を見るのは、共感したいからに他ならないのですが
この作品において、私と同じ解釈をしている人が見つからないので、私が発信する事にしました。

それではお待たせしました。

私と同じように長年、モヤモヤして自分を理解してくれる人が
いないと思っていた人へ

そう・・・・・・あなたに贈る答え合わせです。


結論

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テスラの複製マシーンは実際には存在しない
溺死したのはアンジャーではなくルート
最後の水槽のシーンはアンジャーが見せたかった虚像

それではテスラの複製マシーンの下りはなんだったの?
あれ?じゃああの描写は?
こんな事言ってなかったっけ?

そういう疑問がでてきますよね。
わかります。

それはこの作品のメインのストーリーラインの時系列が前後しているだけでなく、たびたび割って入ってくるアンジャーの日誌編に虚実が入り混じっている事と、ラストの水槽シーンの為だと思います。

という事でまずはメインのストーリーラインとアンジャーの日誌編を
時系列に並べ替えてみます。



メインのストーリーライン(時系列)

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【マジシャンの卵時代】

ミルトンの水槽脱出マジック
チャン・リン・スーの金魚鉢マジック
アッカーマンの消える小鳥マジック
ミルトンの水槽脱出マジック(ジュリア死亡)


【プロマジシャン時代】

ボーデンの銃弾掴みマジック(アンジャーの復讐)
アンジャーの消える鳩マジック
テスラコイルの実演会
ボーデンの瞬間移動マジック
アンジャーの瞬間移動マジック
アンジャーの瞬間移動マジック(ボーデンの復讐)
ボーデンの日誌がアンジャーに渡る
ボーデンの瞬間移動マジック(テスラコイル付き)
ファロン誘拐(アンジャーの復讐)
サラの自殺
アンジャーがボーデンの日誌を解読(ボーデンの復讐)
アンジャーの瞬間移動マジック(コロラド帰り)
アンジャーの瞬間移動マジック(アンジャーの復讐)

【現在軸】

ボーデンの裁判
刑務所への入所
オーエンズから瞬間移動のタネの開示要求
アンジャーの日誌入手
ボーデンの足枷マジック
アンジャーの日誌解読
オーエンズへ瞬間移動タネを開示する意思を伝える
アンジャーのプレステージ(アンジャーの復讐)
カッターとアンジャーの再開
ボーデンの死刑
ボーデンのプレステージ(ボーデンの復讐)
カッターの消える小鳥マジック



アンジャーの日誌編(時系列)

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(A)アンジャーは『ボーデンの日誌』を頼りに
   コロラドにあるテスラの研究所を訪れます
   そこで自分にも瞬間移動の装置を
   作って欲しいと依頼しますが、門前払いにされ
   ホテルで滞在する事にした

(B)アンジャーはコロラドのホテルでボーデンの
   日誌を読んでおりミルトンの水槽脱出マジックで
   事故が起きた原因がボーデンにも分からないと
   書いてある事に憤慨した

(C)テスラに再度依頼する為、ホテルに滞在していると
   テスラの助手が現れ話す機会を与えられる
   ボーデンの日誌にテスラに装置を製作してもらった
   事が書いてあったと告げると特異な相手の依頼なら
   秘密で装置を製作したりするという事が判明した
   そこでアンジャーは自分にも作って欲しいと依頼する

(D)助手にホテルの外へ連れ出される
   そこでみせられるのは電線がないのに光る電球だった
   それを見たアンジャーはテスラが魔法を使えると信じる
   そしてテスラの説得に2~3日待って欲しいと言われる

   
(E)コロラドのホテルでボーデンの日誌に瞬間移動の
   タネが書いていない事に気づく

(F)テスラが装置の作成を正式に受注したので研究所に招待される
   そこでテスラの面談を受け、取り扱いに注意を受ける

(G)テスラの装置が完成し、実演する為に研究所に呼ばれる
   アンジャーのマジックハットにテスラコイルっぽい電流を流すが
   何も起きなかった為、来週もう一度きてくれと言われる

