見出し画像

生活保護制度の図解

生活保護制度を図解してみました。
この図解は「政策図解」という形式で書かれています。政策図解は、1枚で政策の基本的な情報をモデル化するものです。

追記:
ついに「政策図解」が本になりました。これまでnoteで書いた記事を大幅加筆して生まれました。社会のしくみがみえてくる、50の政策を図解した本です。よければぜひご覧ください!

2022年1月現在、何らかの形で生活保護を利用している方は200万人を超えています。

この記事では、生活保護の目的や実態、現在の課題について紹介したいと思います。

それではどうぞ。


生活保護制度

健康で文化的な最低限の生活を国が保証する

勤めている会社が倒産してずっと仕事が見つからなかったらどうしよう。
重い病気にかかって貯金が尽きてしまったらどうしよう。
・・・そんな不安に駆られたことはあるだろうか?

生活に必要なお金が足りなくなる場合、まずは企業や行政機関が用意している失業手当・休業手当などと、自ら加入している保険などを活用することになる。

それでも足りない場合は、最後のセーフティネットとして、国が用意している「生活保護制度」がある。

日本国憲法第25条に記されている通り、私たち国民は「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利を有している。
生活保護制度はその権利に基づき、資産や能力などをすべて活用してもなお生活に困っている人に対して、困窮の程度に応じた保護を行うとともに、自立に向けた支援を行う。

日本の生活保護制度は、1960年に生活保護法が成立してから続いている、非常に歴史の長い政策である。

具体的にはどういうものなのだろうか。最低生活費(厚生労働大臣が定める基準で計算される)とその世帯の収入を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に、最低生活費から収入を差し引いた差額が保護費として支給される。

保護費は、食費・被服費・光熱費などの生活費のみならず、住宅・教育・医療・介護・出産・就労・葬祭といった様々な出費に充てられるように算出される。この財源は、4分の3を国が、残りの4分の1をそれぞれの地方自治体が負担する仕組みになっている。

頼もしい政策である一方、最後のセーフティネットと呼ばれる通り、誰でもすぐに使えるものではない点に留意が必要だ。
前述の通り、生活保護制度の対象は、資産や能力などをすべて活用してもなお生活に困っている人である。
つまり、預貯金があれば使う、利用していない土地や家屋があれば売却する、働けるなら働く、といった考えが大前提となっている。

なので、不必要に、もしくは不正に生活保護を受けることがないよう、手続きも慎重に行われている。
まずは生活保護の申請希望者が、地方自治体(町村部は都道府県、市部は市)が設置する福祉事務所に事前相談を行う。
要件を満たすことが認められたのち、正式に申請し、調査を行ったうえで保護が決定する。
調査は生活状況等を把握するための家庭訪問や、預貯金などの資産調査、扶養義務者による扶養(仕送り等の援助)の可否の調査、就労の可能性の調査など多岐にわたる。

保護費の支給が始まった後も、受給者は毎月収入の状況を報告するとともに、福祉事務所の生活保護担当職員(ケースワーカー)による訪問や助言を定期的に受ける。
これは生活保護受給者の自立を促す狙いもある。

では、この生活保護制度をどれほどの人が利用しているのだろうか?

生活保護の受給者数は2007年から広まった世界金融危機を背景に増加し、2014年に約164万世帯、約216万人(全人口の1.70%)まで達したあと、しばらくは減少傾向にあった。

(出典:厚生労働省「社会保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会」第1回資料)

2022年1月現在、生活保護受給者数は約163万世帯、約205万人(全人口の1.63% ※1)。
ここ数年は新型コロナウイルスの影響を受け、生活保護の申請件数は増加傾向にある一方で、実際に保護を受け始めた人は世界金融危機時と違い、それほど急増していない状況だ。

世界金融危機とコロナ禍では経済に与える影響が異なる部分もあるため、単純な比較は難しいものの、「使いにくい制度になっており、本当に保護を必要としている人に生活保護が十分行き渡っていないのでは」という問題も指摘されている※2。

その要因として、要件の厳しさとケースワーカーの不足が挙げられている。
特に後者については、ケースワーカーひとりが担当する標準世帯数は80世帯と定められているのに対し、実際は、67の団体のうち56団体(全体の84%)、つまりほとんどが80世帯以上を担当している。このような状況では、目の前の業務で手一杯になってしまい、窓口での相談業務、保護のスムーズな審査、保護世帯への支援業務に支障が出ていると考えられている。

現在の利用者の状況や課題にも目を向けることで、この制度の対象となっていない貧困や、対象になっていても救えていない貧困があることも知っておくべきだろう。


▼参照記事

※1 生活保護の被保護者調査(令和 3年 1月分概数)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/hihogosya/m2021/dl/01-01.pdf
※2 なぜコロナ禍でも「生活保護の受給者数」はまったく増えていないのか
https://president.jp/articles/-/43315


説明は以上です。

今回の記事以外にも、様々な事例を図解で紹介しています。「政策図解シリーズ」というマガジンでこれまでの政策図解の記事がまとめられているので、よければ見てみてください。フォローもしていただけると嬉しいです。

https://note.com/bizgram/m/mb0dcc005d7c0

以下、今回の記事のクレジットです。


図解&原稿:光武佳寿美
レビュー:沖山誠、近藤哲朗
最後までお読みいただきありがとうございました!




最後までお読みいただきありがとうございます。サポートは「図解総研」の活動費として使わせていただきます!