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毎月数百万の赤字になったとしても、次の未来を創るために。介護経営者の覚悟

こんにちは! あきた創生マネジメント代表の阿波野です。

前回の記事から間が空いてしましたが、またnoteを更新していけたらと思っています。2020年は「人口減少社会において、介護経営をリデザインすること」を目的に、さまざまな新しい挑戦をしてきたことを紹介してきました。

関係人口増加によるファンづくり、ICT導入、働き方改革など、まだまだ道半ばではありますが、全国にいる仲間の力を借り、成果が出てきたのです。

一方で、そこに至るまで経営者として大変だったこと、苦しい決断をしなければいけないことも多くありました。数えていくとキリがないのですが(笑)、今回は2017年7月に事業承継した大館市にある「ショートステイ縁」(以下、縁)での数年間を紹介できればと思います。

事業承継後の面談、不平不満をぶつけられる日々

2011年10月の創業後、能代市で「ショートステイ輪」(以下、輪)を立ち上げた弊社。以前の記事でも紹介してきたように、働くスタッフ同士が支え合い、介護に最も必要な「心」の視点を学んでいったことで、徐々にチームワークが生まれ、経営も少しずつ安定していきました。

当時、規模拡大を模索する中、「次はデイサービスに挑戦しよう」と事業計画を練ったのですが、銀行からの融資はOKだったものの、総量規制の関係で能代市では作れないことが分かりました。どうしようかと考えていたときに、銀行の担当者が「大館市に介護事業の事業承継をしたい経営者がいる」と教えてくれたことが、縁との出会いになります。

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当時の経営者は高齢で、ショートステイと認知症対応型デイサービスを経営されていました。しかし、退職者が増え、稼働も下がり将来に不安を増し気力をなくしてしまっていた状況だったのです。私としてはマイナス要因があったとしても、輪で培ったチームワークの大切さを伝え続ければ変わると信じ、デイサービスをやりたい気持ちからも挑戦を決めました。

無事に事業承継が完了し、スタッフとの最初の個人面談を行いました。覚悟していたものの、私は現状に驚かされることになります。当時のスタッフを責めたいわけではないのですが、人が辞め、運営法人も変わったことに対する危機感がなく、とにかく職場に対する不平不満をぶつけられる日々。「心がダメになりそう」と感じたことを、今でも覚えています。

面談を重ねていくうちに、次のような課題が浮かび上がってきました。

・今までのやり方から変わることへの抵抗感、新しいものを受け入れない
・「○○さんが悪い」など、課題の原因を他人事として捉えている
・スタッフ間のコミュニケーションの場がなく、あったとしても発言しない

この課題は縁だけのものではなく、多くの介護施設にとって共通するものではないでしょうか。事実、ニッセイ基礎研究所が2月に公開した記事では、介護関係の仕事経験がある人の離職理由として、よく言われる「収入が少ない(15.5%)」よりも、「職場の人間関係に問題があったため(23.2%)」のほうが高いことが紹介されています。面談後、あらためて輪で培った「心」の視点を学ぶことが、縁でも必要だと考えるようになりました。

状況を変えるため、現場に入って姿勢を見せるも……

私は信頼関係の構築が最優先と考え、まずコミュニケーション量を増やしていきました。定期的な個人面談をはじめ、月に1度の社内研修も開催。できるだけフラットな場を作りつつ、コミュニケーションの機会を増やしましたが、なかなか思うようにいきません。長年沁みついた会社の文化や働くことへのマインドを、すぐに変えることは難しく思うようにいきませんでした。

ミーティングでも「どうせ言っても変わらない」という空気感があり、毎月開催していた社内研修は4カ月目で勤務表の予定に書かれることもなくなりました。事業承継から約1年後には、スタッフ同士の人間関係の問題やそれを解決できない会社に対する不満から、また退職者が増えていきました。「悲しい」「もう行きたくない」「ここまでか……」 いろんな気持ちが、私の頭の中を駆け巡りました。正直、私の能力不足は否めませんでした。

「今の人数のままでは、現場が回らない。申し訳ないけれど、人手不足で施設の危機だから、できれば休日出勤をお願いしたい。それでも足りない場合は、自分が夜勤に入るから、何とかお願いします」

そんな言葉をミーティングで伝え、みんなの前で頭を下げたこともありましたが、残念なことに、その後も状況は変わらなかったのです。そこで、利用者様のためにも、自分が現場に入って働くうえでの姿勢を見せていかなければと考え、2018年8月には私が夜勤に入ることも始めました。

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▲県内のテレビで紹介された当時の写真

その後、日中は経営者としての仕事をしながら、月10回ほど夜勤の仕事に入りました。しかし、今度は私が夜勤に入ることが当たり前になってしまったと同時に、経営者としての仕事もおろそかに。縁へのコミットメントを増やすほど、うまくいかない日々が続いたのです。

思い返すと、私自身が反省しなければいけないことも多くあります。どう思われるかが怖く、またスタッフに「未来ばかり見ないで今をみてください」と言われ、自分を信じ切れなかったこと。目指す方向性について自信を持って伝え切れなかったこと。弱く、器の小さい経営者でした。ただ、さまざまな葛藤や後悔を抱えつつも、「事業を辞める」という選択肢は一切頭の中にありませんでした(「逃げたい」と思ったことは何度もありました笑)。