(H)ボーデンの日誌にオリビアとの関係が綴られていた
   オリビアに寝返られ、テスラも瞬間移動の方法とは
   関係ない事を知る

(I)テスラ研究所に行きテスラにクレームをつける
   テスラは依頼された装置は完成したといって
   今度は黒猫にテスラコイルっぽい電流を浴びせるが
   何の反応もなかったのでアンジャーは
   あきれて研究所を後にした
   研究所の外で二匹の猫の声がしたので、そこに向かうと
   以前テスラコイルっぽい電流を浴びせたマジックハットが
   大量に散乱しているのを発見する
   これでテスラの装置が完成している事が分かり
   またテスラの装置とは瞬間移動ではなく
   複製装置だという事も分かった
   装置の微調整の為もう少し待ってくれといわれる

(J)ホテルで滞在中にエジソン派の過激派が
   ニヤニヤしているのをみて、嫌な予感がしたアンジャーは
   テスラの研究所に向かうと、研究所は放火され廃屋となっていた

(K)落胆してホテルに戻るとホテルマンからテスラは去ったが
   「箱」はあると言われる
   その「箱」とはテスラコイルっぽい電流を浴びた物が
   複製される場所にあたるものだった
   テスラの助手の取り扱い説明を読んだアンジャーは
   銃を用意してからその装置を試すことにした
   準備ができたアンジャーがテスラコイルっぽい電流を浴びると・・・・・・
   日誌はここまでしか書いておらず
   最後にアンジャーからのメッセージが添えられていた

君は独房で俺の日誌を読んでるだろ
俺を殺した罪で死刑を待ちながら


アンジャーの日誌の虚実

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『アンジャーの日誌編(時系列)』は虚実が入り混じっていると
考察していますが、その部分とは『アンジャーの日誌編(時系列)』で太字にしてある部分です。

太字の部分を省いて読んで頂くと、アンジャーが単純に嵌められただけという事が分かります。

そして、コロラドに行って得た物は複製装置ではなく
ボーデンがテスラに制作を依頼したテスラコイル装置の
強化版だっただけなんです。
「箱」は本当にただの「箱」なんです。

何故虚実が混ざっていると分かるのか

勿論、劇中では一切語られていませんが
下記の内容を詳しく見ていくと前述の太字の部分が嘘である事が
分かります。

アンジャーの日誌の目的
アンジャーの瞬間移動マジック(コロラド帰り)の目的
カッターの言葉
アンジャーとボーデンのやりとり
最後のやりとり
プレステージの難解なラストの解釈


アンジャーの日誌の目的

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そもそもアンジャーの日誌とはボーデンの日誌の仕返しの為に作成されたものです。
それではボーデンの日誌の概要を説明します。

瞬間移動のタネはテスラだよ
実はテスラじゃないよ
更にオリビアも寝返ってるよ
コロラドまで行って大馬鹿見たね
ご苦労様でした

そしてアンジャーの日誌の概要も説明します。

瞬間移動のタネはテスラじゃなかったね
オリビアも寝返ってたんだね
だけど、テスラはすごい装置を作ってくれたよ
なんと複製・・・・・・いやここまでにしとくよ
きみは俺殺しの罪で死刑にされるんでしょ
ご苦労様でした

構造を見て分かる通り、完全な負け惜しみアンサーになってます。
アンジャーはボーデンの策略に嵌り、完全に敗北したんですが
どうしても敗北を認められないアンジャーは虚実を織り交ぜて
最終的に策略に嵌ったのはお前だったんだよとパワープレイを
しているだけなんです。
そのパワープレイというのがコロラド帰りに見せた
アンジャーの瞬間移動マジックです。


アンジャーの瞬間移動マジック(コロラド帰り)

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まずこのマジックが複雑なのは二つのパターンがあるという事です。

ノーマルパターンは『ボーデンがステージに上がらない時』
スペシャルパターンは『ボーデンがステージに上がった時』

ノーマルパターン

①ルートがステージで手品の口上を読み上げる
②ルートがテスラコイルを浴びる
③ルートが落とし戸へ落ちる
④アンジャーが二階席付近から現れる(プレステージ)
⑤別のマジックで使用した水槽を

