【医療】不妊治療の保険適用と先進医療
はじめに
今年2022年4月から不妊治療の一部に保険が適用となります。しかし、この保険適用にはとても難しい問題があります。それは保険適用となる不妊治療と保険適用とならない自己負担による治療を組み合わせた場合、混合医療となって、本来、保険適用となるはずの不妊治療も保険適用とならなくなってしまうということです。
そうした中、厚生労働省は3月4日、保険対象となる不妊治療とセットにしても治療費の一部に保険が適用される6つの自己負担による治療となる「先進医療」技術を公表しました。
そもそも先進医療とは?
まず「先進医療」というのはどういうものかを説明します。先進医療は、「健康保険法等の一部を改正する法律(平成18年法律第83号)」という法律によって、「厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養」と定められた医療技術になります。
これをもっと簡単に説明すると、厚生労働大臣が定める高度な医療技術であり、その医療技術の安全性や効果が確認されると、健康保険の適用が検討される治療法です。
この「先進医療」というのは不妊治療で突然取り入れられたものではなく、これまでにもがん治療やアルツハイマー病などの領域で多く利用されてきています。「先進医療」はどこでも受けることができるという訳ではありません。先進医療を実施している医療機関は厚生労働省のホームページで公開されています。
今回、不妊治療について、この「先進医療」となった6つの技術が公表されたということになります。
日本の医療は混合診療を原則として禁止
混合診療というのは健康保険の対象となっている医療は健康保険で、対象とならない自己負担の自由診療の分は治療を受ける患者さん自身が費用を支払うことです。日本の医療は混合診療を、原則として禁止にしています。
混合診療を認めてしまった場合、所得によって受ける医療に格差ができてしまい、平等な医療を受ける機会を保証した皆保険制度の主旨に反してしまうからとなっています。
混合診療の一部例外が「先進医療」
しかし、厚生労働省が「先進医療」として認めたものであれば、例外として、「混合診療」が可能になります。3月4日、厚生労働省が公表した保険対象の不妊治療と組み合わせることができる「先進医療」は以下の6つです。
・ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術(PICSI)
・タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養
・子宮内細菌叢検査(EMMA/ALICE)
https://www.jsog.or.jp/news/pdf/20220304_kourousho1.pdf(厚生労働省公表資料)
ヒアルロン酸で精子を選択!?
「ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術」というのは成熟した精子がヒアルロン酸に結合する特性があることから、その特性を利用して精子を選別するという技術です。ここで選択した精子を使って、顕微鏡で精子を直接卵の中に注入していく顕微授精(ICSI)を行う方法です。
タイムラプスインキュベーターを利用する技術
「タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養」はタイムラプスインキュベーターという機器を利用して行う治療です。受精卵(胚)を培養器であるインキュベーターの外に出さず、胚の成長を撮影し、動画として観察することができる装置「タイムラプスインキュベーター」を利用します。ドイツのメルクやスウェーデンのヴィトロライフ、日本ではアステックといった企業がこのタイムラプスインキュベーターを発売しています。
子宮内フローラと着床の窓
「子宮内細菌叢検査(EMMA/ALICE)」と「子宮内膜受容能検査(ERA)」はアイジェノミクスという会社の検査です。子宮内の善玉菌が多くなると妊娠しやすくなることから、善玉菌の状態・割合、つまり子宮フローラという状態を調べる検査がEMMA検査で、ALICE検査は不妊の要因とされる慢性子宮内膜炎の原因菌を調べる検査です。またERA検査は着床の窓という子宮内膜が胚が受け入れるために最適な状態となり、受精卵が着床可能になるタイミングを調べる検査です。
胚を培養した培養液を利用する方法
「子宮内膜刺激術(SEET法)」は胚を培養した培養液を、胚移植の前に子宮内に投与して、培養液に含まれる胚からの物質によって子宮内膜を着床しやすい状態へ整えようとする方法です。体外受精は胚の培養を体外で行います。そのため、胚からの物質が子宮に働きかけることができず、これが着床の障害の原因の一つではないかと考えられたことから開発された方法です。
子宮内膜に傷をつける?引っ掻く?
「子宮内膜擦過術(子宮内膜スクラッチ)」は、着床の前にわざと子宮内膜に小さな傷をつける方法です。傷をつけると、子宮内膜は修復するプロセスでサイトカインというものを分泌します。胚が着床する環境でも同様のものが分泌され、着床を促進させると、多くの論文で報告されていることから、子宮内膜に故意に傷をつけることで着床しやすい子宮環境を作りだすというものです。
まとめ
不妊治療の保険適用は不妊治療に取り組んでいた多くの夫婦やカップルが待ち望んでいたものです。というのも不妊治療は高額な自己負担が発生していたからです。しかし、保険対象の不妊治療でも、自己負担の自由診療と組み合わせた場合、混合診療となってしまい、全額が自己負担となってしまいます。
その課題を解決するため、今回、6つの医療技術については先進医療となり、保険適用の診療と組み合わせても、混合医療の例外となることが公表されました。こうした技術も将来保険適用になっていければ、さらに不妊治療の費用面でのハードルは下がることになります。