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下町の温もりと下世話さに受け入れられる/おかめ

 数ヶ月前まで、母が入っていた介護施設に毎週通っていました。その道すがらに大衆食堂「おかめ」があります。いまだにケーキ屋さんやクリーニング屋、散髪屋らが軒を連ねる下町の商店街と呼ぶのにふさわしい風景の中に。

味はそこそこの「ザ・大衆食堂」

 午後4時半に施設の面会時間が終わり、それから駅に向かって歩いてお店に入るとだいたい午後5時。まだ夕食には少し早い時刻ですが、店の隅に吊られたテレビで相撲中継を見たりしながら、のんびり長居をして食事するのが楽しみでした。

 私が席に着く頃から、常連客たちが次から次へと店に入ってきて、あっという間に満席になります。店の真ん中にある棚に一品料理が並んでいて好きなものを取っていく他に、定食からそば・うどん・カレーライスまで何でもござれのいわゆる大衆食堂スタイルです。店のご主人は奥で調理に勤しみ、奥さんとアルバイト女性でお客さんの対応するという典型的な家族経営店。

 味はそこそこ。というか、特筆すべきようなメニューはありません。お刺身、煮物、焼き物、フライ。酒の肴になりそうなメニューにご飯をつけて食べるか、お酒をつけて飲んで帰るか。まあ、そういうお店です。ただ、テーブルにつくと暖かい番茶と冷たい水が両方出てきます。それがせめてものサービスなのかな。

店の魅力は街の魅力、集まる人の魅力

 なので、店の「味わい」も食べ物の味というよりは、そこに集まる人の魅力といったことになるのでしょう。老若男女いろんなお客さんが大きな声で挨拶をして店に入り、知った顔を見つけては近くに座って、まるで我が家にいるような振る舞いで飲んで食べて喋っては帰ってゆく。

 あけすけに下品な冗談を飛ばすお客さんもいます。時には口喧嘩を始めることも。一方で、こちらが熱心にテレビ桟敷で相撲観戦をしていると「白鵬はあかんねえ。いっときほどの絶対的な勝ちっぷりができへんようになったわな」と話しかけてくる気の良さそうな一人客の紳士がいたりもします。

 お店ってのはよくも悪くもその街の縮図です。タバコ吸う人は多い。大声で喋る人も多い。酔っ払ってる人も。でも、活気があって、笑顔があって、会話が途切れない。私のような隣町の住人であっても、多少の縁があってこの店に通っていると「街に受け入れられていく」ような感覚になります。

少しずつ常連さんになってゆきたい

 外食産業が盛んになって、街からこういう定食屋さんがどんどん姿を消しつつあります。でも、こういうお店が街の縮図なのだとしたら、こういうお店がなくなるってことは街そのものがなくなってしまう、ということでもあるはずです。機能的にはユニクロとコンビニとマクドナルドがあれば街は機能するのかもしれませんが、人が人らしく暮らしているいく場所として、こういうお店は残って欲しいなあと願わずにはいられません。

 コロナ騒ぎでどうなったかなあと心配になって、先日、久しぶりに「おかめ」に行ってきました。暇を出されたのかホール係のアルバイトさんはいませんでした。お客さんも少なめで、ソーシャルディスタンスを気にしてなのか離れた席を案内されました。それでも、店のおかあさんは元気そうでした。

 また暇を見つけて、あのごくふつうのハムエッグを食べに行こうかな。席に着く前に「今日はお茶だけでええわ」とか言ってみたら常連さんになったような気分になれるかな。そんな風に考えながら次回の訪問を楽しみにしています。

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