これは、アンジャーが最初に行った瞬間移動のマジックと同じ仕組みですが、アンジャーとルートの役割が逆になっています。

ちなみにアンジャーは最初に行った瞬間移動のマジックでも
自分がプレステージの役割をしたいとカッターに主張しています。
しかし、カッターは下記の二点が理由で役割変更を認めませんでした。

ルートは酒浸りでまともに喋れない
アンジャーの口上の方が観客を盛り上げる

これだけなんですよ。
ルートとアンジャーは見た目も声もほぼ同じ設定なんです。

アンジャーとルートの声が違うという指摘は誰にもされてないんです。
実際に聞いてみても同じように聞こえます。

それでは何故、最後の瞬間移動マジックはアンジャーとルートの役割を逆にできたのか

それはルートが売れない役者である事と
お金にがめついという設定にしてる事から読み取れます。

わざわざ役者設定にしてるんですよ。
別に役者じゃなくても成り立ちますし
後に起こる失敗にしても、むしろ役者じゃない方が
しっくりくる位の配役でした。

それなのにルートの演技力についてはしっかりと伏線が張ってあります。
【アンジャーの最初の瞬間移動マジック】の練習の時です。
ルートがまじめに演技したアンジャーの完成度は皆が驚く程
高いレベルだったんです。

以上の事からアンジャーの瞬間移動マジック(コロラド帰り)で
落とし戸に落ちる役割(マジックの口上も担当)はルートでも
充分に可能である事が分かります。

また、前回コントロールできなかったルートを
どうやってコントロールしていたか

これについてはルートがお金にがめついという設定が生きてきます。
前回はアンジャーだけではなく、カッターが絡んでいるので、ルートへの報酬はカッターが決めていた思われます。

しかし、今回はカッターは全貌を知らされず、ビジネスパートナーとして絡んでいるだけなので、コールドロウ卿として資産が潤沢なアンジャーが
ルートに大金を払う事は可能なんです。

しかも、100回講演限定としている事から、ルートとしても
その期間だけ断酒してまじめに身代わり役を演じていた
という設定は納得できます。

スペシャルパターン

①ルートがステージで手品の口上を読み上げる
②ルートがテスラコイルを浴びる
③ルートが落とし戸へ落ちる
④ルートが落ちた先に別のマジックで使用した水槽がある
⑤ルートがボーデンの前で溺死する
⑥ボーデンをアンジャー殺害容疑で逮捕させる
⑦ボーデンの死刑が確定したらアンジャーが現れる(プレステージ)

まずこのマジックの目的はボーデンを無実の罪で死刑にする事です。

100回公演限定にしたり、テスラコイルをつけたりして
なんとかボーデンを誘い込みます。

ボーデンが来ても、ステージに上がらなければノーマルパターンを続けるだけです。

そして遂にボーデンがステージに上がった時にスペシャルパターンに切り替えたという事です。

ルートが溺死した後にアンジャーがプレステージしない事で、ボーデンもカッターもルートの事をアンジャーだと思い込みます。

また、それによってアンジャーの瞬間移動マジック(コロラド帰り)のタネが分からなくなります。

しかし、アンジャーがプレステージした事により、ボーデンもカッターも
アンジャーの瞬間移動マジック(コロラド帰り)のタネに気づくのです。


カッターの言葉

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カッターは【アンジャーの瞬間移動マジック(コロラド帰り)】の全貌は
知りませんでしたが、瞬間移動のマジックのタネは知っています。

それは【ボーデンの瞬間移動マジック】の時にも言ってますが
瞬間移動のマジックは身代わり(ダブル)しかないと思っていたからです。

しかし、ボーデンの日誌のキーワードを手に入れたアンジャーはカッターの言葉を信じれず、誰も思いつかないような方法があるんだとコロラド行きを
決めてしまい、カッターとの間に溝ができてしまいます。