経営者として、やるべきことは。覚悟を決めた瞬間

一方で、肉体的も精神的にも限界が近づく日々。悩み続けていた中で、行動を変えるきっかけとなったのは、先輩経営者から言われたある一言でした。

「全部をとろうと思うな。経営者として、どこかを諦めなければいけない」

この言葉を聞いて、私はすべてを自分一人で解決しようとしていたことに気付きいたのです。今やるべきことは何か――。

それは現状を冷静に見つめ、仲間を頼り、今後の方向性を示すことだと思いました。経営者としての仕事に専念すると、覚悟を決めました。

まず行ったのは、私が夜勤に入るのを辞めること。ただ人手不足が深刻化しているため、このままでは誰かに負担がかかってしまいます。働く環境としてブラックになってしまいますし、結果的にケアの質も悪くなり、利用者様にも負担がかかるので、悪循環でしかありません。

そこで、スタッフの人数や給料は変えないことを前提に、20人だった定員を2019年8月から半分の10人にすることを決断しました。支出は変わらず、収入は減ることになるので、(今だから言えることですが)続けるだけで毎月300万円の赤字となります。そのため、私の役員報酬をゼロにするという決断も。家族や銀行の理解があったこともあり、覚悟を決められました。

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▲コロナ禍でインドネシアで待機している技能実習生と現場スタッフとの定例ミーティング

有難いことに、輪では2019年11月にインドネシアから技能実習生を3名受け入れたこともあり、人手だけでみると多い状況となっていました。

そこで、スタッフのキャリアアップと会社の成長を考え、法人全体の組織体制を見直し、思い切った人事を行いました。輪のリーダーとして長く活躍してきた伊藤を弊社が経営する施設全体の総括責任者に。また、輪の管理者も妻から機能訓練指導員として支えてくれた鵜木を管理者に。それぞれ成長してきてくれた輪のスタッフも縁のフォローに入りながら、コミュニケーションやチームワークの大切さ、雰囲気づくりを伝え続けていきました。私よりも現場に近いスタッフが関わったのもあり、弊社が大事にしてきたことを縁のスタッフが徐々に自分の言葉として落とし込んでくれていったのです。

少しずつ空気が明るくなり、職場の雰囲気が変わっていきました。また、WebサイトやSNS、noteなどで会社の大事にしていることや多様な働き方の実現に向けた発信をしたことで、不思議と求人への応募も増加。夜勤専従のスタッフが2人入社してくれたことで、ついに2020年9月からは定員を20人へと戻せるまでに。覚悟を決めた瞬間から、1年強が過ぎていました。

不確実性が高まる中、経営者に求められること

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▲あきた創生マネジメントの「ビジョン・ミッション・バリュー」

私はというと、会社の「ビジョン・ミッション・バリュー」を定め、社内外に発信し、会社の「次の未来」を創ることに挑戦し続けています。

冒頭で紹介した記事にあるように、介護施設とすきま時間ワーカーのマッチングサービス「スケッター」の活用や、紙での管理が一般的だった介護施設でのICT導入など。嬉しいことに全国に仲間が生まれ、茨城から秋田に移住したスタッフもいますし、オンラインでの出会いから法律や医療といった専門家の方々の知恵をお借りできるようにもなりました。

また、秋田市にある住宅型介護施設の事業承継、多様な働き方を普及させるための法人設立も行うなど、規模拡大に向けた取り組みも進めています。

まだまだ課題は尽きないですが、こうした経営者としての仕事に注力できたのも、苦しみながら覚悟を決めた瞬間があったからこそですし、ともに仕事をしてきた仲間や家族が私たちの未来を信じ、支え続けてくれたからだと思います。あらためて、「ありがとう」と感謝を伝えたいです。この恩はしっかり胸に刻みひとつ、一つずつ返していきます。

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同じような課題で人手不足に悩む介護経営者は、他にも多くいるでしょう。

まずは人手不足の原因を現場スタッフや管理者、経営側で話し合う場を何度も設けることで、まず目の前の課題を他人事ではなく、自分事として考えてもらうことが必要です。そして、経営者が会社の目指す方向性や大事にしたい価値観を示し、社内外に発信し続けることで周囲の信頼や協力を得ていくことが求められるのだと、縁での取り組みから学びました。

会社の目指す方向性や大事にしたい価値観は、伝えてすぐ何かが変わるものではないですし、言語化すること・伝えることそのものにも大きな労力が必要です。それでも、コロナ禍で不確実性が高まっていく中、こうした能力は経営者として今後より求められていくと思います。

あきた創生マネジメントでは、この経験を業界全体の未来に貢献するため、人手不足に悩む事業所をサポートする事業を立ち上げようと思っています。立ち上げ次第、順次アナウンスできればと思いますが、関心のある事業所さまがいらっしゃったら、私のTwitterなどにご連絡いただけると嬉しいです!

【参考記事】
スキマワーカーや外国人技能実習生など多様な人材を受け入れ、人員大幅アップを実現(カイゴジョブさま)
日本一高齢化が進む秋田で介護事業拡大のためM&A「若い介護従事者が希望を持って働ける会社にしたい」(バトンズさま)
ICTの活用でよりよい支え合い・助け合いが充実した職場環境が醸成され、介護職の本来の魅力を再確認(LINE WORKSさま)

上記のテキスト内容をVYONDアニメーションしたバージョン↓をぜひご覧下さい(^人^)



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