それもあり、コロラド帰りに【アンジャーの瞬間移動マジック】を
見せられたカッターはタネについて何も言わなかったのだと思います。

それに加え、カッターはアンジャーのマネージャー的なポジションで
成功できているのでそこまで深入りしなくてもいいと思ったのでしょう。

それでは何故カッターが【アンジャーの瞬間移動マジック(コロラド帰り)】の「箱」について、興味を持っていそうな描写が度々描かれたのかについて、説明します。

それは前述した、二つのパターンがあると知らなかったからです。

つまりカッターはスペシャルパターンをマジックではなく事故だと思い込んでしまった。

そして、事故が起きた後にダブルのもう一人がプレステージしない事で
ダブルを使った瞬間移動ではなかったと考えてしまったからです。

その為、【アンジャーの瞬間移動マジック(コロラド帰り)】は
もしかしたら本当に超科学的な装置なのではと思うようになったのです。

その証拠にアンジャーがプレステージしてからは
カッターの態度が急変しています。

まずはコールドロウ卿の屋敷で再開した時のやりとりを思い出しましょう。

まさか(カッター)

カッター(アンジャー)

生きてたのか?なぜ生きてる?君の死体を見た
あの娘は確か法定にいた
ファロンと
どうして?(カッター)

世話をしている(アンジャー)

必要なのは父親だ 彼は君のせいで首吊りになる
私はコールドロウ卿にマシンを壊せと頼みに来た
だが君には何も頼まない(カッター)

二度とあのマシンは使わない(アンジャー)

ではコールドロウ卿あれはどこへ運ぶ?(カッター)

私の劇場へ ほかの小道具と一緒に(アンジャー)

巻き込む気はなかった(アンジャー)

カッターも最初は困惑していますね。
しかし、「だが君には何も頼まない」と言うセリフから何かを
悟ったような印象です。

更に、「ではコールドロウ卿あれはどこへ運ぶ?」というセリフが
ありますが、これはボーデンに伝える為にわざわざ聞き出した内容です。

実際にこの後、ファロン姿のボーデンがアンジャーの劇場へ入る時に
カッターとすれ違う描写があるのですが
その際にカッターがファロンに目配せしています。

それでは『アンジャーの劇場』でのやりとりも見ていきましょう

君が何をしたか考えろ 溺れかけた船乗りの話を覚えてるか?(カッター)

家に戻ったようだったと(アンジャー)

あれはウソだ 死ぬ苦しみだったと(カッター)

このやりとりをみてどう思いますか?

もし複製装置が存在したとして、複製された自分を殺し続けている
アンジャーにこんな言葉を贈りますか?

私はそうは思いません。

この言葉はルートを溺死させたアンジャーに対して
嫌悪を露わにした言葉だと思います。


アンジャーとボーデンのやりとり

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ボーデンもカッターと同じく、【アンジャーの瞬間移動マジック(コロラド帰り)】のスペシャルパターンをマジックではなく事故だと思い込んでしまっていた為、タネは分かっていませんでした。

しかし、アンジャーが刑務所でプレステージした時に悟ります。
まずはそのやりとりを見ていきましょう

カルドロウ卿か?(ボーデン)

コールドロウ そうだ 昔からな
すごい鎖だな 鎖抜けなどできないのに(アンジャー)

君は水槽で溺れた(ボーデン)

君がよけいな興味を持ってあそこに来るからだ(アンジャー)

方法は知らないが手を汚すのは平気らしい(ボーデン)

ああ そうだ 私が勝った 誰も消える人間は気にしない(アンジャー)

勝った? 勝負などいい 娘の生涯が問題だ この娘を巻き込むな(ボーデン)
私も 大事な者を奪われるつらさは知っている
君が連れては行けまい 心配するな では おいで(アンジャー)

待て 待て 見ろ これだ これがお前の望んでたものだ 持って行け(ボーデン)

秘密を? 君はいつも上だった それは事実だ
秘密が何であれ今度は私の勝ちだ(アンジャー)

注目すべきはボーデンのセリフ
「方法は知らないが手を汚すのは平気らしい」
カッターの時も同じ事を言いましたが、もし複製装置が存在したとして
複製された自分を殺し続けているアンジャーにこんな言葉を贈りますか?

また、ここでいう「方法」は何を指しているのかという疑問ですが
大きく分けて二つの解釈があると思います。

超科学を信じているパターン
マジックだと確信しているパターン

仮に超科学を信じているパターンだとすると、こんな意味になると思います。

どうやらテスラの装置が本物で自分が想像もできない事をしたようだが
人を殺した事を理解していますか?

『手を汚すのは平気らしい』というセリフを一番当てはまる意味にしても
しっくりこないんですよね。

複製されようが、アンジャーはアンジャーなんです。
新しい生命や別の生命になっている訳ではないので
アンジャー=複製アンジャー
という解釈が普通です。

ですので、複製アンジャーを憐れむような感覚にはならないと思います。
どちらかといえば自分で自分を殺している訳ですから
勝手にすればという気持ちになる方が自然です。

ではマジックだと確信しているパターンならどうでしょう。

ボーデンがステージに上がった時だけ、落とし戸の下に水の入った水槽を
移動する仕掛けの事を指しているのだと思います。

何故なら、この疑問は映画の序盤でちゃんと伏線が張られているからです。
【ボーデンの裁判】の時のカッターと裁判官のやりとりです。

水槽は別のマジックで使い舞台から下ろしてた
ボーデンが落とし戸の下に置いたのだ(カッター)

水槽の大きさは?(裁判官)

脱出用の水槽で1800リットルぐらいです(カッター)

誰にも気づかれずそんな水槽を動かせますか?(裁判官)

彼はマジシャンです(カッター)

そのマジックの仕掛けを教えて頂きたい(裁判官)

結局、この仕掛けについては回収されませんでしたが
プロのマジシャンでも分からない仕掛けをアンジャーが
思いついた事になります。

ですので、ボーデンがマジックだと確信している場合なら
カッターと同じように疑問に思っていて、アンジャーに
このタイミングでこれを指して『方法は知らないが』と言っても
不思議ではありません。

また、このパターンの場合は、その後の『手を汚すのは平気らしい』
というセリフはそのまま、ルートの事を指していると考えられます。

つまり、私はボーデンのこのセリフをこのように解釈しています。

水槽移動の仕掛けは分からないが、ルートを殺したことには変わりない
それを理解していますか?

アンジャーはボーデンに超科学だと信じ込ませるのが失敗したとみて
開き直ります。

話をすり替えて『ああ そうだ 私が勝った 誰も消える人間は気にしない』
と続けるのです。

これに対してボーデンが『勝った?』と言ってる事から、二人の考えに
矛盾が生じたという事になります。

アンジャーの主張の変化

【マジシャンの卵時代】でミルトンの水槽脱出マジックをした後の
楽屋での出来事を覚えていますか?

彼のは自己満足でつまらない
ミルトンは名声を得て危険を冒すのが怖いんだ
退屈な二流のトリックで観客をごまかしてる(ボーデン)

人気がある(アンジャー)

せめて”銃弾つかみ”でもやってほしいね(ボーデン)

あれは自殺行為だ
誰かが銃身にボタンでも入れたら終わりだ(カッター)

サクラを使え(ボーデン)

毎回はムリだ(アンジャー)

サクラで満員とか(サラ)

”銃弾”は忘れろ
だが本物のプロならほかのプロが驚く
新しいタネを考えるべきだ(ボーデン)

それを売って稼ぐか?
君は何かあるんだろ(カッター)

もちろん(ボーデン)

売ってくれ(カッター)

僕しかできない(ボーデン)

誰でもマネはできる(アンジャー)

ボーデンの信条は”プロのマジシャンが驚くマジックこそ価値がある”です。

それに対してアンジャーは人気だったりマネすればいいと主張しているのが印象的でした。

しかし、このやりとりでカッターから中国人奇術師の金魚鉢のマジックの
タネを暴いてこいと言われた事がきっかけで、アンジャーの考え方は次第に
変わって行きます。

まずそのタネを暴いたボーデンをリスペクトし、普段の生活まで犠牲に
して、観客をだまそうとするマジシャンの姿勢に感銘を受けるのです。

そこでサラの事故があり、アンジャーはボーデンに復讐するという
展開になっていくのですが

二人の戦いはどんな時も、お互いのマジックのタネを暴くことで
相手にダメージを与えるというマジシャンならではのものでした。

しかし、アンジャーの最終ターンである【アンジャーの瞬間移動マジック(コロラド帰り)】のタネがボーデンに割れていると判断し
負けを認められないアンジャーはボーデンとの戦いの勝敗のルールを
一方的に変え、あれほど知りたかった【ボーデンの瞬間移動マジック】の
タネさえ、知ることをやめたのです。


最後のやりとり

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本当のラストの話に行く前に前提としていくつかお話しておかないと
いけない事があります。

最後のボーデンとアンジャーのやり取りです

完璧なトリックには犠牲も必要だ 君には分かるまい
私は犠牲を払った(アンジャー)

人の仕事を盗むのは簡単だ(ボーデン)

すべてを費やした 勇気が要った 毎晩迷いながらマシンに立つ
自分は落ちて死ぬ方なのか 現れる方なのか
その恐ろしさが分かるか?君には分かるまい 見ろ(アンジャー)

知るか 地球の裏まで行って君は大金を使った そして愚かに・・・
恐ろしいことをした ただムダに(ボーデン)

ムダ?君は我々のしたことが分かってない
観客は真実を知ってる 世界は単純でみじめですべて決まり切ってる
だから彼らを騙せたらたとえ一瞬でも・・・
驚かすことができればその時君も素晴らしいものを見る
知ってるだろ?観客の あの表情(アンジャー)

アンジャーは最後まで超科学と貫きとうそうとしていますが
ボーデンはそんなアンジャーの主張を無視するセリフを吐いています。

『私は犠牲を払った』に対する『人の仕事を盗むのは簡単だ』
『君には分かるまい 見ろ』に対する『知るか』

実はこのシーンよく見てみると、物議を醸しだしたラストの
アンジャーが溺れている水槽の場所と同じなんです。

もう一つ付け加えるとカッターとアンジャーが「箱」を
運んだあとに溺れかけた船乗りの話をした場所も同じです。

仮に超科学的なオチだとしたら、二人ともアンジャーの死体に
囲まれている状態で話している事になるので
もう少しそれらしい描写があってもいいと思いますし
ボーデンに関しては、その状況だとしたら
『人の仕事を盗むのは簡単だ』とは返さないと思うんですよね。

もう一つはボーデンが最後アンジャーの劇場に現れた時に言った
アンジャーのセリフです。

カッター  カッター! 君は・・・ 兄弟・・・ 双子か
君とファロン ずっと・・・(アンジャー)

違う 2人ともファロンでボーデンだ(ボーデン)

超科学が実際に存在しているなら、アンジャーが導き出す答えは
ダブル(身代わり)じゃない筈なんです。

アンジャーは敗北を認めたくないから自分のマジックは超科学と
言い張っていますが、ボーデンがプレステージした時には
ダブル(身代わり)という答えを持ち出しています。

超科学的なオチなら、このやりとりのセリフは

まさか・・・君も

でいいんじゃないでしょうか。

ここまで読んで頂ければ最後の難解な終わり方が理解できる筈です。


プレステージの難解なラストの解釈

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これはとても複雑なんですけど、難解なラストを理解するには
難解なオープニングの話もしなければなりません。

それではオープニングとラストの構成を見ていきましょう。

【オープニング】
大量のマジックハットが散乱しているシーン
ボーデンが娘を迎えに来るまでのカッターの小鳥マジック
ボーデンの最後の瞬間移動マジック

【ラスト】
ボーデンが娘を迎えに来るまでのカッターの小鳥マジック
ボーデンがアンジャーの劇場を去るシーン
ボーデンが娘を迎えにきたシーン
ボーデンがアンジャーの劇場を去る前に振り返るシーン
大量のマジックハットが散乱しているシーン
水槽の中でアンジャーが溺れているシーン


『ボーデンが娘を迎えに来るまでのカッターの小鳥マジック』では
オープニングでもラストでもカッターによるマジックの3つのパートの
説明が行われます。

かなり印象的でかっこいいオープニングでしたよね。

ラストもオープニングを思い出させるような構成になっていて、素晴らしい演出だと思います。

しかし、この中でとても意味深なシーンがあります。

それは『大量のマジックハットが散乱しているシーン』です。

オープニングでのこのシーンにはボーデンのセリフもついています。

しっかりごらん

これが何を表しているかというのが、今まで延々と話してきた総括となります。

まずこれは誰に向けて言ってるの?と疑問に思いました。

劇中でリンクしているようなシーンもなく、どこに当てはめようとしても
しっくりこない。

そこで通常のフレームから脱却して考えた時に、一番しっくりきたのが
これからこの映画を鑑賞する私達に向けての言葉なんじゃないかという事です。

しっかり観れば、タネは分かるよね

こう解釈するとボーデンというよりクリストファーノーラン監督からの
メッセージのような気もします(笑)

また、どうしてこのシーンを使ったかについてですが
複製装置なんて存在しないよ
というのを一発で伝えるために最も効果的だったからではないでしょうか。

深読みし過ぎじゃない?という声が聞こえてきそうですけど
あきらかに不自然で意味が分かりにくいシーンをオープニングとラストに
使っているんですから、私からすると深読みしてと言われているのと
同じです。

更に超科学的なオチの場合はこのシーンとこのセリフは全く必要ないように思えます。

それでは次に進みます

①ボーデンがアンジャーの劇場を去るシーン
②ボーデンがアンジャーの劇場を去る前に振り返るシーン
③水槽の中でアンジャーが溺れているシーン

本当のラストと同一シーンになるものとしてはこの3つになるのですが
①と②では水槽の中に人が入っている描写はないんです。
また人影みたいなものもはっきり写されていません。
しかし③になると他の水槽にも人影が写り、更に最後に写された水槽には
落とし戸に落ちて溺死した様子のアンジャーが映し出されます。

そして③に関してはボーデンは既にその場におらず映画を鑑賞している観客に向けてのシーンとなっています。

極めつけは②と③の間に話の前後では関係ない『大量のマジックハットが散乱しているシーン』が差し込まれている事です。

この『大量のマジックハットが散乱しているシーン』はアンジャーの”嘘”であるというメッセージなので、その流れで『水槽の中でアンジャーが溺れているシーン』もアンジャーが見せたい虚像だったんだと理解する事ができます。

以上が、私が解釈したプレステージです。

超科学派の方はコメントでどうぞ突っ込んで下さい。
マジック派代表として、私の見解をアンサーしますね(^^)

また、私が一番気になっているのが、私と同じマジック派(超科学否定派)の人がいるのかという疑問です。

会いたいです。コメント下さい。私の周りには一人もいないんです。


完。


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いやぁ、もっと気軽な感想を書いていくつもりだったんですが、こんな事になってしまいました(泣)

プレステージに関しては同じ解釈の人を見たことがなかったので、考察っぽい記事になっちゃいましたが、他の作品は普通に『ここが良かった』『この演出が素晴らしいよね』っていうカジュアルな記事になっていくと思います。

この記事をみて、こういう解説・考察系やってる人だと思わせてしまったら、申し訳ありません。

次回は酷評の嵐だった『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』について
書こうと思っています。

私はあの作品凄く楽しめたので、同じように楽しめた人と共感したいです。

この記事が少しでも楽しめたらスキを押してくれたら嬉しいです。
そして、少しでも私達に興味が湧いたと思ってくれた方は、是非フォローをお願いします。

それでは皆様、お身体ご自愛くださいませ。

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